ペラヘラという祭りをなめていた。
交通規制が敷かれたエリア内は、車道と歩道が柵で区切られ、歩道の中は、見物客で埋め尽くされていた。
車道に立っていると、警官が寄ってきて、どこかに移動せよと言ってくる。
どこかに少しでも隙間があれば…と淡い期待を抱きながら、うろうろしてみるが、自分たちが立ち入れるスペースなんてまったくなかった。
車道を歩きながらそんなことを考えていると、「ハロー」と、チャラそうなスリランカ人の兄ちゃんが声をかけてきた。
「祭りを見にきたの?」
そう。大人気だね。こんなに混んでいるとは思わなかった。
「この時間だと、ほとんど席はないよ」
そのようだね。
「でも、僕は席を紹介することができる」
ダフ屋だった。
そうなんだ。
「とても良い席ではないかもしれないけれど、落ち着いて見ることができる椅子席が用意できるよ」
と兄ちゃんが指さしたのは、祭りのコースに面して建っている靴屋の軒先だった。
店前の歩道には、びっしりスリランカ人が座り込み、祭りの開始を今か今かと待っている。
「あのスニーカーショップの店の先に椅子がある。そこで祭りを見ることができるんだ。もし途中でトイレに行きたくなってら、店のトイレを自由に使える。歩道の席より、高い位置にあるので、邪魔されず祭りを見ることができる。どうだい?」
軒先にプラスチック製の背もたれ付きの椅子が並べられている。
その中の最前列に座っていいみたいだ。
それでいくらなの?
「一人3000Rs.(約2500円)」
高いね。
「祭りだからね」
もう少し安い席はある?
「どうなんだろう? うちは、もうこの値段以下にはできないんだ。もうすぐ祭りが始まる。決めるなら、今だよ」
ルート上には人が集まりつつあった。
本当にもうすぐ始まりそうだ。
ここで、多少の金額をけちって見れないよりは、しっかり払ってでも確実に祭りを見たい。
OK、お金を払うよ。
「ありがとう! よい思い出になりますように」
嫁さんとの2人分で6000Rs.を払った。
今日スリランカに着いたばかりで、ほとんどこの国の物価もわかっていないので、この金額が高いのか、相場なのか、さっぱりわからない。
おそらくそこそこボラれているのだろうが、こうなったら、楽しむしかないだろう。
祭りが、始まる。
半裸の男たちが現れ、太鼓の音に合わせ、ファイヤーダンスを行う。
よく見ると、リズムも、衣装もそれぞれ異なっているので、いろんな地域が順番にやってくるのだろう。
そして、メイン。
それは、普段は寺院に祀られているブッダの歯だ。
聖なる象の背に揺られて、街を巡るのだ。
象が見え始めると、みんな総立ち。
立ち上がらねばならないルールのよう。
そして、拝み始まる。
LEDの電飾を体中につけられた象の背に、ひときわ輝く宝物!
スリランカの国宝だ!
ブッダの歯だ!
ありがたや!
南無阿弥陀仏!
南無妙法蓮華経!
南無大師遍照金剛!
オムマニペメフム!
ブッダの葉が過ぎ去っていったのちも、祭りはまだまだ続いた。
そして、人がまったく去らないので、帰ることもできず、ずっと席から延々とファイヤーダンスを見ているのだった。
終了したのは、深夜12時。
準備が悪かったので、晩ごはんも食べてないし、水も飲んでいない…。
疲れた…。
(つづく)