放浪日記

刮目せよ、我等が愚行を。

モグモグ隊 高雄遠征 第11話

2019年04月26日 | モグモグ隊

モグモグ隊 高雄遠征メンバー
(を):をきな(絶対的リーダー)
(や):やはぎ(特攻隊長兼撮影主任)
(し):シェリー(見習い隊員)
(に):にいや(永久幹事)



海鮮料理からのマンゴーかき氷&肉まんを頬張った我々は、帰路デパートなどに寄り、家族への献上品を見繕いながら、宿へと戻った。
連続して胃の中に侵入してくる台湾グルメの猛攻は、しかしまだ終わらない。
今夜は、この遠征の最後の晩餐が待ち構えているのだ。
もう目の前に迫った最後の格闘を控え、悪寒と吐き気という武者震いで気持ちを抑えつつ、我々4名は武士の顔となり、その決戦の時に向けて精神統一を行っていた。





やがて日は落ち、闇夜が街を支配する。
月夜である。



「時は来た。それだけだ!」
モグモグ隊の破壊王(や)は、意識せず、橋本真也のセリフをそのまま使った。
そう、ディナーの時間だ。


「んー、どうすんのー?」と、おちゃらけムードで軽くジャブを言い放つリーダー(を)。そのちゃらけた口調が余計に、この一戦にかける想いが伝わってこようというもの。

(し)は「……」と無言を貫く。若干顔色が悪くなっている気もするが、初めての遠征での緊張もピークに達しているのだろう。オエッ…というゲップのような溜め息も聞こえてくるようだ。


「さて、では、高雄遠征の最後の晩餐のメニューを発表します」と(に)。

そうなのだ、この束の間の休息を切望していたのは、幹事の(に)であった。
台北遠征に続いてのこの戦。当初から最後の最後の食事は、リーダーのご機嫌をとろうと忖度した結果、前回のMVS(モットモ・オイシカッタ・ショクジ)を受賞した「ガチョウ」と決めていたのだったが、今回はこのカードをすでに切ってしまっていた。
では、これを超える飯は何を食せばよいのか。高雄ならではの食は何なのか。
メンバーが膨れ上がった腹をさすりながらミニファミコンに興じている間、(に)は煩悶した。
そして、見つけたのだ。



(に)「最後の晩餐のメニューは…」
(を)「なに? なに?」
(や)「いつ何どき、誰の挑戦でも受ける!」
(し)「ぶっちゃけ、もうお腹が…」

(に)「最後のメニューは、山羊です!」
(皆)「や…ぎ……?」

(に)「そう、ヤギです。実は高雄の市街地から離れた岡山という町は、台湾きってのヤギ料理の本場。日本では沖縄以外ではなかなか食べる機会がないヤギ料…」
(や)「ちょっと待て」
(に)「ん?」
(や)「今何て言った?」
(に)「なかなか食べる機会のないヤギ料理…」
(や)「その前」
(に)「ヤギ料理の本場に…」
(や)「それや。高雄じゃない?」
(に)「あ、気になっているの、そこ? そう高雄から少し離れた、岡山ってところ。おっと、でも心配ご無用。高雄駅から電車もあるし、地下鉄だって走ってい…」
(を)「却下」
(に)「え?」
(を)「もう遠いの嫌。自転車乗って疲れたの」
(し)「うそやん」
(や)「いやほんまに。もうええやん、近場で」
(に)「まさかの」
(を)「近さこそ正義」
(に)「ヤギ料理は…」
(を)「それは問題ない。食べたことないし」
(や)「飯については何も言っとらんじゃろ」
(し)「おいおい、どうなってんだ」
(に)「近場でヤギ料理であればいいと」
(を)「わかればよろしい」
(に)「と、そんなこともあろうかと、近くの山羊料理店もチェック済みですわ」
(し)「まさかの展開!」
(を)「さすがやな」
(に)「歩いて行くのは少々かかりそうなので、タクシー乗りますけど、それくらいは大丈夫ですよね」
(皆)「問題なし」


ということで、モグモグ隊台湾遠征の最後の夜の食事は、ヤギ料理となったのだった。

宿の前からタクシーに乗り、とりあえずこのあたりでというアバウトな説明で現地に到着。
(に)が見つけていた通りは、ヤギ料理の店が何軒も並んでいるいわばプチ山羊料理街だったのだった。
ただ、どの店が美味しいのか、それはわからない。現地に行って、一番繁盛している店に入るというのが今回の作戦だった。





闇夜に浮かぶ「羊肉」の文字。


散歩を兼ねて何軒かの店をチェックしたところ、ダントツで混雑していたのが、ここだった。




喜峰羊肉店





看板の山羊が、何とも頼りなさげ。



一見屋台風の店だが、調理場の奥には飲食スペースがあり、すでに満員状態で高雄市民が山羊肉を頬張っているのが見てとれる。

そして何より、バイクに乗ってテイクアウトするためにやって来た客が、十数人も並んでおり、その行列こそが、この店がとんでもない人気店であることを証明しているのだった。





店の人は大忙し。
モグモグ隊の来襲に目もくれず、テキパキと料理をつくっている。何とも頼もしい。





店の前のガラスケース内には、新鮮な山羊肉がてんこもり。
肉においては素人だが、この肉が新鮮であることは、色だけを見てもわかるぜ。
期待が高まるってもんだ。


いざ出陣。
図々しく店の中に入ったが、店の繁忙時間帯なのか、店員もあっちへ行ったりこっちへ来たりと、めまぐるしく動き回り、完全に我々4名は取り残されている。アウェー感満載だが、ここでビビってはモグモグの名がすたる。目の前に美味しそうなものがある限り、何でもする覚悟である。

狭い店内を見回すと、空席があるのは入口に最も近い円卓のみ。
「もう勝手に座っちゃいましょ」と(に)。
メニューが店内に書かれていないので、多分メニュー表があるものと勝手に判断。
店員の隙を見て声をかける。

もちろん下手な中国語なので、最初は「おいおい、こんな店にガイジンが来ちゃったよ、めんどくせーなー」的な扱いだったが、そこは笑顔でカバー。
メニューはなかったが、鉛筆を紙を手渡される。食べたいメニューの横に皿数を書いて渡すシステムだ。値段もバッチリ明記されているので、安心である。
ついでに奥の冷蔵庫から勝手にビール瓶を数本拝借して、宴会のスタートだ(台湾の庶民食堂では一般的なスタイルです)。


メニューを見ても、山羊肉ということはわかるが、何がなんだかわからない。
ええいままよ、とまさに適当に数字を記入。
何が出てきても、我々4人の胃袋をもってしたら、恐れるに足りず。



しばらくはビールをチビチビやりながら、待つこと約10分。
繁盛している店だけに、待つのはしょうがない。
ひっきりなしに出来立て料理が我々の横を運ばれていき、その匂いだけでもおいしいことがわかる。


そして、やってきました!




一皿目。
山羊肉とネギを炒めたもの。
ほかのテーブルを見ても、ほとんどがこれを頼んでいたので看板メニューに違いない!


皆が箸をつけようかというタイミングで、まさかの第二陣が到着。



二皿目。
山羊肉と筍を炒めたもの。



三皿目。
山羊肉と菜っ葉を炒めたもの。



おいおい、全部似たようなものじゃねーか、というツッコミも聞こえそうだが、我々の視線はもう皿に釘付けである。

そしてリーダーの「いただきます!」の合図を号砲代わりに、一口。




う、うまい!


と皆が口を揃える美味しさ!
「おいおい、待ってくれよ」とまだ前の肉を噛みながら、次の箸を進めるリーダー。
無言で3名を牽制しつつ、「むほっ、むほっ」と換気の嗚咽を漏らす(や)。
「お腹いっぱいかと思ってましたが、これはいけますわ」と(し)。
自分で選んでおいて、まさかこれほど美味しい山羊肉が食べられるとはと驚愕の(に)。

山羊肉というのは、独特の匂いがあって、慣れない人は受け付けづらいものであるが、この店の肉は、まったく匂いがしない。むしろ、日本のスーパーで売っている牛肉のほうが匂いがするくらいだ。高雄市民が並ぶのもうなずける味である。

三皿の山羊肉は怒濤の勢いで4名の口内に消えていく。


スープが運ばれてきた。



モツスープなのだが、生姜がアクセントとなって、これまでの料理の脂っぽさを消し去ってくれる一品だ。


(や)「スープのいいけど、山羊肉がめっちゃうまし! ビールにめっちゃあうやんけ」
(し)「ヤギ、舐めてました」
(に)「このレベルの山羊肉は、相当なもんですよ、本当に」
(を)「…」
(や)「おや、どうしました?」
(を)「…いや、(や)が言うように、めっちゃうまいんやけどな、これ、もしかして白ご飯だともっと美味しいンじゃないかって思うんやが」
(し)「確かに、ご飯がススム君の味ですな」
(に)「ふふふ、ご心配なさるな。すでにご飯は頼んでおりますゆえ」
(を)「ぬかりないのぉ」


そして、最後に運ばれてきたのが、




「チャーハンを頼んじゃいましたー」と勝ち誇ったような(に)。

しかし、その形状は、中華圏でよくあるパラッパラの炒飯ではなく、何となくベッチャっとしていた…。スプーンですくってみても、何かしらの水分でご飯がひとまとまりになっている。

(を)「これ…」
(し)「ベタついてる感じしますね」
(を)「っていうか、ベタついてるな」
(や)「…言いたかないが、失敗ちゃうんか、これ」
(に)「い、いや、でも、こんなに美味しい店で…。でも、これ、どう見ても炒飯じゃない…」
(し)「リゾット的な」
(を)「鍋の締めみたいな感じやぞ」
(や)「まあでも、しゃあないっすわ」


と、全員罰ゲーム的なノリで、パクリ。









う、うまー!





おいおい、なんじゃこりゃ。
とんでもねえくらいの出汁が口の中に充満する!
ヤギの肉の旨味だけを、米に吸わせてる
これはチャーハンじゃねえ、リゾットだ。でも、とんでもなくうまいリゾットだ!

全員、歓喜。
この美味しさを文章で表現するのは、正直僕の筆力では限界である。
騙されたと思って、ぜひこの店に足を運んで、食べていただきたい。



美味に囲まれる食卓。
至福のひとときである。
それは旅先の一期一会の出会いであれば、なおさらである。


喜峰羊肉店。
羊肉とは書いていても、ヤギの肉を出す名店であった。

この味への賛辞を述べ、口が乾けばキンキンに冷えたビールを流し込む
次々に消えていく料理を前に、残りを誰が食べるのか、我々は野生の勘を取り戻した虎のごとく、互いを牽制し合って、皿の脂一滴まで食べ尽くしたのであった。







後ろ髪を引かれる思いで店を出る。
大満足という三文字を脳裏に浮かべながら、惜別の写真を撮った。
夜もかなり更けてきていたが、店の前には大勢の地元民が列をなしていた。




我々はタクシーに乗ることも忘れ、腹ごなしに徒歩で宿に戻ることにした。





が、




帰路、まさかの夜市を発見。



(を)「うーん、なんだか、まだいけそうな気がする」


ということで、


あんだけ山羊肉を食べたにもかかわらず、





牡蠣オムレツ。



唐揚げ。



夜食の麺。


をお買い上げ&テイクアウト。



ホテルの部屋で、宴会の続きを行った我々であった。


(し)「まだ食べるんすか…」


※麺は(を)だけが貪り食った。


(つづく)