wakabyの物見遊山

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脳内にあるやる気のスイッチとは

2017-03-26 09:00:04 | 脳科学・心理学
引きこもりになっている人を見ていると、そんなにうつの度合いは高くないのに、活動性が上がってこないということがあります。やる気が出てこないようです。うつや不安を減らしていくことは大事ですが、同時にやる気を高めるなんらかの方法が必要なんじゃないかと思うようになってきました。
エレーヌ・フォックスの「脳科学は人格を変えられるか?」によれば、ネガティブな心の動きを担当する脳の回路を「レイニーブレイン(悲観脳)」、ポジティブな心の動きを担当する脳の回路を「サニーブレイン(楽観脳)」と呼んでいます。サニーブレインの中ではドーパミンとオピオイドが重要で、ドーパミンやオピオイドは側坐核で分泌されます。一方、大脳皮質にある前頭前野は側坐核にブレーキをかけるはたらきをし、側坐核と前頭前野からなるユニットがサニーブレインの回路を構成しているとしています。
最近、脳内のやる気スイッチがマウスを用いた実験で発見されたという研究報告がありました。それは大脳基底核の線条体というところにあるドーパミン受容体を持ったニューロン(神経細胞)で、上記のサニーブレインとは別個に、あるいは協力してはたらいているのかもしれません。慶応大学から出されたプレスリリースを紹介したいと思います。

研究の概要は、
『このたび、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授(他省略)らの共同研究グループは、マウスを用いた実験で意欲障害の原因となる脳内の部位を特定しました。意欲障害は、認知症や脳血管障害など、多くの神経疾患で見られる病態ですが、その原因については、脳が広範囲に障害を受けたときに起こるということ以外分かっていませんでした。研究グループは、大脳基底核と呼ばれる脳領域の限られた細胞集団が障害を受けるだけで、意欲が障害されること、この細胞集団が健康でないと意欲を維持できないことを発見しました。今後は、この意欲障害モデル動物を用いて、これまで治療法が全く分かっていなかった脳損傷後の意欲障害における治療法を探索することが可能になります。本研究成果は、2017年2月1日に総合科学雑誌であるNature Communicationsに掲載されました。』

研究の背景は、
『認知症などの神経変性疾患、脳血管障害や脳外傷などの脳の障害では、いずれも高い頻度で意欲障害が認められます。いわゆる「やる気がない」という症状であり、リハビリテーションの阻害因子として患者さん本人のQOL(quality of life)を低下させるのみならず、介護者の意欲を削ぐ要因にもなります。うつ病の意欲障害には、抗うつ薬という治療の選択肢がありますが、損傷脳の意欲障害にはどの薬が有効で、何が無効かなど治療薬選択について全く分かっていません。その一つの要因として、損傷脳の意欲障害がどのようなメカニズムによって発生するのか全く分かっていないので、候補薬さえも挙げられない状況です。』

研究の内容は、
『研究グループは、脳の特定部位である線条体の損傷によって意欲障害を起こす頻度が高い臨床結果を参考にして、線条体を構成する一つの細胞集団、ドパミン受容体2型陽性中型有棘ニューロン(以下D2-MSN)に注目しました。実験者が任意のタイミングでD2-MSNを除去することができる遺伝子改変マウスを作出し、意欲評価の実験を行いました。マウスの意欲の評価には比率累進課題と呼ばれる餌報酬を用いた行動実験を用いました。あらかじめマウスに課題を学習させておき、マウスの意欲レベルを調べます。その後、D2-MSNだけに神経毒を発現させて徐々に細胞死させます。もしもD2-MSNが意欲行動をコントロールするならば、D2-MSNの細胞死によって、マウスの意欲レベルは下がるはずです。また、意欲の低下が線条体のどの部位の損傷で、どの程度の損傷の大きさで起こるのかわかるはずです。研究の結果、線条体の腹外側(図)の障害で、かつ、その領域のわずか17%の細胞死によって意欲障害が起こることが分かりました。(以下省略)』


図.線条体の腹外側

研究の意義と今後の展開は、
『動物を使った意欲の研究では、おいしい餌を報酬とする場合と、覚せい剤のような依存性薬物を報酬とする場合があります。依存性薬物を希求する意欲の責任脳部位として線条体の腹内側部が知られていましたが、おいしい餌のような生理的な欲求に対する意欲の責任脳部位は分かっていませんでした。本研究によって、その責任脳部位が線条体腹外側部であること、中でもD2-MSNが意欲の制御に働いていることが明らかになりました。他にもいくつかの部位が「やる気」を生むのに必要であると想像されていますが、本研究によって初めて、やる気を維持する脳部位・細胞種を明確に示しました。損傷脳の意欲障害のモデル動物が樹立できましたので、今後はこのモデル動物を用いて、意欲障害を改善する薬剤を探索することができます。』

以上のようにこの研究では、認知症、脳血管障害や脳外傷などの明確な脳障害が想定されていますが、引きこもりや日常的にも起こるやる気の低下といったより身近な脳の問題にも関係する部位の一つが見出されたと考えられます。どうしたらD2-MSNという細胞を活性化できるかはこれからの研究課題となるでしょう。

娘が鎌倉アルプスで山デビュー

2017-03-18 15:15:43 | 鎌倉
娘がとうとう山デビューしました(2017年3月12日)。

去年の夏ごろからいっしょに山登りに行こうと誘っていたのですが、なかなかその気にならず。最近になって、「鎌倉アルプス(天園ハイキングコース)に行けばリスもいるし探検して何かおもしろいものを見つけられるかも」と言ったら、娘は「何か見つけたらスケッチしたい」とやっと行く気になってくれたのでした。最大標高が159mという低山とはいっても、切り立った崖の上を歩くような危険な場所もけっこう多く、意外と本格的な山歩き気分を味わえるコースです。北鎌倉駅から杉本寺近くのバス停まで約5㎞、休み休み進んで5時間くらいかかったでしょうか。娘は最後まで歩き切ることができました。
私自身は、2014年1月11日に箱根の矢倉岳に登ったのを最後に、子どもの面倒を見るために山歩きを自粛していたので、3年2カ月ぶりの山歩きとなりました。


北鎌倉駅から歩いてきて建長寺に入ります。


三門の下の賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ、仏弟子十六羅漢一番)。自分が痛いところをさわるといいそうです。


奥にある半僧坊に向かって階段を上っていきます。


子どもには急でたいへんな階段です。


半僧坊の前には天狗が待ちかまえています。



さらに一気に登っていくと、勝上献という展望台(145m)に着きました。ここからは建長寺の境内だけでなく鎌倉の街や海まで望めます。


あとは本格的な山道です。


娘は最初は親と手をつないで歩いていましたが、慣れてくると一人で歩くようになりました。



大平山頂上(159m)に着きました。まずはおめでとう。


近くは広場になっていて、ランチを食べている人たちがたくさんいます。


私たちは少し先の、天園峠の茶屋まで行きました。以前はテーブルやイスが置いてあったのですが、更地になってしまったので、コンクリートの上に座ってお昼を食べました。ここも眺めはいいです。


さらに歩きます。このような平坦な道は楽です。


道端に咲いていたスイセンを見つけてスケッチを始めました。
このあたりにはタイワンリスがたくさんいたのですが、1匹だけちらっと見えただけでした。まだ冬眠中かもしれません。


山道は終わり、瑞泉寺までやってきました。
ここは花の寺。


花木園のようなところで、この小さい花をいっしょにスケッチしました。
あとで調べたら、ショカッサイ、またはオオアラセイトウというアブラナ科の植物のようです。


瑞泉寺境内に向かいます。


本堂。


ショカッサイがたくさん咲いています。


有名な夢想疎石の庭園。



京都にあるような庭園と違うこの無骨な庭園に最初見たときはあっけにとられましたが、だんだん味わいが感じられるようになってきました。

このあとジンチョウゲをスケッチして、金沢街道にあるバス停まで歩きました。
娘ははじめての山歩きでしたがよくかんばりました。途中、アスレチックのようでおもしろいと言っていたので、また折をみて山歩きを計画したいと思っています。

代官山ヒルサイドテラス、T-SITE、ひつじのショーン・オークション

2017-03-11 18:11:40 | 東京・川崎
代官山のヒルサイドテラスあたりを散策してきました(2017年3月5日)。

代官山の旧山手通りぞいにあるヒルサイドテラスや最近できたT-SITEなどにはじめて行ってきました。きれいな建築が多くて目の保養になりますね。蔦屋書店が運営するT-SITEでは、ひつじのショーン・イン・シブヤというのをやっていて、様々なアーティストのデザインしたひつじのショーン30匹が敷地内のあちこちに展示されていて、オークションで販売されるというイベントをやっていました。


ハリウッド・ランチ・マーケットという有名なデニムショップだとか。



デンマーク大使館


ヒルサイド・マーケットというところでは益子陶器の市が行われていて、これは妻のお目当てのイベント。益子で活動する若い作家さんたちが作品を販売していました。昔ながらの厚手の田舎っぽい益子焼ではなくて、今風のすっきりした陶器ばかりでした。代官山にもってきても違和感のない品々ではありますが、そういう時代の流れでもあるのでしょうか。



イタリアンレストランASO


となりのPROUDはなんでしょうか。


T-SITE。


レストラン・マダムトキ。
手前に止まっているのはマスタング・マッハ1じゃないですか。


西郷山公園。


眺めがいいところでランチしました。


河津桜でしょうか、満開です。






エジプト大使館。

T-SITEにもどって、展示されていたひつじのショーンたちを見てください。すべて娘がいっしょに写っていますがご容赦を。

No.7 ひつじのショーン(ひつじのショーン)


N0.4 ハロ―キティモデル(山口裕子(ハローキティ デザイナー))


No.23 BE HAPPY.(SHOGO SEKINE)


No.5 ユニオンジャックモデル(ブリティッシュ・カウンシル)


No.10 Shaun Shaggybreeches(Peter Lord/Aardman)


左から、No.26 お寿司のショーン(クライン ダイサム アーキテクツ)、No.22 Hana5(ハナコ)(Hana4)、No.2 シュガシュガルーンモデル(安野モヨコ)、No.1 エヴァンゲリオンモデル(庵野秀明・山下いくと)


左から、No.19 Prairie Sheep(TakuYoshimizu)、No.30 For the Children


No.27 PADDINGTON SHAUN(Paddington)


No.17 絵かきのショーン(市原淳)


No.16 扇面貼交ショーン(せんめんはりまぜしょーん)(山本太郎)


No.8 サンダーバード ARE GO(PROTO-TYPE INC)


No.13 Flockabilly(Danny Heffer/Aardman)


No.18 ぬいぐるみ系(藤浩志)

最後にオークションをのぞき込んだら、ある作品は57万円で落札されていました。広い庭があれば、世界に一体だけのこんな作品を置いておくのもわるくないですね。

書評「村上隆のスーパーフラット・コレクション (村上隆)」

2017-03-04 08:26:09 | 書評(アート・音楽)


本書は、横浜美術館で2016年1月30日~4月3日に開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション-蕭白、魯山人からキーファーまで」の展覧会図録である。村上隆は現代アートの作家として世界的にも著名であるが、膨大な現代アートや工芸品などの個人コレクションをお披露目したのがこの展覧会であった。私は、この展覧会を見てたいへん満足した。つまり、現代アートというものにおそらく初めて興味を持つようになるくらいのインパクトをもたらしてくれたからである。
展覧会会期中にこの図録を予約したときの価格は3,600円、発売後の価格はその2倍くらいが予定されていたと思うが、実際には定価10,800円で発売された。しかし、内容を見るとさらにその倍くらい、2万円くらいしてもおかしくない充実ぶりである。また、2016年6月が発売予定日であったが、制作が遅れて9月に発売されており、ずいぶん労力をかけて作られた本だということがうかがえる。

このような膨大、高額なコレクションを収集するにはそうとうな物欲が原動力になっているはずだ。村上隆は同時期に「村上隆の五百羅漢図展」という仏教の五百羅漢を題材にした巨大な絵画の展覧会を開催していた。少し気にはなっていたが、結局見に行かなかった。そこには、いわゆる仏教画や禅画が持っているような精神性はなかっただろう。静逸な仏心からは程遠いものだっただろう。それこそスーパーフラットな、かたちだけ拝借した仏画だったのではないだろうか。

彼の絵画が好きではなくても、このスーパーフラット・コレクション図録はすばらしい。私は、マルセル・ザマやクララ・クリスタローヴァといった自分好みの作家を見つけることができた。また、この本には展示作品の写真・説明だけでなく、関係者による解説、エッセイや対談なども載せられている。例えば次のようなところが目にとまった。

オーストラリアの美術品収集家デイヴィッド・ウォルシュと村上隆の「コレクター対談」では、美術品コレクターについてウォルシュが興味深い分析を展開している。それによると、芸術やその収集は生物学的現象であり、「これだけ無駄なエネルギーを使えるんだから、俺はグループの中でそれなりの地位について尊敬を受けて当然だ。」と言いたいという、生物学でいう適応度を示す指標だという。実際に、ウォルシュがオーナーを務める美術館Monaに科学者たちを招いて進化にまつわる理論をキュレートした展覧会の開催を予定している。また、収集には「授かり効果」という認知バイアスが働いていて、自分の所有物を過大評価していると、自分が希望する値段を払ってそれを買ってくれる人はいないので、自分のところにどんどん物がたまっていくとか。Monaでは、美術品への説明書きを取り払うことで、ニュートラルな空間とし、社会的な価値という装飾を切り離し何が良いものか自分自身で決めてもらうようにしているという。
陶芸店「桃居」のオーナー広瀬一郎は、近代現代の日本陶芸の流れとして30年をスパンとしたトレンドの変換として解説していて、これも興味深い。そこには世界に影響力を持ちうるようになった日本の文化の潮流とのリンクがある。

さて、一点残念だったのは、作家名でひける索引のようなものがついていないことである。この本には、現代アートの図鑑のような価値もあるのだから、そのような使いかたもできるようにしてほしかった。