ポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は一昨年、米アカデミー賞作品賞に輝いた▼パラサイトは寄生虫のこと。窓が外の路面とほぼ同じ高さの半地下住宅で暮らす貧しいキム一家が経歴を偽り、家庭教師や運転手などとして高台の邸宅に住む富豪パク一家に食い込み、収入を得る▼貧富の格差が豪雨で浮き彫りになる場面がある。滝のような水が高い所から低い所へ。高台のパク邸は無事だが、キム一家の半地下の家はみるみる浸水する。便器から汚水が噴き出し、部屋の浸水はやがて首ほどの深さになる▼韓国で最近、大雨が続いた。ソウルの半地下住宅では浸水被害により家族三人が死亡したと伝えられた。障害のある女性や少女らといい、胸が痛む▼低所得層らが暮らす韓国の半地下、地下の住宅は三十万世帯以上といわれ「予見された惨事」との声も。雨量は観測史上最大級と報じられた。日本では、経験したことがないような豪雨の頻発に地球温暖化の影響が指摘されるが、隣国も同様なのかもしれない▼温暖化による海面上昇で国土水没が懸念されている南太平洋の島国ツバルの外相が、国連の会議に合わせて自国で、ひざ付近まで海水に漬かり演説する動画が公開されたのは昨年。昔は陸だった場所で、危機は進行中だと訴えた。低地の持たざる人々から襲われる現実は映画に劣らず、過酷である。