花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

保守と革新

2019-06-17 21:51:11 | Weblog
 6月15日(土)付・朝日新聞朝刊の読書欄には、宇野重規東大教授の「若者の政治意識 自明性を失う『保守』と『革新』」と題した書評が載っていました。世代間の政治意識の違いをテーマに三冊の本を取り上げたもので、どのような違いがあるかを記事に沿って紹介してみます。「高齢者が共産党をもっとも革新的な政党と見ているのに対し、若年層は日本維新の会をもっとも革新的と考えている」(「イデオロギーと日本政治」遠藤晶久、ウィリー・ジョウ著 新泉社刊)、これまで「憲法や安全保障といった争点を中心に保守と革新の対立軸が形成されてきた」が、「40代以下の層においてはむしろ、『既得権益への挑戦』や『改革派』のアピールこそが『革新』の判断基準とな」っているそうです。
 また、橘玲著「朝日ぎらい」(朝日新書)では、「70代以上では、もっとも保守的なのが自民党であり、共産党がリベラルに位置づけられている。これに対し18~29歳では、もっとも保守的なのが公明党で、次いで共産党、もっともリベラルなのが日本維新の会である」と、読売新聞・早稲田大学共同世論調査(2017年)に依拠しつつ、「50代以上と40代以下の間に断層があるとすれば、その原因は冷戦の終焉とバブル崩壊にあ」り、「『変わらなければ、生き残れない』と言われ続けたバブル以降の世代にとって、年功序列・終身雇用という日本型雇用制度を守ろうとする年上世代は『保守』以外の何ものでもな」く、「かつて『リベラル』だった世代が高齢化することで、言葉の意味が入れ替わった」と指摘しています。
 しかし、「かつて『リベラル』だった世代が高齢化」したとの見方に対して、「武器としての世論調査」(三春充希著 ちくま新書)は、「若年層において『支持政党なし』や『わからない』と回答する人が多いことに注目」し、「与党であれ、野党であれ、若い世代ほど支持率は下がる。ただし、その下がり方には違いがあり、野党の方がより激しい。与党支持がかろうじて残っているのに対し、野党支持が劇的に減ったのである。結果として、投票に行った人に限って言えば、与党支持が相対的に多くなる。したがって、いまや自民党は若年層にこそ支持されているという議論は誤りである」と分析しています。
 そして、宇野教授は、「現在の50代以上にとって自明であった『保守』と『革新』の区分は、40代以下の世代にとって自明性を失っている。若い世代にとって、どの政党を支持すべきかについて迷いがある以上、政党再編以上に、政党を評価する軸の再編が急務と言えるだろう」と結んでいます。
 護憲、平和主義を主張してきたリベラル派が主義信条を守っているうちに、主義信条の中身によってではなく、主義信条を「守ってきた」が故に、保守的と見なされるようになったのかと思います。方や、政治的争点に際して声の大きさ、あるいは政治を動かしているかのようなパフォーマンスによって革新的と見られている勢力があり、これとて主義信条の中身によるものでないことは同様でしょう。おそらく中選挙区制から小選挙区制へ移行したあたりから顕著になってきたポピュリズムが、この傾向に拍車を掛けたのだと思います。
 保守と革新の評価軸に世代間の大きなズレが生じているのは確かでしょう。では、宇野教授がおっしゃる「政党を評価する軸の再編」を考える時、私は政治的手法を見るのもひとつの手ではないかと思います。政策的な選択肢はその時々で変わり得ます。現に、「老後に2000万円必要」と言った大臣は、批判の矛先が向けられるや否や簡単になかったことにしています。政権を守るためとあらば、有権者の顔色を窺いながらいくらでもお色直しをしてくるでしょう。けれども、政治的合意を形成するそのやり方はなかなか変わらないものです。政治手法の如何を保守‐革新の二項対立に変わる物差しとするには、政治手法の合法性・妥当性の度合いを見極める目を養う必要があると思います。