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ポストスクス (ロリカタ類)



ポストスクスは、三畳紀後期ノリアンに米国南部(テキサス、アリゾナ、ニューメキシコ州)に生息した基盤的なロリカタ類である。Chatterjee (1985) は12体の標本を記載しているが、現在では大型の2体だけがポストスクスで、小型の10体はポポサウルス類のものと考えられている。ホロタイプとパラタイプを合わせて、全身の75%の骨格が見つかっている。Weinbaum (2013) の研究により、前肢と後肢の比率(手は足の30%しかない)や脊椎の特徴から、二足歩行していたと考えられている。

詳しい方はご存知のように、三畳紀後期の地上の頂上捕食者は恐竜ではなく、いわゆるラウイスクス類である。ラウイスクス類は広義のワニ類の系統である偽鰐類Pseudosuchia (かつてのクルロタルシ) に属し、完全に直立した四足歩行(一部は二足歩行)を実現し、獣脚類のような丈の高い頭骨と強力な顎を備えた大型肉食動物である。アルゼンチンのサウロスクス、ブラジルのプレストスクス、ドイツのバトラコトムス、北米のポストスクスなどが有名で、特にポストスクスはコエロフィシスなど初期の小型恐竜とのからみがよく描かれる。

このラウイスクス類は、2011年以降の系統解析で単系群(クレード)ではなく、ロリカタ類Loricataというグループの一部であるとされている。ロリカタ類には上記のいわゆるラウイスクス類と、三畳紀末を越えて発展し現生ワニ類を含む非常に多様なワニ形類Crocodylomorphaが含まれる。つまり、いわゆるラウイスクス類は、ロリカタ類の基盤的なメンバーということになる。ロリカタ類の中では、プレストスクスやサウロスクスなどが基盤的な四足歩行の種類で、ポストスクスとラウイスクスはラウイスキダエRauisuchidae というクレードをなし、これがワニ形類と姉妹群をなす。つまり、プレストスクスなどに比べて、ポストスクスはほんの少し現生ワニに近縁という形になる。

ロリカタ類の頭骨は肉食恐竜と似ているが、それぞれ個性がある。プレストスクスやサウロスクスなどの頭骨はイヌ形というか、ティラノサウルス類にも似た顔をしている。一方ポストスクスの頭骨は吻が短めで、イメージとしてはオオカミというよりもトラに近い顔をしている。このように顔が短くて歯が大きい頭骨は獣脚類にもみられないと思う。強いて言えばタルボサウルスの丈の高い(太短い)頭骨(ポーランドの標本)に似ているか。この、ちょっとネコ科っぽい顔は特徴的ではないだろうか。(白亜紀の小型のノトスクス類にはもっとネコっぽいものもいる。)いかにも最強そうな顔つきである。

Weinbaum (2011) によるホロタイプの頭骨の再記載により、ポストスクスは皮骨の窪みや孔など、いくつかの共有派生形質をワニ形類と共有することがわかった。また、眼窩の上のひさし状(扇形)の骨はこれまで前前頭骨と考えられてきたが、独立した眼瞼骨palpebral であることがわかった。眼瞼骨はポストスクスとポーランドのポロノスクスにはあるが、他のラウイスクス類にはみられないものである。
ポストスクスの固有形質は、上顎骨の側面に顕著な粗面のある稜があることと、上顎骨の上行突起の前内側面の窪みに孔があることである。


他の基盤的なロリカタ類も異歯性を示すが、ポストスクスの歯列では異歯性の程度が他の種類よりやや強い。前上顎骨歯はやや反った杭状で断面は円形に近い。最も前方の上顎骨歯は前上顎骨歯と同じ形状で小さい。2番目以後の前方の上顎骨歯は大きくナイフ状で側扁しており、カーブした前縁と比較的まっすぐな後縁をもつ。この形態はサウロスクスやバトラコトムスと同様である。ポポサウルス類アリゾナサウルスの歯は似ているが、”ラウイスクス類”ほど反っていない。ポストスクスの後方の上顎骨歯はより小さく、歯冠の基部がくびれている。これはスフェノスクスやへスぺロスクスのようなワニ形類の歯と同様である。



参考文献
Weinbaum, Jonathan C. (2011) The skull of Postosuchus kirkpatricki (Archosauria: Paracrocodyliformes) from the Upper Triassic of the United States. PaleoBios 30(1):18–44.

Weinbaum, Jonathan C. (2013) Postcranial skeleton of Postosuchus kirkpatricki (Archosauria: Paracrocodylomorpha), from the upper Triassic of the United States. Geological Society, London, Special Publications v.379, first published February 13, 2013; doi 10.1144/SP379.7
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2021 恐竜科学博ララミディア


いやー久々に満喫しました。昨年はあらゆるイベントが絶滅していた反動か、今年は各地で恐竜展が目白押しなわけですが。まずはパシフィコ横浜の恐竜科学博ーララミディア大陸の恐竜物語ーに行ってきた。もちろん土日祝日は日時指定で、感染防止対策ばっちりで。それでも夏休みに、恐竜が見られるありがたさ。暑いとか、混んでるとか子供がうるさいとか文句を言いながらも、大変充実した時間を過ごすことができて幸せなことである。普通に恐竜が見られることが、いかにありがたいか痛感する。

構成がよくできている。最初のイントロと最後のクライマックス、白亜紀の世界のところは映像で一体感を出すのは定石通り。今回、ララミディア大陸の説明と当時の生態系の概要の次は、早速トリケラトプス、エドモントサウルス、ティラノサウルス、その他の恐竜とコンパクトな説明ブースになっている。満身創痍のゴルゴサウルスの病理学、歯のいろいろ、皮膚痕など外表組織、足跡など生痕化石と、基本的な解説は簡潔に前半で済ませている。ここにあるトリケラ、ティラノ、エドモントの3D映像は本当に立体的に見える。新宿東口でも、巨大三毛猫の代わりに時々これを映してもらいたい。

そして後半に行くと、最新技術で作成されたトリケラトプスの幼体を主人公に、物語仕立てで段々と、小さい動物から大物へと全身骨格が登場してくる。ここでは解説パネルもあるが、堂々たる全身骨格をじっくりと「魅せる」ように配置している。映像シアターを出ると、レイン対スタンの骨格を堪能できる。まあ、トリケラトプスとティラノサウルスが登場すれば子供たちの満足度は高く、親御さんたちも安心しているように見受けられた。

そしてワークショップやお土産ショップ、フードコーナーで締めくくると。今回は図録の他にティラノの骨格模型プラモデルを買った。コラボしたフェバリットの商品はあったが、シュライヒやパポのフィギュアはなかったようだ。ぬいぐるみは、ダコタラプトルの出来が今ひとつだった。お菓子は、缶入りチョコクランチとミルクモンブランの2種類のようだった。



新しく発見されたTufs-loveの頭骨。3Dプリンターで縮小した模型はうちでも飼っている。



「ナノティランヌスとする意見も根強い」というのは、今回協力したのがピーター・ラーソンさんだからでしょうね。しかし私もナノティランヌスという種類がいてほしいとは思う。



満身創痍のゴルゴサウルス「ルース」さん



コリストデラ類チャンプソサウルス。この人は尾椎の横突起がずいぶん長いというか、仙肋骨と同じくらいあるのですね。頸肋骨も長いけど。



追われるストゥルティオミムス



追うダコタラプトル。これはやはり顔が向こう向きなのが惜しいか。



なにげに良かったデンヴァーサウルス



海の猛者。背景が青色だとやはり美しいですね。



レインさん。
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エウパルケリア (1)後肢の復元姿勢 (エウパルケリア類)



爬虫類の中でも主竜類は、トカゲのように這う姿勢から恐竜のような直立姿勢、四足歩行と二足歩行など、非常に多様な姿勢と歩行様式の動物を含むグループである。そのため三畳紀中期の時点ですでに、主竜類と主竜形類の腰帯と足首の関節の構造には大きな多様性がみられる。主竜類の腰帯や後肢の形態と、姿勢や歩行といった機能の関係については、大部分が恐竜について研究されてきたが、主竜類の進化全体をとらえるためには、主竜類の祖先形がどんな状態だったかを研究する必要がある。

エウパルケリア・カペンシスは三畳紀中期アニシアン(Burgersdorp Formation)に南アフリカに生息した小型の主竜形類で、その形態は多くの保存の良い化石標本から知られている。エウパルケリアは、これまでの多くの系統解析で主竜類の祖先に近い位置にきている。さらにエウパルケリアは、形態学的にも生態学的にも主竜類の祖先に似ているのではないかと期待されており、主竜類の移動様式の祖先形を考察する上で理想的な材料である。

エウパルケリアの姿勢と歩行様式については、多くの仮説が提唱されてきた。移動の際に半直立姿勢をとった説もあれば、トカゲのように爬行した説も多い。前肢よりも後肢が長いことから、条件的二足歩行をしたという説も提唱されたが、これには疑問が呈されている。足先の姿勢についても一致しておらず、指行性digitigradeともしょ行性plantigradeとも解釈されている。これまでの説は、どれも母岩に埋まった化石標本を2次元的に観察したもので定量的な検討はしていなかった。エウパルケリアの足根部(足首)の関節については非常に詳細に観察され、記載されてきたが、個々の骨の正確な3次元的関節状態については、不十分であった。

そこでDemuth et al. (2020) は、エウパルケリアの多くの標本をマイクロCTスキャンし、腰帯と足根部の各骨の3次元形態と関節状態を再構築した。そして骨の可動域range of motion (ROM)などの機能形態学的解析を行った。

エウパルケリアのホロタイプ標本SAM PK 5867の腰帯は、全般に保存は良いが、大腿骨が腸骨の上に載っていたため、寛骨臼上縁supra-acetabular rimの部分がつぶれていた。2つめの標本SAM PK 6047Aでは腰帯の関節が外れていたが、左の腸骨では幸い、ホロタイプのような変形を免れて、寛骨臼上縁supra-acetabular rimの形がよく保存されていた。これを見ると、エウパルケリアでは寛骨臼上縁がよく発達し、深い寛骨臼の上を覆っていることがわかった。また仙肋骨が腹側方を向いているため腸骨が傾いており、寛骨臼はやや下向きに開いている、つまり大腿骨頭の上をカバーしていることがわかった。

3次元で腰帯の寛骨臼に大腿骨頭を関節させて、動かすシミュレーションを多数行った結果、エウパルケリアの腰関節はかなり可動性が大きく、大腿骨を垂直に内転して後肢を体の下に持ってくることも、より外転して這うような姿勢にすることも可能であることがわかった。ただし大腿骨を水平に近い角度にすると、寛骨臼上縁とぶつかるため前後に動かせないことがわかった。これはワニやイグアナのような這う動物にはみられない現象であるという。ある程度下向き斜めから垂直くらいの方向ならば歩行できたようだ。

同様に足根部についても3次元でそれぞれの骨を関節させて再構築してみたところ、エウパルケリアの足首の関節はoblique mesotarsal であるという。つまり距骨、踵骨、遠位足根骨と中足骨の間で直線的な関節をなしているという。ただし恐竜と異なり、エウパルケリアの足根関節の回転軸は膝関節に対しても中足骨‐指骨関節に対しても斜めになっている。つまり関節が足に対して斜めになっているので、後肢を垂直にして歩行することはできない。足先を安定して地面につけるために、最も大腿骨を内転した(直立に近い)姿勢は、少し足先を開いた「仁王立ち」あるいは脚立のような角度であるという。これからもう少し外転した(大腿骨を開いた)姿勢のどこかの角度で歩行したようである。
 つまりトカゲのような爬行姿勢でもなく、恐竜のような直立姿勢でもなく、その間の中間的な直立姿勢の可能性が高いということである。

エウパルケリアは、深い寛骨臼と寛骨臼上縁によりpillar-erect型(ラウイスクス型)の直立姿勢も可能な腰関節という進化的な形質と、斜めの足根関節という原始的な形質を併せ持っている。今回の研究で、pillar-erect型の腰関節は主竜類以前の段階(真鰐足類Eucrocopoda)で一度獲得されたこと、完全な直立歩行を可能とする足根関節はもっと後で進化したことがわかってきた。pillar-erect型の腰関節は、足根関節の進化を促すように働いた可能性もあるといっている。また、この研究では二足歩行について特に論じていないが、完全な直立姿勢が確立した後に二足歩行へ移行したと考えているようだ。


参考文献
Demuth, O.E., Rayfield, E.J. & Hutchinson, J.R. 3D hindlimb joint mobility of the stem-archosaur Euparkeria capensis with implications for postural evolution within Archosauria. Sci Rep 10, 15357 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-70175-y
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