goo

エオカルカリア




エオカルカリアは、白亜紀前期アプト期からオーブ期にアフリカのニジェールに生息した原始的なカルカロドントサウルス類で、カルカロドントサウルス類の系統進化を考える上で重要な位置を占めているようである。

頭骨のいくつかの骨と歯だけが発見されている。完模式標本は後眼窩骨で、その他に上顎骨、前前頭骨、前頭骨、頭頂骨と分離した歯がある。後眼窩骨と前頭骨は、大きさや関節面の形などが一致する。また前前頭骨と前頭骨、前頭骨と頭頂骨はそれぞれ結合した状態で見つかっている。上顎骨の中にある置換歯との比較により、分離した歯は同一種と考えられている。
 エオカルカリアは以下のような固有の形質をもつ大型のカルカロドントサウルス類である。上顎骨のpromaxillary fenestra が亜三角形で側面から見えており、maxillary fenestraよりも大きい、上顎骨の後背方突起に円形の副次的な孔accessory fenestraがある、promaxillary fenestraとmaxillary fenestraの腹側で前眼窩窩が背腹に拡大している、後眼窩骨に細かい文様のある卵形の顕著な突起がある、後眼窩骨の内側に前頭骨の溝にはまり込むプレート状の突起がある、前前頭骨は大きく腹方突起がなく、頭蓋天井からみて亜四角形である、などである。
 エオカルカリアは、後眼窩骨の下眼窩突起suborbital flangeが比較的小さいことで他のカルカロドントサウルス類と異なる。また上顎骨の表面の発達した神経血管溝や、特徴的なエナメルのしわのある薄い歯をもたない点で、マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルスとは異なっている。これらの進化したカルカロドントサウルス類と異なり、エオカルカリアには分離した前前頭骨があり、涙骨と後眼窩骨の結合面はあまり発達していない。

上顎骨は比較的平らな骨で、これは他のカルカロドントサウルス類と同様に吻の幅が比較的狭いためと思われる。歯列のある腹側縁はゆるやかにカーブしている。前方突起は長さよりも丈が高い。後方突起の後端(頬骨突起)は水平線から20°の角度で後腹方に屈曲しており、これはアクロカントサウルスの状態によく似ている。アロサウルス、カルカロドントサウルス、シンラプトルなどでは後方突起のごく先端だけが屈曲しているという。
 エオカルカリアの前眼窩窩は、前方のpromaxillary fenestraとmaxillary fenestraの下の部分で特に広がっている。大部分の獣脚類と異なり、前眼窩窩の腹側縁は上顎骨の腹側縁と平行になっている。また前眼窩窩の前腹側のコーナーは角張っているが、これはアクロカントサウルス、ネオヴェナトル、アフロヴェナトル、ドゥブレウイロサウルスの状態に近い。前眼窩窩には3つの孔がある。そのうちpromaxillary fenestraとmaxillary fenestraは亜三角形で、promaxillary fenestraが最も大きい。
 上顎骨には15本の歯があり、萌出した歯は失われていたが多くの歯槽に成長中の歯が残っていた。7番目の歯槽にある歯との比較により、発掘地で見つかったいくつかの分離した歯は暫定的にエオカルカリアと同定された。これらの歯は多くの獣脚類よりも扁平であるが、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルス、ティラノティタンのように特に薄く後縁がまっすぐで顕著なエナメルのしわがあるものではない。

アロサウルスなどの獣脚類には涙骨の内側(前頭骨の前方)に前前頭骨がある。カルカロドントサウルスのような進化したカルカロドントサウルス類では前前頭骨がなく、その部分は涙骨で占められている。構造の比較から進化したカルカロドントサウルス類の涙骨は、涙骨と前前頭骨が癒合したものと考えられる。多くの獣脚類の前前頭骨は、頭蓋天井からみて小さな三角形の骨で、涙骨の内側に伸びる細長い腹方突起ventral processをもつ。エオカルカリアの前前頭骨は、腹方突起がない、前頭骨と比較して大きい、三角形でなく四角形に近い、後部がかなり肥厚しているという点で非常に変わっている。

後眼窩骨にはカルカロドントサウルス類と同定される特徴があり、またその中での位置付けもわかるという。最も顕著な特徴は背側にある肥厚した突起browで、正方形に近い形の前方部分と卵形の後方部分からなる。前方部分には水平の血管溝がある。
 後眼窩骨の前端に、小さいがはっきりした涙骨との関節面があることから、涙骨と後眼窩骨が結合して眼窩の縁から前頭骨が排除されていたことがわかる。ただし、エオカルカリアではこの関節面が他のカルカロドントサウルス類よりも小さい。
 Coria and Currie (2006) はギガノトサウルスとマプサウルスのorbital browには後眼窩骨とは別のPalpebralという骨があるといっているが、エオカルカリアやカルカロドントサウルスにはそのような骨の形跡はないという。
 後眼窩骨の腹方突起には、小さくごつごつした、下方に位置するinfraorbital process (suborbital flange) がある。アクロカントサウルスや進化したカルカロドントサウルス類(マプサウルス、ギガノトサウルス、カルカロドントサウルス)では、この突起はもっと大きく三角形でより上方に位置している。

系統解析では、エオカルカリアはギガノトサウルス、マプサウルス、カルカロドントサウルスよりも原始的で、アクロカントサウルスと最も近縁となった。エオカルカリアの上顎骨の長さはアクロカントサウルスの70%、カルカロドントサウルスの50%であることから、全長は6~8mと推定されている。


参考文献
Sereno, P.C. and Brusatte, S.L. (2008). Basal abelisaurid and carcharodontosaurid theropods from the Lower Cretaceous Elrhaz Formation of Niger. Acta Palaeontologica Polonica 53 (1): 15-46.
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )