goo

ガルジャイニア (エリスロスクス類)



ガルジャイニアは、前期三畳紀オレネキアンに、ロシアのオレンブルク州に生息した中型のエリスロスクス類で、最近盛んに研究されており、いくつも論文がでている。ガルジャイニアはエリスロスクス類の中でも最も古い時代に生息した種類で、口蓋歯をもつなど原始的な特徴を残しているようだ。
 Ochev (1958) は、オレンブルク州ベリャーエフカ地方の前期三畳紀の地層から発見されたほぼ完全な頭骨と前半身の骨格に基づいて、ガルジャイニア・プリマGarjainia primaを命名した。その後、von Huene (1960) はオレンブルク州イレク地方の前期三畳紀の地層から発見された化石に基づいて、別のエリスロスクス類、ウジュスコヴィア・トリプリコスタータ‘Vjushkovia triplicostata’を記載した。こちらは少なくとも5個体以上の保存の良い、分離した全身の骨である。近年の研究により、これら2つの標本は同属か、さらには同種ではないかという意見が強くなっていた。2019年から2020年にかけて出版された論文で、これらの詳細な再記載が行われた結果、ガルジャイニア・プリマに統合された。これにより、ガルジャイニア・プリマは最も詳細に知られるエリスロスクス類となった。
また、Gower et al. (2014) により南アフリカの同時代の地層からガルジャイニア属の別種ガルジャイニア・マディバGarjainia madibaが記載されており、この属が汎世界的に分布していたことがわかった。

他のエリスロスクス類と異なるガルジャイニア・プリマの特徴は、形質の組み合わせとして多数あるが、固有形質は、1)鼻骨に前後に長い下方突起があり、それが上顎骨と広範な縫合線をなす、2)上顎骨の水平突起の後方が非常に丈が高くなり、そのために台形の前眼窩窓の長軸が前腹方―後背方の向きに傾いている、3)背側から見て前前頭骨が強く側方に拡がっている、4)頭蓋天井の背面に縦の窪みがあり、その後半部に正中の隆起がある、5)基底後頭骨の腹側面に正中の突起がある、などである。
 ガルジャイニア・マディバでは頬骨と後眼窩骨の側面に球状の突起があるが、ガルジャイニア・プリマにはそれがない。

Butler et al. (2019) は、ウジュスコヴィア・トリプリコスタータ‘Vjushkovia triplicostata’の分離した頭骨の骨を詳細に再検討し、ガルジャイニア・プリマGarjainia primaのホロタイプの頭骨と比較した研究で、結果的にこれら2つの標本はほとんど同一の形態を示しており、過去に両者の違いとされた形質の多くは保存状態によるものと考えられた。ただし2つの差異(口蓋歯と歯槽の状態)については、あらためて考察している。
 ウジュスコヴィア・トリプリコスタータの翼状骨と口蓋骨には、少数の非常に小さい口蓋歯がある。一方、ガルジャイニア・プリマの頭骨には口蓋歯は確認されない。このことは重要な差異ともみえる。しかし、ガルジャイニア・プリマの口蓋部分は完全に露出しておらず、保存状態も完全ではない。そのため非常に小さい口蓋歯があっても見えていない可能性がある。またウジュスコヴィア・トリプリコスタータの骨にも、恐らく同一個体の左右の骨で口蓋歯の有無にばらつきがあり、現生の爬虫類でも口蓋歯の有無に種内変異がみられる。これら2つの標本が圧倒的に多数の特徴を共有することを考えると、この口蓋歯の有無の違いは種内変異と考えられる。
 もう一つの違いは歯槽の状態である。ガルジャイニア・プリマでは歯の生え方が完全に歯槽性thecodont で、歯根が歯槽に収まっていて周囲の骨とは結合していない。一方ウジュスコヴィア・トリプリコスタータの歯は多くがankylothecodontで、歯根が周囲の骨と結合している。しかし、ウジュスコヴィア・トリプリコスタータの同じ顎の中でも歯槽の状態に変異があり、いくつかの歯は歯槽性に近いという。他の主竜形類でも歯槽の状態に種内変異が報告されている。
 結論として、ウジュスコヴィア・トリプリコスタータとガルジャイニア・プリマの形態の差異は小さく、種内変異と保存状態の違いで説明される。よって前者は後者のシノニムと考えられた。

エリスロスクス類は頭が大きいことで知られるが、他の動物と定量的に比較した解析はなかった。Butler et al. (2019) では130種の四肢動物で頭骨と大腿骨の長さを比較したところ、頭骨の長さと大腿骨の長さは強い相関を示し、回帰直線が描けた。その中でエリスロスクス類(ガルジャイニア、エリスロスクス、シャンシスクス)は確かに、相対的に頭が大きい方に外れていた。またプロテロスクス類カスマトサウルスやプロテロチャンプサ類プロテロチャンプサ、翼竜ディモルフォドンなども、相対的に頭が大きい方に外れていた。一方、データに用いた中で竜脚類マラウィ―サウルスや剣竜ステゴサウルスなどの恐竜は、頭が小さい方に外れていた。三畳紀の主竜形類の中で系統的なグループごとにみると、エリスロスクス類とプロテロスクス類が、頭が大きいグループとなった。一方恐竜(エオラプトルやブリオレステスなど)は頭が小さいグループとなった。
 エリスロスクス類とプロテロスクス類では頭骨の大きさは、鋸歯の発達など肉食性に関連した特徴とともに発達しており、ペルム紀末の大絶滅後、大型捕食者のニッチを獲得することに関連していると考えられるという。

獣脚類では、コエロフィシス類やスピノサウルス類では前上顎骨と上顎骨の間にくびれがあるが、メガロサウルス類になるとくびれはなくなる。またラウイスクス類でも似た傾向があるように見える。それに対して、エリスロスクス類は、くびれを残したまま頭骨の丈が高くなるとこうなるのだなという感じである。
 頭骨は大きく頑丈で、噛む力も相当強そうだし迫力がある。一方、体は幼児体型で恐竜と比べると寸詰りにも見えるが、ぬいぐるみにすると意外と可愛いのではないだろうか。

参考文献
Ezcurra MD, Gower DJ, Sennikov AG, Butler RJ. (2019) The osteology of the holotype of the early erythrosuchid Garjainia prima (Diapsida: Archosauromorpha) from the upper Lower Triassic of European Russia. Zoo. J. Linn. Soc. 185, 717–783. (doi:10.1093/zoolinnean/zly061)

Butler RJ, Sennikov AG, Dunne EM, Ezcurra MD, Hedrick BP, Maidment SCR, Meade LE, Raven TJ, Gower DJ. (2019) Cranial anatomy and taxonomy of the erythrosuchid archosauriform ‘Vjushkovia triplicostata’ Huene, 1960, from the Early Triassic of European Russia. R. Soc. open sci. 6: 191289. http://dx.doi.org/10.1098/rsos.191289

Maidment SCR et al. (2020) The postcranial skeleton of the erythrosuchid archosauriform Garjainia prima from the Early Triassic of European Russia. R. Soc. Open Sci. 7: 201089. https://doi.org/10.1098/rsos.201089
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

エリスロスクス



エリスロスクスは、三畳紀前期に南アフリカに生息したエリスロスクス類Erythrosuchidae の代表格で、最大種である。全長5 mのうち、頭骨が1 mという体形で、エリスロスクス類は不釣り合いに頭が大きいとされるが、逃げ足の速い獲物が存在しない世界では、これが最強ということだろう。恐竜展では大体、恐竜が出現する以前の不格好な爬虫類くらいの位置づけで、私もあまり注目したことはなかったが、肉食動物の頭骨としてなかなかの迫力があるので若干資料を集めてみた。
 かつては初期の主竜形類Archosauriformesのうち、プロテロスクス類Proterosuchidaeとエリスロスクス類Erythrosuchidaeは近縁で、両者をあわせて単系のプロテロスキアProterosuchiaを構成すると考えられていたが、近年、これら2つのグループは単系ではなく多系群と考えられるようになった(Ezcurra et al. 2013)。プロテロスクス類は頭骨が長く丈が低く、より爬虫類的な姿勢で這う動物であるのに対して、エリスロスクス類は頭骨の丈が高く、半直立姿勢で歩行する強力な捕食者だったと考えられている。エリスロスクス類は、ペルム紀末にゴルゴノプス類など大型の肉食性単弓類が絶滅した後、大型捕食者のニッチを占めた最初の主竜形類だったようだ。
 プロテロスクス類と異なり、エリスロスクス類以上の主竜形類(エウパルケリア、プロテロチャンプサ類、主竜類)では大腿骨に第四転子が発達している。つまりエリスロスクス類は第四転子を発達させた最初のグループである。

エリスロスクス類に含まれるメンバーは、完全には確定していない。かつてはParrish (1992) の解説がわかりやすかったが、その後の研究でメンバーは入れ替わっている。Parrish (1992)の論文では、中国のフグスクス、ロシアのガルジャイニア、南アフリカのエリスロスクス、中国のシャンシスクス、2種のウジュスコヴィア(ロシアのVjushkovia triplicostataと中国のVjushkovia sinensis)が含まれていた。その後、ウジュスコヴィアは消滅した。ロシアでの研究が進展した結果、Vjushkovia triplicostataは少なくともガルジャイニアと同属として、Garjainia triplicostata とされ、さらには最近、最初のガルジャイニアGarjainia primaと同種となった。また、中国のVjushkovia sinensisは、1985年にロシアの研究者が提唱したように、最近の系統解析ではエリスロスクス類ではなくラウイスクス類であるとしてYoungosuchusと呼ばれるようになった。ロシアとは別に南アフリカではガルジャイニアの新種が発見され、Garjainia madibaが加わった。また中国ではグチェンゴスクスがエリスロスクス類に加わっている。

Ezcurra et al. (2013) ではプロテロスクス類とエリスロスクス類の形態について、両者の比較に重点をおきながら記述している。それを読むと、歯に関連した形質の違いがわかりやすい。
1)プロテロスクス類では同種内で歯の数の変異が大きく、小型の個体では歯の数が少なく大型の個体ほど多い。エリスロスクス類では一定しており、エリスロスクスでは前上顎骨歯5、上顎骨歯12、歯骨歯13である。
2)プロテロスクス類では歯根が歯槽に収まっているが、歯根の一部が歯槽の骨と結合しているankylothecodont (subthecodont) という状態である。エリスロスクス類では完全にthecodont 歯槽性である。
3)プロテロスクス類では鋤骨、口蓋骨、翼状骨に口蓋歯がある。エリスロスクス類では基本的に口蓋歯はない。ただしガルジャイニアの口蓋骨には口蓋歯がある。
 エリスロスクス類はがっしりした大型の動物で、異様に大きい頭をもつ。プロテロスクス類もエリスロスクス類も前上顎骨と上顎骨の間はくびれているが、エリスロスクス類では前上顎骨が、プロテロスクス類ほど下方に傾いていない。ただしガルジャイニアでは前上顎骨がかなり傾いている。前眼窩窓はよく発達しているが、下側頭窓よりはずっと小さい点は、プロテロスクス類と同様である。松果体孔pineal foramenはないが松果体窩pineal fossaというくぼみがある。
 また仙前椎とくに頸椎が前後に強く短縮している、肩甲骨の前縁が凹形で遠位端が前後に拡がっている、上腕骨の三角筋稜が強く発達している、腰帯の各骨の形状、足根部の構造などがプロテロスクス類とは異なっている。

Parrish (1992)の論文ではエリスロスクス類の共有派生形質として、頸椎と胴椎の椎体の側面が深く陥入している;口蓋歯がない;上顎骨の腹側縁が凸型である;前上顎骨の水平な腹側縁と上顎骨の凸型の腹側縁の間に段差stepがある;後眼窩骨が鱗状骨と、頬骨が方形頬骨と、深いV字形の切れ込みにはまって結合している(tongue-and-groove)など、8つの形質をあげている。
他のエリスロスクス類と異なるエリスロスクスの固有形質は、鱗状骨の後縁がなめらかな凸型であることである。他のエリスロスクス類では鱗状骨の後縁に、鉤状hook-likeの突起がある。エリスロスクスにはこれがない。

頭骨を並べて比較してみると、それぞれ個性があって良いのだが、エリスロスクスが最も威厳があるような気がする。頭骨の丈が高くなると眼窩が縦長になる点も、獣脚類やラウイスクス類だけではなくて、もっとずっと古い起源があることがわかる。

参考文献
J. Michael Parrish (1992) Phylogeny of the Erythrosuchidae (Reptilia: Archosauriformes), Journal of Vertebrate Paleontology, 12:1, 93-102, DOI: 10.1080/02724634.1992.10011434

Martín D. Ezcurra, Richard J. Butler and David J. Gower (2013) ‘Proterosuchia’: the origin and early history of Archosauriformes. Geological Society, London, Special Publications 2013, v.379; p9-33. doi: 10.1144/SP379.11
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )