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2014新宿ミネラルフェア

このミネラルフェアには10年以上通っているが、2008年くらいの記事には既に、化石関係が少なくなったというボヤキを書いている。今年も残念ながら、どの出展業者も「あいかわらず」感があり、新鮮なものが乏しかったように感じられた。



パレオサイエンスには、リノディキノドン実物頭骨が。この下顎が、カエナグナトゥス類と似た特徴があるというやつか。リストロサウルスもあり。エダフォサウルスの帆の一部とか、ディメトロドンの顎も。他にはナノティランヌス、アルバートなどの歯やアロサウルス・ジムマドセニの歯。



Zoic Srl は今回、恐竜はほとんどなく、海生爬虫類やカメくらい。保存状態のよいモササウルスの頭骨は40万円。カメの卵もあり。



Eldoniaには、マダガスカルやモンゴルものに加えて、中国産の竜脚類の歯などがあった。モンゴル産の歯や爪とともに、プシッタコサウルスの頭骨化石があった。またマーストリヒト期のコエルロサウルス類の手もある。



ポエブロテリウムの頭骨とハルピミムス?の手。あれ、中手骨の長さが揃っているのは派生的な形質では?



最も感動したのはこれで、Juchilestesとかいう中国の三錐歯類の全身骨格。

第2会場のマスターフォッシルには、トリケラトプスの角やフリルの縁の骨、カスモサウルスの角、エウオプロケファルスの皮甲板、エイニオサウルスの撓骨など、結構いろいろあった。コエロフィシスの歯があった。



今回購入したものは、ドイツのKrautworst Fossilsからトルボサウルスの歯と、ミュージアムインポートからオヴィラプトルの頭骨と手のレプリカです。オヴィラプトルにあいさつされるとは。
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チエンジョウサウルス




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一般向けのニュースでは、時事通信もロイターも学名を書いていない。愛称はどうでもいいから学名を書いてくれ、と思っていたら、なるほど中国語の読みが難しいのか。中国語のピンイン(ローマ字表記)を学名にした場合に、日本語でどう表記するかは昔から問題ですね。
 qianはキアンではなく、チエンと読むようである。zhouはジョウとチョウの中間のように聞こえる音らしいが、ジョウと書くことになっている。ここでは中国語のカタカナ表記に従っておく。(それならズケンティランヌスはジュチェンにしないのか、という突っ込みは禁止。)

チエンジョウサウルスは、白亜紀後期マーストリヒト期(Nanxiong Formation)に中国南東部の江西省Jiangxi Province 貢州市Ganzhou City に生息した、吻の長いティラノサウルス類で、2014年に記載された。ほとんど完全な頭骨と、胴体のかなりの部分が見つかっている。発見されたのは頭骨、左の下顎の大部分、9個の頸椎、3個の前方の胴椎、18個の尾椎、完全な右の肩甲烏口骨、左の肩甲烏口骨の一部、左右の部分的な腸骨、左の大腿骨、脛骨、部分的な腓骨、距骨と踵骨、中足骨である。すべて同一個体のものと考えられている。

チエンジョウサウルスは吻の長いティラノサウルス類で、以下のような固有の形質をもつ。上顎骨の上方突起に大きくはっきりした窓状の含気孔がある、前上顎骨が非常に短縮している(前後の長さが頭骨の全長の2.2%、他のティラノサウルス類では4.3-4.6%)、腸骨の外側面に顕著な垂直の稜がない(ラプトレックスと同様)。

系統解析の結果、チエンジョウサウルス・シネンシス、アリオラムス・アルタイ、アリオラムス・レモトゥスは、ティラノサウルス亜科の根元で、一つのクレード(Alioramini「アリオラムス族」)を形成することになった。このグループは白亜紀末のアジアに広く分布し、陸上生態系において重要な地位を占めていたことがわかった。
 他のティラノサウルス類と異なるアリオラムス族の特徴は、頭骨が極端に長く丈が低く、吻の長さが頭骨の全長の2/3以上を占めること、maxillary fenestraが前後に長い(長さと高さの比率が1.9以上)、鼻骨の上に一連の顕著なこぶ状突起rugositiesがある、歯骨の歯が18以上ある、などである。

チエンジョウサウルスの頭骨は、ティラノサウルスやアルバートサウルスのような大型ティラノサウルス類と比べて非常に長く丈が低く、吻の長い2種のアリオラムスとよく似ている。アリオラムスと同様に、眼窩より前方の吻の部分が頭骨の全長の約70%にまで延びている。他の大型ティラノサウルス類では約60%である。またアリオラムスと同様に、上顎骨や鼻骨のような吻を構成する骨は長く延びているが、後頭部の骨のプロポーションは他の大型ティラノサウルス類と変わらない。アリオラムス・アルタイの頭骨は約63 cm、アリオラムス・レモトゥスもそれに近い数値と推定されるが、チエンジョウサウルスの頭骨は90 cmに達する。

前上顎骨は極端に短縮している。ティラノサウルス類では一般に前上顎骨が小さく、頭骨の全長の4-5% であるが、なかでもチエンジョウサウルスは極端で、2.2%しかない。前上顎骨には4個の歯槽があり、横方向にならんでいる。
 上顎骨のmaxillary fenestra は前後に長く延びていて、長さと高さの比率は1.9 以上ある。この特徴は、以前にはアリオラムス・アルタイの固有形質と考えられていたが、チエンジョウサウルスにもみられることから、吻の長いティラノサウルス類により広くみられることがわかった。チエンジョウサウルスには、アリオラムス・アルタイに固有のpromaxillary fenestraの後背方にある小さな含気窩accessory depression はみられない。チエンジョウサウルスの頭骨で最も顕著な特徴は、上顎骨の上方突起の外側面にある、卵形で窓状window-likeの含気孔である。これはmaxillary fenestraの後背方にあり、前眼窩窓から数cm 離れている。この孔はアリオラムス・アルタイの上方突起にある浅い凹みaccessory fossaと関連があるとみられるが、チエンジョウサウルスの含気孔はより後方にあり、水平方向ではなく垂直方向に近く、よく発達した縁をもつずっと顕著な孔である。上顎骨には15個の歯槽がある。歯槽の形はアルバートサウルスやダスプレトサウルスと同様に肥厚していて、アリオラムス・アルタイの薄いナイフ状の歯とは異なっている。
 他のティラノサウルス類と同様に、左右の鼻骨は癒合し盛り上がっている。2種のアリオラムスと同じように、鼻骨の背面の正中線上に、顕著な一連のごつごつしたこぶmoundsがある。涙骨の角状突起は、他の多くのティラノサウルス類と同様に、頭蓋天井の上に突出したはっきりした突起である。頬骨の腹側縁にはかすかな角状突起があるが、アリオラムス・アルタイに特徴的な側方を向いた角はない。
 後眼窩骨の角状突起は、頭蓋天井の上に突出した大きな膨らみである。これは他のティラノサウルス科と同様であり、低い稜状である2種のアリオラムスの状態とは異なっている。後眼窩骨の腹側突起には、はっきりと眼窩内に突出した眼窩下フランジsuborbital flangeはないが、未発達のわずかな突起は存在する。これは成長段階によって変化する形質で、大型ティラノサウルス類の成体にはみられるが、幼体や亜成体にはないか未発達の状態である。
 細長い歯骨は前方で膨らんでおらず、また他のすべてのティラノサウルス科にみられる、前腹側縁の「おとがい」状の突起を欠いている。歯骨には18個の歯槽がある。これはアリオラムス・レモトゥスのホロタイプと同じであり、アリオラムス・アルタイの20個よりは少ない。後上角骨孔posterior surangular foramenは他のティラノサウルス科と同様に大きく、その後背方には深い含気窩がある。

チエンジョウサウルスのホロタイプは、2種類のアリオラムスのホロタイプよりも大きく、より成熟している。チエンジョウサウルスの大腿骨は約70 cmで、アリオラムス・アルタイの約56 cmよりも25%大きい。大腿骨の長さから体重を予測する数式によると、チエンジョウサウルスのホロタイプは、アリオラムス・アルタイのホロタイプの約2倍の体重があったと思われる。
 骨格の形態学的特徴から、チエンジョウサウルスの標本はアリオラムスの標本よりも成熟していると考えられる。チエンジョウサウルスのホロタイプでは頭蓋天井および脳函の骨の癒合の程度がより大きい。またティラノサウルス科の個体発生の過程で変化することが知られている多くの形質をみると、チエンジョウサウルスはより成熟した特徴を示している。たとえば、大きく膨らんだ涙骨の角状突起(アリオラムス・アルタイの小さな円錐状とは異なる)、大きく発達した後眼窩骨の角状突起(アリオラムスの低い稜状の突起とは異なる)、肥厚した歯(アリオラムスや他の幼体の薄い歯とは異なる)、上顎骨と歯骨の歯の数がより少ないことなどである。
 著者らは(アリオラムスの時と同じように)ティラノサウルス科の頭骨の長さを大腿骨の長さに対してプロットしたグラフを作成した。その結果、チエンジョウサウルスとアリオラムス・アルタイは回帰直線から大きく外れており、これらは他のティラノサウルス類と比べて、大腿骨の長さ(体の大きさ)のわりに有意に長い頭骨をもつことがわかった。チエンジョウサウルスの頭骨は、大腿骨が同じ長さのタルボサウルスの頭骨と比べて35%も長いという。
 このようにチエンジョウサウルスの標本は、アリオラムスの標本よりもずっと大きく成熟しているが、その頭骨は吻の長い特徴的な形態を保っている。このことから、アリオラムス族は吻の長い独自のグループであり、成長過程を通じて他のティラノサウルス類よりも長い頭骨をもっていたことがわかった。

アリオラムス族は白亜紀末のアジアに広く分布していたことはわかったが、今のところ北アメリカにこの仲間が生息していたという証拠はない。著者らはここでナノティランヌスに言及しているが、引用されているのはBakker et al. (1988) なので最初のナノティランヌスのことである。ともかくナノティランヌスはアリオラムス族のような極端に吻の長い形態ではないといっている。吻の長さの比率は、アリオラムス族の70%に対してナノティランヌスは65%であり、また頭骨の丈がアリオラムス族よりも高いと述べている。さらにナノティランヌスには、鼻骨のこぶなどのアリオラムス族の特徴はない。最近のモンタナ格闘恐竜のことが念頭にあるのかもしれないが、まだデータがないので論じられないということだろうか。

同時代の江西省貢州市の地層からは、竜脚類のほか、4種ものオヴィラプトル類が発見・記載されている。チエンジョウサウルスは、オヴィラプトル類たちの楽園を脅かす死神といったところだろう。

参考文献
Junchang Lu:, Laiping Yi, Stephen L. Brusatte, Ling Yang, Hua Li & Liu Chen (2014). A new clade of Asian Late Cretaceous long-snouted tyrannosaurids. Nat. Commun. 5:3788 doi: 10.1038/ncomms4788.
(Lu: は本当はウムラウトのようにuの上に‥、呂リュイらしい)
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