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イクチオヴェナトル




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イクチオヴェナトルは、白亜紀前期(“Gres superieurs” Formation)にラオス南部のサヴァンナケート盆地Savannakhet Basinに生息したスピノサウルス類で、アジアで最初の明確なスピノサウルス類として2012年に記載された。(特徴的な二枚貝の群集から、生息年代はアプト期と推察される。)
 発見されたのは部分的に関節した胴体の骨で、最後の1つ前の胴椎、最後の胴椎の神経棘突起、5個の不完全な仙椎、第1と第2尾椎、腸骨、恥骨、座骨、1本の後方の胴椎の肋骨からなる。

スピノサウルス類の化石は、主に白亜紀前期のヨーロッパと白亜紀前期の終わりから後期の初めにかけてのゴンドワナ地域(北アフリカと南アメリカ)で知られてきた。アジアにおけるスピノサウルス類の存在は、分離した歯だけに基づいてタイ、中国、日本で報告されていた。Allain et al. (2012) によるイクチオヴェナトルの骨格の発見により、スピノサウルス類の確実な生息域は大幅に広がった。

イクチオヴェナトルは、バリオニクス亜科のスピノサウルス類で次のような固有の形質をもつ。胴椎から仙椎にかけて、正弦曲線状の帆sinusoidal sailをもつ(つまり、神経棘突起の帆が2つの峰に分かれている)。最後の1つ前の胴椎の神経棘の長さが椎体の長さの410 %で、遠位端の前部に指状の突起finger-like processがある。第3と第4仙椎の神経棘が扇形をしている。第1尾椎の横突起が背方からみてS字状である。第1尾椎に深いprezygapophyseal centrodiapophyseal fossae がある。腸骨が長く、腸骨/恥骨の比率が獣脚類の中でも最も高い。その他にも、恥骨や座骨には他のテタヌラ類にはみられないユニークな特徴があるという。

最後の1つ前の第12胴椎は、スピノサウルス以外では獣脚類の胴椎の中で最も変わったものの一つである。非常に長く発達した神経棘は、スピノサウルスと同様に椎体の上に垂直に伸びている。神経棘/椎体の長さの比率は410 %で、スピノサウルスよりは明らかに小さいが、他の獣脚類よりは大きい。(神経棘/椎体の長さの比率は、イクチオヴェナトルの4.1に対してバリオニクスが1.9-2.7、スピノサウルスが7.85である。スコミムスのデータはない。ちなみにシンラプトル2.17、アロサウルス1.94、コンカヴェナトル3.91であるという。)他のスピノサウルス類では神経棘が長方形をしているが、イクチオヴェナトルでは神経棘の基部よりも遠位部の方が幅が広がっており、二等辺台形の形をしている。さらに神経棘の遠位部前端には、他の獣脚類にはみられない3 cmの指状突起finger-like processがある。
 最後の胴椎は神経棘だけが保存されていた。この神経棘は近位端と遠位端の両方が欠けているため、第12胴椎の神経棘と同じくらい長かったかどうか、正確にはわからない。しかしこの神経棘には、第12胴椎の神経棘と同様に靭帯の付着痕の遠位端を示す突起があり、この突起から最後の神経棘の位置を推定すると、最後の神経棘も第12胴椎の神経棘と同じくらい長かったと思われる。つまり少なくとも第12、13胴椎には「帆」があったと考えられる。
 仙椎の椎体は大部分が浸食されていたが、仙椎の神経棘は保存されており、同じブロックの中に関節状態で発見された。第2と第3仙椎の椎体は互いに癒合しているが縫合線ははっきりしている。仙椎の神経棘の高さは第1から第4まで高くなり、第5で低くなっている(第3と第4はほとんど同じくらいに見えるが)。第1仙椎の神経棘は、後方の胴椎や他の仙椎の神経棘と比べて非常に低く、そのためイクチオヴェナトルの帆は正弦波状の形をしている。つまり胴椎部分(少なくとも第12、13胴椎を含む)と仙椎部分(第2から第5仙椎と第1、第2尾椎)の2つに分かれている。この帆の形態は、仙椎の上で最も高くなるスコミムスとも、胴椎の帆が未発達であるバリオニクスとも明らかに異なる。現在のところ、イクチオヴェナトルの背中の帆がどのくらい前方まで延びていたのかはわからない。

腸骨/恥骨の比率は大型獣脚類の中で最も大きい。恥骨の近位の板状部pubic plateには後腹方に開いた2つの切痕、obturator notch とpubic notchがある。恥骨の遠位端は、遠位側からみて特徴的なL字形をしており、バリオニクスやスコミムスとよく似ている。座骨は典型的なY字形ではなく、近位部が板状に発達している(proximal ischial plate)が、これは他のテタヌラ類にはみられないものである。座骨結合ischial symphysisはモノロフォサウルスやシンラプトルと同様に膨らんでいない。

系統解析の結果、イクチオヴェナトルはスピノサウルス科の中で、バリオニクス亜科の基盤的なものと位置付けられた。スピノサウルス科の明確な特徴は、胴椎の神経棘以外はほとんど頭骨と歯にあり、胴体の骨が十分見つかっているのはバリオニクス亜科だけなので、スピノサウルス科としての明確な共有派生形質を見いだすのは難しいということである。

これは、頭骨や歯が見つかっていないのがいかにも残念である。発掘調査は継続中とあるので、歯くらいは出る可能性はあると思われる。タイや中国で歯が見つかっていることを考えると、おそらく典型的なスピノサウルス類なのだろうが、バリオニクスよりも原始的で顔が短かったりすると楽しい。頸の短い首長竜や頸の短い竜脚類もいるくらいだから、吻が短めのスピノサウルス類がいてもいいのかもしれない。今のところ想像は自由である。
 タイでも未記載のスピノサウルス類の化石が出ているようなので、少しずつアジアのスピノサウルス類の全体像が明らかになっていくのだろう。


参考文献
Ronan Allain, Tiengkham Xaisanavong, Philippe Richir and Bounsou Khentavong (2012) The first definitive Asian spinosaurid (Dinosauria: Theropoda) from the early cretaceous of Laos. Naturwissenschaften 99: 369-377.

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丸ビルで肉食恐竜:大恐竜展in 丸の内2013

記事のタイトルは「丸ビルでバリオニクス」の予定だったが、今年はバリオニクス以外にも実力派?のティラノサウルス類で固めてきたので変更した。このマルキューブ(第一会場)の展示は、肉食恐竜好きにとってはありがたい。バリオニクス、ゴルゴサウルス、ラプトレックス、ディロングとタルボサウルス頭骨である。これだけでも普通の博物館には望めないラインナップである。一方、オアゾ(第二会場)の植物食恐竜の方は軽めだった。





バリオニクスの立体的な復元骨格は初めて見る。Triebold Paleontology Inc.が販売したのを早速導入したようだ。全体にやや「作った感じ」があるが、頭骨を含めて復元されたものなので仕方ないだろう。
こうして顔をみるとやはり良い。



ゴルゴサウルスは4回目であるが、いつ見ても良い。活躍してますね。ひとつ気になった点として、パンフレットにゴルゴサウルスは眼窩が丸い云々とあったのは、どうも腑に落ちない。ティラノサウルス科の眼窩は、幼体の時は円形に近く、成長するにつれて縦長になる。多くの種類では下眼窩フランジが発達するので、眼窩はくびれた形になるというのが一般的な認識と思う。このゴルゴサウルスの眼窩はどう見ても丸くはない。何らかの意図があったのかもしれないがよくわからない説明文に思われた。





今回はバリオニクスよりもむしろ、ラプトレックスの全身骨格の美しさに魅了された。2011年の科博のも良かったが、これはシカゴ大学のプレスリリースの時にセレノと一緒に写っていた、オリジナル復元ポーズだろう。やはり保存が良いものは、繊細さ、シャープさが違う。通りがかりのOLさん達からも「かわいい」「ちょっと飼ってみたい」の声が聞かれた。
 しかし盗掘の問題はつくづく残念ですね。司法取引みたいに「正確な発掘地点を教えれば、盗掘の罪は問わないから名乗り出よ」というわけには、…いかないだろうなあ。こんな貴重な化石に最初からミソがついてしまったわけで、幼体なら幼体で重要なデータが得られるのに残念としかいいようがない。





ディロングのイメージについては、記載論文の中で、頭骨の写真と復元イラストでかなり印象が違うと思ったことがある。鼻骨あたりはつぶれているし眼窩もゆがんでいるのを復元したということだろうが、それにしても眼窩が大きく描かれたように思った。アーティストのセンスも反映するのだろう。このキャストの頭骨は復元イラストに忠実に作ったという感じがする。最初に行った時、左手の第2、第3指が取れていて痛そうだったが、その後直してもらったようだ。

久しぶりに福井へ行きたくなるようなイベントではあった。





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2013たまがわ恐竜大図鑑展

主に、神流町恐竜センターと科博の協力で企画されたものです。限られたスペースの中、モンゴルものなどが工夫して展示されています。



サイカニアはすばらしいですね。パラサウロロフスなどは大型の展示物なのですが、あまり見ている人がいなかったような。目線の高さに置くことが大事なのかな。ラブドドンは…肋骨の長さに疑問がある。


荒木さんの作品

シンゼンさんの作品

珍しいペレカニミムスの内臓復元模型



ゼネラルサイエンスのストゥルティオミムスがここに。
手の第1指が最も短いことを確認する。(オルニトミムスとの違い)



おお、ザナバザルの脳について、8月1日のネイチャーの論文が紹介されている。最新の話題を盛り込むために、パネルを作って追加したようですね。苦労がしのばれます。(8月1日号ではなく、オンライン版の7月31日のようです。)
 他にもインゲニアなどの実物化石や、キロステノテスの骨のレプリカなど貴重な標本が展示されていました。また、オルニトミムス類の進化にともなってカギ爪の曲がり方が変化したことを示すため、ペレカニミムスとオルニトミムスの末節骨を並べてあるなど、かなり工夫が凝らされているのですが、そこまで観察した人は何人いたでしょう。

Amy M. Balanoff, Gabe S. Bever, Timothy B. Rowe & Mark A. Norell
Evolutionary origins of the avian brain.
Nature (2013) doi:10.1038/nature12424 (Received 10 March 2013, Accepted 24 June 2013, Published online 31 July 2013)







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