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イベリア半島のスピノサウルス類(3)プロタトリティス


プロタトリティス・シンクトレンシスProtathlitis cinctorrensisは、前期白亜紀バレミアン(Arcillas de Morella Formation)にスペインのバレンシア州カステリョン県に生息した、バリオニクス亜科のスピノサウルス類で、2023年に記載された。
属名プロタトリティスはギリシャ語でチャンピオンの意で、欧州サッカー連盟のUEFAヨーロッパリーグにおける、スペインのサッカーチームであるビジャレアルCFの戦績に基づくという。種小名は発掘地シンクトレスCinctorresからきている。

化石は断片的で、ホロタイプは右の上顎骨の断片と5個の尾椎である。

プロタトリティスは1つの固有形質と、いくつかの形質の組み合わせにより他のスピノサウルス類と区別される。プロタトリティスの固有形質は、上顎骨の前眼窩窩の前端に亜円形の窪みがあることである。これは上顎骨の側面(唇側)と背側の写真で見えているが、円形に近い形かどうかよくわからない。形質の組み合わせは、尾椎の横突起に2つの窪みと1つのバットレスしかなく、後方を向いている、関節面の輪郭が明確に楕円形である、などの細かい尾椎の形質からなる。

プロタトリティスの上顎骨は、他のテタヌラ類と比べて大きいmedial shelf、後方に行くにつれて小さくなる歯槽のサイズ、円錐形の歯、枝分かれしたエナメルの文様をスピノサウルス類と共有している。
 Sereno et al. (1998) はバリオニクス亜科とスピノサウルス亜科を区別する特徴をあげている。バリオニクス亜科はカーブした歯冠、細かい鋸歯、外鼻孔が上顎骨の歯列の前半に位置する、上顎骨歯の数の増加(スコミムスで22)を示す。一方スピノサウルス亜科は歯冠がわずかにカーブするかまっすぐで、鋸歯がなく、外鼻孔はさらに後退し、上顎骨歯の数はより少ない(スピノサウルスで12)。
 プロタトリティスの上顎骨は、上顎骨歯の数の増加(16)、カーブした歯冠、細かい鋸歯があることから、バリオニクス亜科に属すると考えられる。バリオニクス亜科のバリオニクス、スコミムス、ケラトスコプス、イベロスピヌスのうち、上顎骨はバリオニクスとスコミムスでのみ知られている。プロタトリティスの上顎骨は、前眼窩窩の前端に亜円形の窪みがある点で、スコミムスとは異なる。バリオニクスではこの部分は保存されていない。ということはバリオニクスにも窪みがある可能性はあるということか。


系統解析の結果、プロタトリティスはバリオニクス亜科の中で最も基盤的な位置にきた。スペインの同じArcillas de Morella Formationからは、スピノサウルス亜科のヴァリボナヴェナトリクスが発見されていることから、前期白亜紀バレミアンのイベリア半島はこれらの多様なスピノサウルス類の故郷であり、その後スピノサウルス類はアフリカやアジアに分布を広げたと考えられる。ヨーロッパ西部ではバリオニクス亜科が優勢であり、アフリカではスピノサウルス亜科が優勢になったのではないかという。


参考文献
Santos-Cubedo, A., de Santisteban, C., Poza, B. et al. A new spinosaurid dinosaur species from the Early Cretaceous of Cinctorres (Spain). Sci Rep 13, 6471 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-33418-2

*少し加筆してシリーズに収録しました。
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