てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

「日展」の“点と線”(1)

2007年04月01日 | 美術随想
〈彫刻〉その1


 昨年末から1月なかばにかけて、いつものように「日展」が京都を巡回した。ぼくはだいたい、会期の終わり近くになってようやくすべり込むことが多いのだが、今年はさらに時間がなく、3時間ほどでの駆け足の鑑賞となってしまった。京都での出品点数は、東京のそれとは比較にならないかもしれないが、それでも全部で500点以上ある。もしすべてを丹念に観ようとするなら、ぼくだったら丸一日かかると思う。

 そこで、3月になってから大阪展にも出かけてきた。そのとき感じたのは、同じ展覧会であっても、会場が変わってみるとこうもちがうかということである。もちろん巡回先によって出品作に多少の差異はあるのだが、たしかにこの前の京都展で観たはずのものでも、まるでちがった印象を受けることがあったし、新しい魅力に気づかされたものもあった。

 おかしないい方だが、なるほど作品とはこうやって成長していくものなのか、と思う。作品が成長するというのはあり得ない話なのだが、やはりさまざまな美術館で展覧され、いろいろな人の目に触れられることによって、独特の空気が徐々に醸し出されていく、ということはありそうに思われるのである。すべての巡回が終わって、作品がその作者の手もとに返ってきたとき、それは作り手の予想もしなかったような変貌を遂げていた・・・。そんなこともあるのではなかろうか?

                    ***

 「日展」には、特選とか内閣総理大臣賞などといった賞がある。受賞作には当然のことながら注目が集まり、鑑賞者も「これが特選か」という気持ちで観るだろう。だが、ぼくはそういった先入観にとらわれることを自分に戒めている。たとえ無冠であっても、ぼくの心の琴線を激しく揺り動かす作品は多いし、反対になぜこれが特選になったのか、と首をひねるものも少なくない。そこにはまあ、いろいろな事情がからんでいるのかもしれないが、とにかくぼくは自分の感受性だけを頼りに、おびただしい絵や彫刻と向かい合う。

 彫刻部門の会場に入ると、ほぼ等身大の人物の立像がずらりと並ぶ。これは「日展」の全般的な傾向で、保守的といえばまことに保守的である。そんな中で、真っ先にぼくの眼を惹いたのが、山田朝彦の『讚』(上図)であった。

 全体に裸婦像が多い中で、シンプルなノースリーブのワンピースを身に着けた『讚』の女性はそれだけでも目立っていたが、何といってもその伸びやかなポーズには魅了された。真っ直ぐに上へ伸ばされた右腕と、肘のところで直角に折れ曲がる左腕。少しだけ前後に開かれた両足は、スカート越しにでもその美しいラインがよくわかる。

 はっきりいってしまえば、ぼくは彫刻に魅了されたというよりも、ここに表現された女性そのものに魅惑されたのかもしれない。ただこれはなかなか難しい問題であって、優れた風景画を観ていても、絵に魅せられているのか風景に魅せられているのか、わからなくなることがあるのと同じだ。ただひとつだけいえることは、『讚』の女性は自然体でのびのびしているように見えると同時に、舞台に立つ踊り子のような華をあわせもっているということである。

                    ***

 彫刻の技術の細かいことは、ぼくにはわからない。一見すると似たような人体像ばかりで、ほとんど見分けがつかないといってもいい。そんなぼくに彫刻を云々する資格はないようなものだが、それだからこそ、心に響く彫刻に出会ったときには、理屈を抜きにして見とれてしまう。街で行き交う名も知らぬ人々の中に、時々はっとさせられるような美しい人を見いだすように・・・。

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2 コメント

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はじめまして (shigeko)
2007-04-01 22:44:11
はじめて投稿させていただきます。
わたくしは小林柯白の姪でございます。
本日の内容とは異なる投稿で恐縮でございますが、伯父のことを検索しておりましたら貴方様のブロクにたどりつきました。
伯父の3作品についての随想を読ませていただき、胸が熱くなりました。
ここまで伯父の作品を深く鑑賞して下さるテツ様に感謝いたします。
長生きしていてくれたなら、沢山の作品が残り色々な方々に鑑賞していただけるのにと思いますと今更ながら残念でなりません。

最後にテツ様に、柯白の作品を深く鑑賞して下さり本当にありがとうございます。
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はじめまして (テツ)
2007-04-02 22:19:58
つたない記事をお読みいただき、本当にありがとうございます。まさか、画家の肉親の方からお言葉をいただけるとは予想もしませんでした。非常に驚きもし、感激も致しました。

ぼくの記事が、少しでも伯父様の存在を広めるお役に立てるとしたら、こんなに喜ばしいことはございません。

またのご来訪をお待ち申し上げております。ありがとうございました。
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