てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

コロナのもとで音楽を(1)

2020年10月16日 | その他の随想

(ある夜のザ・シンフォニーホール)

 今年は、コロナ禍という印象だけで過ぎて行ってしまいそうだ。

 この不自由な暮らしも、せいぜい何か月かの辛抱だと思っていたら、我々の生活を根幹から見直す必要に迫られてきた。本来マスク嫌いのぼくは、マスクをして出歩くことなどなかったが、今は必要不可欠なものになっている。人が服を着て外を出歩くのと同様、マスクなしで出歩くのは破廉恥極まりない、といった勢いだ。

 その一方で、人との接触や、いわゆる“密”を避けるため、さまざまなイベントが中止になった。ぼくの愛する展覧会や、演奏会も例外ではない。展覧会は今でこそ各地で開催されるようになり、これまでの不足を取り返すようにぼくもあちこち出かけているが、ところによっては予約制だったり、入口で整理券を渡されたりすることもある。いざという時のために連絡先を書かされる場合も多い。

 とはいっても、展覧会は人の集まる場合もあれば、さほどでない場合もある。自粛期間が明けるのを待って、さっそく南大阪の某美術館に赴いた際には、公開が再開された日の午後にもかかわらず、ぼくが再開後初の客だと知らされた。当然ながら他の観覧者はおらず、監視員もいなかったので、ぼくは堂々とマスクを取り、いつもと何も変わらぬようにじっくり絵を観て回ったのだった。

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 ただ、演奏会の方はどうなっているのだろう? 今年はベートーヴェン生誕250年という記念の年で、それにちなんだコンサートが数多く計画されていたはずだし、いつも以上に盛り上がる期待もされていたと思うが、やはり大半が中止になったのではなかろうか。

 オリンピックとはちがい、来年に延期というわけにもいかず、どうやらベートーヴェン祝賀の催しは不発のまま過ぎてしまいそうである。こうなったら、さらに50年後の「生誕300年祭」を待つべきかもしれないが、そうなるともう、ぼくは生きてはいない。

(つづく)