山に越して

日々の生活の記録

ミミの旅 10-6

2018-08-07 08:14:47 | 童話

 六

 

 ビー玉と話をしていたので、辺りはすっかり暗くなり少し寂しくなりました。ミミはベンチに戻り、リュックサックの中からパンを出して食べ始めました。

 まだ、皆さんにはミミのことを話していませんでした。

 ミミは海辺の小さな町に住んでいました。お父さんと二人だけの生活です。そのお父さんも、漁に出掛けると二日は帰って来ないときがありました。そう、お母さんは、ミミが今よりも小さかった頃に亡くなっていました。そんな訳で、ミミは、何時も何時でも家で独りぼっちでした。今回もお父さんが漁に出掛け、寂しくなってしまい、旅行をしようと思って出掛けたのでした。旅行に行くには、目的地や泊まるところを考えなくてはなりません。でも、ミミはまだ子供だったので、サンドウィッチや、お菓子や、ジュースをリュックサックに詰め出掛けてきたのです。

  夜の公園は街灯が赤々と燃え、光に誘われ、寄ってきた虫たちが話をしていました

「俺たちの一生も夏と共に終わるな」

  と、一匹の蛾が言いました。

「光の周りをぐるぐると回っているだけで、何故回っているのか知らない俺たちは何だろう?」

  と、他の蛾が答えました。

「俺たちは六千種類も仲間がいて、蝶とも同じ種類らしい」

「そんなにいても仕方がないだろう」

鱗翅類(りんしるい)と言うことだが、学者たちが名前を付けた」

「何れ研究材料だろう」

「生まれた時から人間たちとって害虫に過ぎない。成長すればまた殺虫剤を散布され駆除される」

「何のために生きているのか分からないな、蝶と同じ仲間なのに随分と待遇が違う」

「山には木々が青々と茂り、幼虫の時はその葉を食べる。でも、全ての葉を食べ尽くしてしまう訳ではない。葉を食べることで、こんもりとした茂みにも日が射す。それは、小さな木々や花の芽にも光を与えることになる。でも、人間たちはそのことを知らない。木の葉が茂り過ぎれば林の中は風通しが悪くなり、太陽の光が届かず、木々が病気になり森林を滅ぼす。枝が密生すれば自然発火による山火事も発生する。俺たちの幼虫が木の葉を食べることは、自然界のバランスを保つための重要な仕事だと知らない」

「人間たちは自分の都合の良いようにしか考えない。それが間違っていたとしても反省しない」

 ミミは蛾たちの話を聞いていました。

「それぞれ生き物には大切な役目がある。それを人間たちは知らない。植物も動物も、俺たちのような昆虫も生まれては死んでいく。しかし人間たちによって殺され、二度と甦ることのない動物や植物も沢山いる」

「自然環境が破壊され、乱獲され、家畜や移入された動植物など、人為的なことによって死滅した仲間たちの冥福を祈る」

「そして、何時の日か俺たちも、人間の行為によって死んでいく」

「何もない地球になってしまうな」

 ミミにはとっても難しい話でした。でも、難しいからと言って聞かない振りをする訳にもいきませんでした。そして、思い切って蛾たちに話し掛けました。

「ねえ、自然って何?害虫って何?死滅って何?学者って何?地球って何?家畜って何?冥福って何?」

 側に小さな子が居ることにも気付かなかった蛾は吃驚しました。

「君は?」

「ミミ」

「人間の子供だね」

「あなた達の話を聞いていたけれど難しくて分からない」

「俺たちは一生懸命生きている。でも、生きているって何だろうと考えることがある。小さな虫や動物は無視され、人間たちは自分の都合の良いように自然を変えていく。俺たちだって、頑張って生きていることを分かって欲しいときがある」

「誰も分かってくれないの?」

「何時だって、生きる場所なんて有りはしないよ」

「だって、まだ自然があるでしょ?」

「有りはしない。海も森も高い山の中にも人が住み生活している。山を崩し、道が出来車が走る。既に自然なんて無い」

「人間たちが悪いことをしているのね」

  一匹の蛾がミミの質問に答えました。

「ミミの生きている現在は、ずっと昔、昔から続いていた。そう、何億年も何十億年も昔から続いていた。誰が創ったのか知らないけれど、今、ミミが住んでいるところが地球、その地球には沢山の動物や、昆虫や、植物が毎日毎日一生懸命生きている。みんな必要があって生まれてきた。不必要な物など、この地球には何一つない。それどれが何らかの繋がりがあり、生きていくために助け合い、闘い、進化してきた。その一番高いところにいるのが人間たちである。人間に勝てる生物など地球には住んでいない。人間は、その知恵と力で地球を支配している。蛾も、蛙も、ライオンも、熊も猪だって太刀打ち出来ない。ミミ、空気は誰が作っているの?車のガソリンは何処から出てきたの?綺麗な川や海はどうして出来たの?蒼い空は何故、何時までも蒼くいられるの?ミミ、これからいろいろ知らなくてはいけない」

 そう言って蛾はミミの方を見ました。ミミはまだ小さかったので何と答えて良いか分かりませんでした。時間が過ぎ、静かな夜が更けていきました。蛾たちは相変わらず街灯の周りをクルクルと回っていました。