山に越して

日々の生活の記録

ミミの旅 10-3

2018-05-01 07:55:21 | 童話

 三

 

 その夜は星が綺麗に輝いていました。ミミは少しだけ寒かったので体を丸めて星を眺めていました。始め少しだった星も、辺りが暗くなるに従って増えてきました。でも、本当は増えてきたのではなく、ミミの目にもよく見えるようになってきたのです。

 夏の宵、日本海の浜辺では、宝石箱をひっくり返したように満点の星々が輝き地平に零れ落ちます。その美しいことと言えば、見た人にとって生涯忘れられない思い出となります。地平線の彼方に、真っ赤に燃えた大きな、大きな夕陽が沈み、暗くなり始めた空に、煌めくような星が拡がるのですから、自然というものは格別のことかも知れません。人間は美しいものを見なくてはなりません。特に子供の頃は、美しいものに出会うことによって、大人になってからも、美しいものを美しいと感じることが出来るようになるのです。

 お話を戻さなくてはなりません。タンポポさんは疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまいました。南の中天には、くじら座が光っています。その中心に光を変えて行く星、ミラが輝いていました。

「ねえ、あなたの名前を教えて!」

 と、ミミは語り掛けました。

「ミラ、ステラ」

「素敵な名前・・・」

「みんなから、不思議な星って言われているのよ」

「何故なの?」

「私は十一ヶ月の周期で明るくなったり暗くなったり、光り方が変わる星」

「星の光って変わらないと思っていたのに、ミラは変わってしまうの?」

「そうよ、脈動変光星って言うの。周期的に赤色が変わり、明るくなったり暗くなったりすることよ」

「不思議だね。所でミラにはお友達が沢山いる?」

「ええ、夜になると空一杯に拡がって出てくるわ」

「どんなお話をするの?」

「お別れしてもまた会いましょうねとか、もっともっと遠いところを旅行してみたいとか、色々するわ」

「では、寂しく感じることって無いの?」

「そうね、あるかも知れないし無いかも知れない」

「どっちなの?」

「寂しいと思えば寂しい、寂しくないと思えば寂しくない。きっと気の持ちようではないかしら?」

「分からない」

「つまりね、本当は寂しいのかも知れない。でも、その寂しさを心の中に隠してしまう。そうすれば寂しいことを忘れられる」

「でも、矢張り寂しいことに変わりがない」

「寂しいことを、何時も顔に出している訳にもいかないでしょ・・・怒っている顔も、可笑しくて笑っている顔も、悲しくて涙を流しそうな顔も、辛くて仕方のない顔も、嬉しいときの顔も、詰まらないと思う顔も色々あるけれど、そのまま顔に出す訳にはいかないの」

「演技をしているの?」

「そうね、仕方なく演技をしているのかも知れない。星たちの間でも、人間たちの間でも、自分の気持ちをそのまま顔に出せばトラブルが始まるでしょ?大人は大変不便で遣り切れなくなるときがある。でも、自分の思いのまま行動する訳にはいかない。周囲に気を使って行動しているの」

「何故なの?」

「長く付き合って行くためには、そうしなければならないの」

「私、自分の思ったことは何でも言える」

「ミミは子供でしょ、自分の好きなようにしても、他に影響しないから誰も何も言わない」

「それって、寂しいこと?」

「そうかも知れない。でも、何時かは大人になっていく。そうなったとき、私の言っていることが分かると思う。でも、それは分かるだけで良いのよ」

「私は一生懸命生きている。他の子たちだって同じと思う。それなのに大人たちが本当のことを言わないのは嘘つきよ。ねえミラ、ミラって本当は寂しいんでしょ?」

「でも、大丈夫」

「素直になるって大切なことでしょ?嘘をつかないって大切なことでしょ?」

「ええ、きっとミミの言う通りよ」

「私、寂しくて仕方がないときがある」

「何故なの?」

「だって・・・」

  ミミは、お母さんのことを思っていました。

「辛いことがあっても、寂しくても、悲しくても一生懸命生きることが出来る、そんな大人になって欲しいと思う」

 と、ミラが言ったとき空が陰ってきました。ミミが思案下にしていると、少しずつミラを隠して行きました。消えて行くミラに、ミミは慌てて、さようならと言いました。