一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『渇き。』 ……最初から最後まで役所広司が疾走し続けるブッ飛びの傑作……

2014年07月02日 | 映画


中島哲也監督作品『告白』を見たのは、もう4年も前のことだ。
2010年06月13日、
ブログ「一日の王」にレビューを書いているが、
タイトルが、
……湊かなえと中島哲也と松たか子の「覚悟」が傑作を生んだ……

あのレビューから少しだけ引用してみる。

で、見た感想はというと――
これは、とんでもない傑作だった。
松たか子の感情を抑えた演技、
少年「B」の母親を演じた木村佳乃の狂乱、
岡田将生の熱血すぎてウザいKY教師ぶり、
そして、生徒達の無軌道さ……
見事なキャスティング、
それに、演出。
それらのものを引き出したのは、優れた脚本だ。
あの原作を、なんともまあこれほどまでのものに仕上げるとは……
脚本と監督を手掛けた中島哲也に最大の讃辞を、拍手を……である。
この映画を見て、原作を完全に超えていると思った。
原作の不備な点を見事に補っているし、
原作を読んでいても読んでいなくても全く関係ないと思えるほど、
独自の作品世界を創り上げている。
いつものあの煌びやかな極彩色の映像ではなく、青みがかった暗めの色調を採用。
短いシーンを多用し、重ねることにより、スピード感が増し、緊張感も高まった。
凄い作品に仕上がっている。

(全文はコチラから)

しかし、このレビューを読んだ山友が、
「わたしもあの映画を見ましたが、とても傑作とは思えませんでした」
との感想をもらすのを聞き、
「私だけが特殊なのか?」
と、ちょっと不安になったりもしたが、

第14回プチョン国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞
第83回米アカデミー賞外国語映画賞部門・日本代表作品
第34回報知映画賞 監督賞
2010年キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン第2位
2011年エランドール賞 作品賞
第53回ブルーリボン賞 作品賞・助演女優賞
第34回日本アカデミー賞
(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀編集賞)
第2回日本シアタースタッフ映画祭 主演女優賞
映画館大賞2012 第1位


と、いろいろな映画賞を受賞するに及んで、
私の感覚は間違ってはいなかったと、
妙に安心したことを憶えている。

その、『告白』の監督・中島哲也の新作が、
4年ぶりに公開された。
それが、『渇き。』である。
原作は、第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、
深町秋生の『果てしなき渇き』。
主演の、ろくでなしの元刑事・昭和役に役所広司、
娘・加奈子役には新人・小松菜奈を抜擢。
妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀、國村隼ら、
豪華実力派俳優が脇を固める。
キャッチコピーが、
「愛する娘は、バケモノでした。」

映画が始まると同時に、
細かいカットを多用したような、
中島監督ならではのポップでスタイリッシュな映像の渦に、
吸い込まれ、巻き込まれてしまう。
中島監督作品に慣れていれば、
ある程度の展開は予想されるが、
それにしても、実に刺激的で、衝撃的な映像体験であった。

妻の不倫相手に対して暴行事件を起こし、
仕事も家庭も失った元刑事の藤島昭和(役所広司)は、
警備会社で働いているとき、
コンビニでの殺人事件に遭遇し、
警察での取り調べを受ける。


元部下の浅井(妻夫木聡)らから屈辱的な扱いを受け、
憤慨して帰宅するが、
別れた元妻の桐子から電話があり、
娘・加奈子(小松菜奈)が、
部屋に何もかもを残したまま姿を消したと元妻から聞かされ、
その行方を追い掛けることになる。


容姿端麗な優等生で、
学校ではマドンナ的存在のはずの加奈子だったが、
その交友関係を丹念にたどるうちに、
これまで知らなかった人物像が次々と浮かび上がってくる。


娘の本当の姿を知れば知るほどに、
昭和は激情に駆られ、次第に暴走。
その行く先々は血で彩られていく……


最初から最後まで、
主演の役所広司が疾走する映画であった。
ある程度は予想していたものの、
これほどとは思わなかった。
最初から最後まで、
一瞬たりとも目が離せず、
実に刺激的な118分であった。
中島哲也監督の演出力は言わずもがな、
最高水準の撮影(阿藤正一)や編集(小池義幸)の技術を、
これでもかと見せつけられる。
「理性」で見ると嫌悪を感じてしまうかもしれないが、
ただただ映像世界に身を任せていると、
それは次第に快感となっていく。
私としては、実に面白かった。
『スマグラー おまえの未来を運べ』(2011年)や、
『ヘルタースケルター』(2012年)
『白ゆき姫殺人事件』(2014年)でも、
同じような体験をしたが、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
本作『渇き。』では、「それ以上」であったと言える。

主演の元刑事・藤島昭和を演じた役所広司。
長崎県出身の私としては、
同じ長崎県(諫早市)出身の役所広司には、
特に親近感があり、昔から注目してきた。
彼が主演したドラマで、一番好きなのは、
1985年(7月4日~9月26日)に、
フジテレビ系列で毎週木曜日(22:00~22:54)に放送された『親戚たち』。
市川森一の脚本が素晴らしい、諫早が舞台のドラマで、
毎週楽しみに観た記憶がある。


ここ数年の映画では、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
『最後の忠臣蔵』(2010年)
『一命』(2011年)
『わが母の記』(2012年)
『終の信託』(2012年)
が記憶に残っているが、
本作『渇き。』は、その中でも、出色の一作であった。
快演ならぬ怪演。
キワモノ扱いされずに、
この映画が各賞にノミネートされるようであれば、
彼が主演男優賞候補になること間違いなし。


娘・加奈子役の小松菜奈。
1996年2月16日生まれの18歳(2014年7月2日現在)。
ファッションモデルであったが、
映画『渇き。』のオーディションで中島哲也監督に発掘され、
主人公の娘役となる加奈子役で本格的に演技初挑戦。
女優デビューを果たす。



この映画は、「謎に包まれた娘を探す」ことが柱になっており、
この作品の推進力でもあるので、
娘役の女優が魅力的でなければならないのだが、
まずは合格点をあげられるのではないかと思った。
少女と、大人の女性が同居しているような、
透明感がありながら、
危うくて蠱惑的な魅力に引き込まれてしまう。
中島監督は、実に好い女優を発掘したものだと思う。


その他、
藤島の元部下の刑事・浅井を演じた妻夫木聡、


回想シーンに登場した「ボク」役の清水尋也、


加奈子の同級生・遠藤那美を演じた二階堂ふみ、


加奈子の同級生・森下を演じた橋本愛、


藤島の元同僚の刑事・相川を演じたオダギリジョー、


加奈子の元担任・東里恵を演じた中谷美紀が、
素晴らしい演技で作品を盛り上げていた。


まさに「劇薬」級のストーリーと映像なので、
「誰にもオススメ」というワケにはいかないが、
本作がもし「観客を選ぶ作品」であるならば、
ぜひ選ばれる側の人間になってほしいと思う。
この映画を楽しめないとすれば、
きっと、あなたは、
「人生における多くの楽しみを失っている」
と思うからだ。


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