一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『柘榴坂の仇討』 ……中井貴一と広末涼子の凛とした佇まいが美しい傑作……

2014年09月24日 | 映画
夏休みが終わり、9月になって、
子供向けの映画が減って、
大人向けの映画が多く上映されるようになり、
事実、私はその中の少なからぬ作品を見ているのだが、
レビューを書く時間がなくて困っている。
見た映画が溜まっていく一方なのだ。
『るろうに剣心 京都大火編』(8月1日公開)がとても面白かったので、
続編である『るろうに剣心 伝説の最期編』(9月13日公開)も、
公開されたその日に見に行ったのだが、
「京都大火編」よりもさらに「伝説の最期編」は面白く、
すぐにでもレビューを書くつもりでいたのだが、
新しい映画を次々と見ているうちに、
書く機会を逸してしまっている。
今日はその『るろうに剣心 伝説の最期編』のレビューを書くつもりでいたのだが、
数日前に見た『柘榴坂の仇討』の印象がとても良かったので、
こちらのレビューを先に書いてみようと思う。

彦根藩の下級武士・志村金吾(中井貴一)は、剣の腕を見込まれ、
主君である大老・井伊直弼(中村吉右衛門)の警護を務める近習役に取り立てられる。
身分の低い者にも心のこもった言葉をかける直弼に魅了された金吾は、
命を懸けて主君を守ろうと心に決める。


安政7年(1860年)3月3日、
季節外れの雪の中、
江戸城桜田門へ向かう井伊家の行列を、
18人の暗殺者が襲った。


金吾は直弼の乗る駕籠を守っていたが、
敵の一人を追って持ち場を離れている隙に、
直弼は命を奪われる。


隠居していた両親は自害。
金吾も切腹を願い出るが、
主君を守れなかった罪は重く、切腹すら許されず、
「仇を討て」との藩命が下る。
仇を追うため、
妻・セツ(広末涼子)を実家に帰して旅立とうとするが、
セツは金吾について行くと言う。
そして酌婦に身をやつしながら、仇を追う金吾を支える。


時は移り、
彦根藩もすでに無い13年後の明治6年(1873年)、
ついに金吾は最後の仇・佐橋十兵衛(阿部寛)を探し出す。


だが、皮肉にも、その日、
新政府は「仇討禁止令」を布告していた。
直吉と名を変えた十兵衛が引く人力車は、
金吾を乗せて柘榴坂へ向かう。


そして、運命の二人は、13年の時を超え、
ついに刀を交えるが……


「幕末から明治」という舞台設定は、
面白いことに、映画『るろうに剣心』シリーズとまったく同じ。
そして、『るろうに剣心』がアクションを中心とした「動」の作品だとすれば、
『柘榴坂の仇討』は、正反対の「静」の作品と言えるだろう。
「桜田門外の変」の場面と、
柘榴坂で金吾と十兵衛が対峙する場面以外には殺陣のシーンはなく、
静かに、静かに、物語は進行していく。
息もつかせぬようなアクションシーンの連続であった『るろうに剣心』と比べ、
『柘榴坂の仇討』が退屈であったかというと、
それはまったくなかった。
退屈するどころか、静かなる緊張のうちに物語は進み、
上映時間の1時間59分がとても短く感じられるほどに面白かった。


映画鑑賞後に、原作である浅田次郎の『柘榴坂の仇討』を読んだが、
こちらは原稿用紙して50枚ほどの短編で、
よくぞこの短い小説を約2時間の作品に仕立て上げたものだと感心した。
大筋では原作と同じだが、
所々に変更が加えられており、
映画の方が原作の小説より深みと余韻のある作品になっていた。
監督は、『ホワイトアウト』や『沈まぬ太陽』の若松節朗。
格調の高さと映像の美しさは、若松節朗監督に由るところ大である。


音楽は、久石譲。
各シーンで流れる音楽は、本当に素晴らしく、
あらためてサウンドトラックを聴きたいと思わせるほどの美しい曲ばかりであった。

キャストでは、
やはり主演の中井貴一が良かった。
浅田次郎原作の『壬生義士伝』(2003年)でも主演を務めていて評価が高かったが、
本作でも、
移り変わる時代の中で、
侍としての誇りと覚悟を持ちながら、仇を追い続ける「最後のサムライ」を、
実に上手く演じていた。
中井貴一が出演する映画やTVドラマは、
どのようなジャンルの作品であっても、品があり、格調がある。
父が佐田啓二という毛並みの良さと、
才能と経験によって磨かれた演技力がそうさせるのであろうが、
本作でもそれを感じさせられた。


志村金吾の妻・セツを演じた広末涼子も良かった。
1980年7月18日生まれだから、現在34歳(2014年9月24日現在)だが、
演技においても、美しさにおいても、
今が最も脂がのっているように感じる。
本作『柘榴坂の仇討』では、
夫を支える凛々しくも心優しき武士の妻を好演しており、素晴らしかった。
映画では時代劇は初めてだそうだが、
着物姿も美しく、どのシーンでも見惚れてしまった。


広末涼子の若い頃は、私はあまり好きではなかったのだが、
『おくりびと』(2008)の頃から、どんどん魅力的になり、
私の好きな女優の一人になった。
『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(2009年)
『ゼロの焦点』(2009年)
『鍵泥棒のメソッド』(2012年)
なども強く印象に残っている。(タイトルをクリックするとレビューが読めます)

ここで少し脱線するが、
皆さんは、NHKの「ドラマ10」を観ておられるだろうか?
『セカンドバージン』『はつ恋』など、
女性視聴者に評判の話題作が多いので、
御存じの方も多いことと思う。
現在放送中なのは、広末涼子主演の『聖女』。
これが、とても面白く、私は毎週欠かさず観ているのだ。


美貌の殺人容疑者・肘井基子に広末涼子、


初恋の殺人容疑者を偶然にも弁護することになった若手弁護士・中村晴樹に永山絢斗、
晴樹の婚約者に蓮佛美沙子、
 


この他、岸部一徳、田畑智子など、
 


芸達者の俳優陣が脇を固め、
恋の行方に事件の真相が絡まりあい、
一瞬たりとも目の離せない展開になっている。


ヒロイン基子が幼いころに一目見て魅了されたのが、
フェルメールの「聖女プラクセデス」。
イタリア人画家フィケレッリが描いた「聖女プラクセデス」を、
17世紀オランダ絵画の巨匠フェルメールが模写したものだが、
フィケレッリのオリジナルと違う点があり、
それはプラクセデスがその手に十字架を握っていること。
この絵が、ドラマ『聖女』の重要なモチーフとなっているので、
その点も興味深い。
 


主題歌は、現代の歌姫JUJU。


シナリオに共感して作ったという「ラストシーン」という曲がとにかく素晴らしい。
毎回、ドラマのラスト近くで、絶妙のタイミングでこの曲がかかる。


すでに5話が終了していて、
全7話のようなので、残り2回。
ぜひぜひ。


映画『柘榴坂の仇討』のレビューに戻って、(笑)
中井貴一、広末涼子の次は、
井伊直弼を暗殺した刺客の最後の生き残り佐橋十兵衛を演じた阿部寛。
ここ数年の出演作では、やはり、
『テルマエ・ロマエ』(2012年)
『テルマエ・ロマエII』(2014年)
が有名だが、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』(2012年)
で、中井貴一とすでに共演している。
(この映画は映画館で見たが、レビューは書いていない。殺人動機が弱いと感じ、作品的にあまり評価できなかったからだ)
『テルマエ・ロマエ』のコミカルな演技とは違い、
『柘榴坂の仇討』では、
人目を忍び、車引きとして生きる孤独な男を、静かで確かな演技で見る者を魅了する。


また、井伊直弼を演じた人間国宝でもある歌舞伎役者・中村吉右衛門は、
出演シーンは少ないものの、その圧倒的な存在感で作品を締める。


その他、藤竜也、


高島政宏、


真飛聖などが、


素晴らしい演技で作品を盛り上げる。

侍である男たちの物語であると思いきや、
その男たちを支える女たちの物語でもある。
老若男女を問わず、多くの人に薦めたい一作である。

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