一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『のぼうの城』 ……狂言師・野村萬斎(成田長親役)が主役である理由……

2012年12月06日 | 映画
戦国末期、
豊臣秀吉、石田三成の2万の軍勢に屈せず、
たった500の兵で抗戦し勝利した実在の武将“のぼう様”こと成田長親の姿を描いた作品。

多くの映画は、
映画化の話が持ち上がってから公開されるまで、かなりの年月を費やすが、
この『のぼうの城』も例外ではなく、公開されるまでに約8年もかかっている。


【2003年冬】
和田竜氏、「忍ぶの城」で第29回城戸賞受賞。
【2004年6月】
久保田プロデューサー、和田氏と初面会。
そのおよそ2ヶ月後、久保田Pから映画化権を預からせてほしいと依頼。
和田氏、それを快諾。
【2004年秋】
久保田P、犬童監督に映画『忍ぶの城』の監督を依頼。
樋口監督にも参画してもらおうというアイデアから犬童&樋口W監督構想が始まる。
【2005年1月】
和田氏、犬童監督、樋口監督、初の3者打合せ。
【2005年夏】
のぼう役として野村萬斎にはじめて打診。
【2005年冬】
久保田P、製作委員会組成の難しさに直面し、
このオリジナル脚本の小説家を小学館・石川氏に相談。
出版に前向きな返事をもらう。
【2006年1月】
久保田P、「忍ぶの城」の小説家を和田氏に相談。
数日後、和田氏より小説を書いてみるとの返事を得る。
【2007年11月】
タイトルを「のぼうの城」に変え、
和田氏執筆による小説が出版。
【2008年秋】
映画化が正式に決定。
【2009年春】
小説「のぼうの城」が、本屋大賞2位に選ばれる。
【2010年8月15日】
クランクイン。
【2010年11月5日】
クランクアップ。

当初は2011年9月17日公開の予定だったが、
「水攻め」のシーンがあることから、
2011年3月11日の東日本大震災による被害に配慮し、公開延期が決定。
公開日が2012年11月2日に決まり、
それが発表されたのは、2011年5月9日であった。
震災の影響で、公開が延期された映画の多くが比較的早期に公開決定したのに対し、
1年以上も公開が延期されたのは、『のぼうの城』だけだった。
それだけ、同映画の「水攻め」描写にリアリティがあったということだろう。
事実、冒頭と終盤にこの「水攻め」のシーンがあるが、
すごい迫力で、東日本大震災より前に撮影されていたにもかかわらず、
大震災を予見していたかのような映像には、正直驚かされる。
撮影された段階での映像はもっとリアルで、
人間が水に飲み込まれてゆくシーンなどもあったそうだが、
これらは大幅に修正が加えられたとのこと。


年表のところでも紹介しているが、
本作は、犬童一心・樋口真嗣のW監督。
『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)や『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)などで有名な犬童一心監督と、
『ガメラ』シリーズや『ローレライ』(2005年)、『日本沈没』(2006年)などの監督・特撮監督として知られた樋口真嗣監督が、
それぞれの持ち味を存分に発揮し、
見応えのあるシーンを数多く作りだしていて、
2時間25分、まったく飽きさせずに、最後まで引っ張っていく。


キャストでは、やはり主人公・成田長親役の野村萬斎が秀逸。


彼なくしては、この作品は成らなかっただろう。
飄々とした日常生活ぶりも好いが、




クライマックスは、この主人公が田楽踊りをするところ。
田楽踊りの歌詞と振りは、監督2人と野村萬斎の3人で作ったそうだが、
グラグラする小舟の上での


「わいせつでくだらない」(監督弁)田楽踊りが素晴らしい。


敵の下っ端の兵たちを惹きつけ、踊りで盛り上げていくシーンは見事だ。


狂言師・野村萬斎が主役である理由がここにある。


甲斐姫役の榮倉奈々もなかなか良かった。
(今回は彼女が出演しているので見に行った部分が大きい)


男勝りではあるが、美しく、長親に恋する甲斐姫役を好演していた。


昨年見た、
『東京公園』(2011年6月18日公開)
『アントキノイノチ』(2011年11月19日公開)
の彼女も良かったが、
今年放送されたTVドラマ『黒の女教師』での回し蹴りが強烈に印象に残っている。(笑)


対象者に得意技である一撃必殺の回し蹴りを浴びせ、


「愚か者!」の一喝し、
悪事を行ったことによって自分自身に因果が返ってくることを
「学校で先生に教わらなかった?」
と諭す。
実に「スカッとする」ドラマだった。(かなり脱線)


石田三成役の上地雄輔も健闘していた。


2007年、『クイズ!ヘキサゴンII』にゲストとして出演し、
ゲストとして初の最下位で、珍解答を連発。
その後常連出演者となって有名になったので、
バラエティ出身と思っている人が多いと思うが、
彼は既に1999年にTBSの連続ドラマ『L×I×V×E』でデビューしており、
その後、端役ながら数々のドラマや映画に出演し、
俳優としてのキャリアはかなり積んでいる。
それを知らない人は、
落ち着いた演技で石田三成を巧みに演じている彼に、
きっと驚くことだろう。


その他、
正木丹波守利英役の佐藤浩市、


大谷吉継役の山田孝之、


柴田和泉守役の山口智充、


豊臣秀吉役の市村正親、


農民・かぞう役の中尾明慶などの演技が印象に残った。


農民・かぞうの妻・ちよを演じていたのが、尾野真千子。
河瀬直美監督作品の
『萌の朱雀』(1997年・シンガポール国際映画祭主演女優賞)や、
カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『殯の森』(2007年)などで主演し、
知られた存在ではあったが、
NHK連続テレビ小説『カーネーション』(2011年10月3日~2012年3月)のヒロインに選ばれ、大ブレイクし、国民的女優の仲間入りをした。
この『のぼうの城』のちよ役は、『カーネーション』以前に撮影されているためか、
やや地味な役柄だ。
それでも尾野真千子の存在感は抜群で、とても魅力的だった。


来年(2013年)5月11日公開予定の『探偵はBARにいる2』(第1作目がとても良かったのでシリーズ化を期待していた。嬉しい!)では、


ヒロイン(美人バイオリニストの役らしい)を演じることになっており、


とても楽しみ。


映画『のぼうの城』は、
TBS開局60周年記念作品であり、
諸事情で公開は遅れたものの、
全国328スクリーンで公開され、
2012年11月2日からの3日間で、
興収5億490万1,150円、
動員40万9,352人になり、
映画観客動員ランキングで初登場第1位となった。
続く公開2週も、
累計興収11億8,404万5,250円、
累計動員98万2,363人となり、
2週連続第1位となった。
その後も順調に推移し、
12月2日現在で、
累計動員197万8,656人、
累計興収23億6,672万3,800円を記録している。
一時はお蔵入りも噂された作品だけに、
この大ヒットにはTBSも大喜びしていることだろう。

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