一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『アントキノイノチ』 ……遺品整理業という仕事を通して命と向き合う……

2011年12月08日 | 映画
2010年の日本人の平均寿命は、
女性が86.39歳(世界1位)、
男性が79.64歳(世界4位)。
しかし、人間、
〈50歳を過ぎたら、いつ死んでもおかしくない……〉
と思っている。

50代で亡くなった著名人を思いつくままに挙げてみると、

いわさきちひろ(絵本作家・享年55歳)
吉田満(作家・享年56歳)
五味康祐(作家・享年58歳)
立原正秋(作家・享年54歳)
越路吹雪(シャンソン歌手・享年56歳)
ビル・エヴァンス(ジャズピアニスト・享年51歳)
スティーブ・マックィーン(アメリカの俳優・享年50歳)
有吉佐和子(作家・享年53歳)
石原裕次郎(俳優・享年52歳)
美空ひばり(歌手・享年52歳)
開高健(作家・享年58歳)

ここ数年に限っても、

氷室冴子(作家・享年51歳)
青山孝史(歌手、元フォーリーブス・享年58歳)
忌野清志郎(ロックミュージシャン、元RCサクセション・享年58歳)
頼近美津子(司会者、元NHK・フジテレビアナウンサー・享年53歳)
栗本薫(作家・享年56歳)
マイケル・ジャクソン(アメリカのミュージシャン・享年50歳)
大浦みずき(元宝塚トップスター・享年53歳)
早乙女愛(女優・享年52歳)
シルヴィア(歌手・享年52歳)
田中好子(女優・享年55歳)

と、きりがないほど……
〈50歳を過ぎたら、いつ死んでもおかしくない……〉
本当にそうなのだ。
そう思い定めると、死への準備も、そろそろしておく方がいい。
まずは不必要なものを捨てる。
そよかぜさんが、以前、「ステキ」(捨て期)と、素敵な表現をされていたが、
50代はまさに「ステキ」の年代といえるかもしれない。
捨てるには、体力が必要なのだ。
気力、体力のある50代こそが「ステキ」な年頃なのだ。
〈そのうちに……〉
なんて思っていたら、多くの物を残したまま死を迎えることになる。
そして、やがて、遺品整理業者のお世話になるかもしれない……

近年、この遺品整理業が注目を浴びている。
少子高齢化・核家族化を背景に、
家具や生活用品が大量に残された状態で独居老人が亡くなった場合、
残された遺族には遺品の整理と廃棄が負担となり、
遺品整理業者に依頼することが多くなっているようなのだ。

映画『アントキノイノチ』は、
この遺品整理の仕事を通して、
心に傷を負った若者男女ふたりが、
命の現場に立ち会い、
死と向き合い、
もがき苦しみながらも成長していく姿を描いたものである。

高校時代に親友を“殺した”ことがきっかけで、
心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)。


3年後、杏平は、父・信介(吹越満)の紹介で遺品整理業“クーパーズ”で働くことになる。


先輩社員・佐相(原田泰造)、久保田ゆき(榮倉奈々)とともに現場に向かった杏平。


ゆきに遺品整理のやり方を教わっている最中、
彼女の手首にリストカットの跡を見つける……。
ゆきには、かけがえのない命を守れなかったという過去があった。
そのことでゆきは自分を責め続けていたのだ。
お互いの過去を語り合ううち、心を通い合わせていく二人。


だが、ある日、ゆきは杏平の前から姿を消してしまう……

原作は、さだまさし。
映画化されたさだまさしの作品は案外多くて、
この10年ほどの間にも、
映画『精霊流し』(2003年)
映画『解夏』(2004年)
映画『眉山-びざん-』(2007年)
それに、本作『アントキノイノチ』(2011年)と、
4作もある。
いずれもややあざといストーリーながら、
愛すべき小品として記憶に残る作品になっている。
これは評価してよいことだろう。

永島杏平役の岡田将生。
『告白』(2010年6月5日公開)
『悪人』(2010年9月11日公開)
と、昨年はその年を代表する傑作2作に出演し、
演技力も増してきている。
本作においても、難しい役柄ながら、見事に演じている。
来年は、
『宇宙兄弟』(2012年春公開予定)
『ひみつのアッコちゃん』(2012年9月公開予定)
の映画2作が控えているし、
TVドラマでは、
NHK大河ドラマ『平清盛』(2012年1月~12月)で源頼朝の役、
テレビ朝日系の主演ドラマ『聖なる怪物たち』(2012年1月~3月)
がすでに決まっている。
来年も彼から目が離せないようだ。


久保田ゆき役の榮倉奈々。
『東京公園』(2011年6月18日公開)
での好演が記憶に新しいが、
現在は、
菅野美穂とのダブル主演TVドラマ『蜜の味』(フジテレビ系)で、
禁断の三角関係を演じている。
脚本が大石静なので毎回見ているが、なかなか面白い。
榮倉奈々の演技は(映画の方も)イマイチなのだが、
その存在感はピカイチ。
これから大いに期待できる女優だ。
来年は、TBS系のTVドラマ
『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜』(2012年1月~3月)
が決まっている。
タイトルからして、また「命」に関わるドラマのようだ。
楽しみだ。


遺品整理業者「クーパーズ」社員・佐相役の原田泰造。
映画では、
『ジャンプ』(2004年)
という作品(佐賀・伊万里と縁のある映画で佳作)で主演しており、
TVドラマにも数多く出演しているので、演技には定評がある。
本作においても、落ち着いた静かな演技で、
岡田将生と榮倉奈々をしっかり支えている。


この他、
映画『悪人』で岡田将生と共演した、柄本明、宮崎美子も出ていて、
相変わらずの素晴らしい演技を見せてくれていて嬉しかった。

永島杏平(岡田将生)の高校時代の所属クラブは山岳部で、
登山している場面がかなり重要なシーンとして登場する。


設定は、かなり標高の高い危険な山なのであるが、
ロケされたのは、山口県防府市にある右田ヶ岳(426m)。


私は2007年の9月に登っているが、
低山ながら、岩場の多い、素晴らしい山であった。


切り立った岩場でロケがなされているので、
映画で見た場合は、かなり迫力あるシーンになっている。
これはロケの模様であるが、


下の写真は私が2007年に撮ったもの。
この写真の中央下の岩場がロケ現場かもしれない。


山好きは、こういう場面も楽しめるので、なんだか得した気分。(笑)

本作は、
第35回モントリオール世界映画祭にて、
出品作品の中で最もインパクトを与え、革新的で質の高い作品として、
イノベーションアワードを受賞している。
設定がちょっと『おくりびと』に似ているが、
遺品整理について深く考えさせる作品であり、
特に50歳以上の人にオススメの映画である。

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