高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

読んで、出会って、教わって 坂本

2015-03-07 21:03:08 | つながり

坂本 有加

 高槻成紀先生、御退官おめでとうございます。長年にわたり御指導を頂きましたこと、心より御礼申し上げます。
 私が野生動物の研究を志すきっかけとなったのは、先生の著書『野生動物と共存できるか』でした。この本が発行された当時、私は高校3年生でした。学校の図書室の新書案内で見かけ、とても気になったのですぐに借りに行きました。あとはもう夢中で読みました。こんな世界があるのかと思いました。そしてその世界に私も入るのだと決めましたが、進学先は野生動物の勉強ができるならどこへでも、というつもりでした。無事合格した麻布大学へ入学すると、まず動物応用科学概論という講義がありました。動物応用科学科の先生方から研究内容や自己紹介を聞くのですが、何回目だったでしょうか、野生動物学研究室の先生のお話を聞いていると、その先生も麻布大学に来たばかりとのことでした。そして、「私が今まで書いた本は、…」と、スライドが切り替わりました。スクリーンには、見覚えのある、ツキノワグマの絵が印象的なあの本が映っていました。『野生動物と共存できるか』。「え?あの本の人?」本当に驚きました。先生が麻布大学へ赴任されたまさにその年、そうとは全く知らない私は入学したのでした。そして4年間はあっという間に過ぎ、卒業した後も、先生にはお世話になりっぱなしです。なんだか卒業した気がしていませんが、今までの思い出を少し書いてみようと思います。

<学生の観察>
先生は研究室のお茶飲みテーブルの空間を大切にされていて、そこは私たちにとっても居心地がよく、テーブルを囲んでお弁当を食べたり、お菓子を食べながらお喋りをしたりして過ごしました。私たちは先生とお茶を飲んだり、歌についてお喋りをしたりしました。そんな時に先生は、学生のことをよく観察されていたようです。ある日、学生同士でお喋りをしていたら、瀧口先輩から「坂本さんは本当におもしろい時にだけ笑うよね」と先生が言っていたよ、と聞きました。まったく自覚はなく、見られていることも知らず、どう返せばよいのかも分からず、ちょっと恥ずかしかったことを覚えています。

<学生生活最良の2週間>
3年生の夏に、モンゴルでの調査に同行させて頂きました。先生や大津さん、藤本さんたちのお手伝いとして奮闘した2週間は、学生生活最良の時間となりました。『野生動物と共存できるか』にはモンゴルのモウコガゼルやタヒのことが書いてありました。本で読んだ風景、広い空の下、乾いた空気の中に自分がいて、しかも先生と一緒に来ていて、ペアを組んで訪花昆虫の調査をしていたのです。なんとも不思議な気持ちでした。忘れてはいけないのがモンゴルの人たちとの出会いです。皆さんとても親切で、何度も助けて頂くうちに、研究は一人ではできないことを実感しました。お別れの挨拶をした時には、そのことを痛いくらいに感じました。そして、こうした人とのつながりを先生が長年大切にされてきたことを理解しました。さて帰国が迫る頃、採集した糞虫の管理について問題が起きたので、宗兼さんと二人で先生の部屋を訪れました。今思えば「相談」に行けばよかったのに、それまでの経緯から、私は「抗議」に行くような態度をとっていました。だいぶケンカ腰だったのではないかと思います。それでも先生は私たちの話を聞いてくださり、問題は解決されました。今でも思い出すたびに、あの時の私はなんて生意気だったのだろうと反省しています。

<秘かな楽しみ>
先生は文章を書くのが早く、メールの返信も早いです。きっと、そうしないと追いつかないほどの仕事が、次々と控えているからだと思います。先生の仕事を溜めない姿勢を尊敬しています。その分、と言っていいのでしょうか、メールには誤変換が紛れていることがありました。文脈から本当の言葉を読み取ることが、私の秘かな楽しみでありました。レポートや、大学祭のポスター原稿に手書きで添削して頂くこともありました。これもたまに読めないものがあって、(特に漢字が難しいのですが)室生と協力して判読するのもまた楽しみでした。私は先生の字を判読するのが、他の人よりちょっと得意だと思っています。

<宝物>
熱心に研究に取り組まれる先生の姿から、生き物を研究することの面白さ、そして科学の面白さを知ることができました。研究室で過ごした日々を始めとして、大学に入ってよかったと思うことは沢山あります。その中で、科学的な視点を持つことができたことも私の宝物だと思っています。データの読み方が分かるようになると、物事の捉え方が変わり、世界の見え方が変わってくるようでした。そして自分の視点を持つことができたと感じました。まだまだ未熟な私は、科学について語るだけの経験が足りないと感じています。これからも科学的な視点という宝物を大切に磨いていきたいと思います。
先生、長い間お疲れ様でした。これからもお体にお気を付けてください。
(2011年 麻布大学卒業)

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