高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

ヤセイはかぞく

2015-03-07 08:53:49 | つながり
笹尾 美友紀

「研究室のメンバーを家族にしたら、誰がどの役だと思う?」
「○○先輩がお母さんで、○○ちゃんはお姉ちゃん。○○はペットかな?」
 研究室に在籍していたとき、誰かがそんな話をした。
 大学を卒業して研究室から離れた今、野生動物学研究室(ヤセイ)のことを振り返ってみると、たしかにその関係は家族のようなものだった。頼れてかっこいい先輩たち、心配をよそにしっかりしている後輩、そして濃すぎるキャラクターでやりたい放題の同期たち。普通ならば関わり合うことがなさそうな人たちが「野生動植物を学びたい」という一つの目的のために集められ、無知を飛び越え、個性を認め合い、お互いに本音で語り合える不思議な間柄になることができた。どんなに研究について熱く議論しても、その後は楽しく一緒に昼食をとり、談笑をする。今思えばよく大きな喧嘩や対立もなく卒業できたものだ。相手の気心が知れているからこそ安心して本音を話すことができた。この関係をもう一度別の場所で築こうとしても、それはとても難しいだろう。このかけがいのないヤセイのみんなとの関係を一言で表現しようとするならば、友達という一般的な言葉ではなく、やはり家族という表現の方がしっくりくるように思う。では高槻先生はヤセイ一家とはどのような関係なのだろうか。これについて無礼を承知で私が考えさせて頂くと、先生はヤセイ一家の「おじいちゃん」であると思う。
 ありがたいことに私は、学生時代に高槻先生からたくさんの任務(これを心の中で“高槻ミッション”と呼んでいた)を頂いた。高槻ミッションは研究室での雑務をはじめ、他研究室との交流やイベントの企画など、自称控えめな私には経験したことがないような大役ばかりであった。力不足な部分もあり、ほかの室生たちに大きく助けられながらも精一杯務めさせて頂いた。そのため周りからはよく“笹尾は高槻先生と意思疎通ができている、よく話している”という勘違いがあるのだが、正直に言うと私は先生とあまりお話したことがない。これは私の極度な人見知りが効いているのと、先生に対して“恐い”という思いがあるからかもしれない。
 先生が学生を叱るときには真っ当な理由があるときで、なおかつそれは学生を思いやってのことだと私は感じていた。そのため怒られて“怖い”のではない。私の先生に対する“こわい”は恐れ多いの“恐い”である。先生の自然に対して真摯に考え、取り組むという研究に向かう姿にはもちろん、ありがとう・ごめんなさいを迷いなくおっしゃる点など人間としての姿にも私は純粋な尊敬の念を抱いている。そして学生時代には先生から研究に対しても、人としても多くのことを学ばせて頂いてきた。少し生意気だが、そうするうちに物事の考え方が少し先生のようになってきたかなと思うときも度々ある。もしかしたら先生とお話をするときに相槌以外の言葉が浮かんでこなくなるのは、尊敬しすぎて近づくことが恐れ多いと感じているからで、そうだとすれば仕方がないことなのかもしれない。
 これまで述べてきたことだけであれば、先生は「職場の上司」というような例えでもいいかもしれない。しかし先生のことを「おじいちゃん」と表現したのは、時折とても親近感を感じるからだろう。頭骨のスケッチの実習中に先生の口笛が響きわたったこと、朝食のトマトをすぐ学生にあげること、サンショウの実を学生にわざと食べさせていたこと、調査地であるアファンの森で「お~い!」と大声で呼びかけながら私たちを探して森中を歩いて下さっていたこと。私が見てきた先生は、私が以前に思い描いていた教授という概念とは少し違っており、しかしそのようなユーモアな言動が私に親近感を感じさせた。中でも一番驚いたのは私を呼ぶときに“ささごん”という私の愛称を使って下さったことだ。先生に近づけなかった私にとっては、笹尾さんと呼ばれ続けるよりは、愛称で呼ばれていたことで肩の力ももしかしたら少しは抜けていたのかもしれない。
 これらのことから「多くのことを学ばせてくれ、おもしろいけどちょっと恐いおじいちゃん」というのが高槻先生のヤセイ一家での立ち位置であると思う。なによりも意見をまっすぐに主張する高槻先生がいなければ、学生同士が本音で語り合うこともなかったのかもしれない。つまりヤセイ一家ができたのも高槻先生のお陰である。
 この文章を書いて、私はどうして先生とあまりお話できなかったのか考えるきっかけになったのと同時に、先生は私に対してとても歩み寄って下さっていたことに今更ながら気が付き、後悔と反省をしている。大変申し訳ありませんでした。また今度、高槻先生にお会いするときには、もっともっとたくさんお話ができるようにしておかなくてはいけない。
(2014年 麻布大学卒業)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「つながり」を読んで | トップ | ON THE RETIREMENT OF PROFES... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

つながり」カテゴリの最新記事