シネマと虎とグルメたち

犬童一心監督作品に「ジョゼと虎と魚たち」があった。オイラは「観た映画が面白くて、美味いもの食って阪神が快勝」を望んでる。

ソフト/クワイエット

2023年06月02日 | 映画
過日定期検査で病院を訪れた帰りに映画館に寄ってみた。
公的な会合が多かった5月で、久しぶりの映画館であった。
時間的に良かったので12:00からの「ソフト/クワイエット」であった。

「ソフト/クワイエット」 2022年 デンマーク / ドイツ / スウェーデン / フランス

監督 ベス・デ・アラウージョ
出演 ステファニー・エステス  オリヴィア・ルッカルディ  エレノア・ピエンタ
   デイナ・ミリキャン  メリッサ・パウロ  シシー・リー

ストーリー
とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。
教会の談話室で行われた第1回の会合に集まったのは、主催者のエミリーを含む6人の女性。
マージョリーは勤務先でヒスパニック系の同僚がさきに昇進したことに腹を立て、食料品店の店主で2人の子どもを育てるキムは、ユダヤ系の銀行に融資を断られたことを根に持っていた。
その他、キムに誘われて集会に来た刑務所上がりのレスリー、ブラック・ライブズ・マター運動に異議を唱えるアリス、生まれたときから秘密結社KKKの一員だと話すジェシカが参加していた。
多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。
会合の内容を知った教会の神父から「面倒がごめんだから今すぐ帰ってくれ」と言われてしまい、エミリーは自宅で2次会を開こうと提案し、キム、マージョリー、レスリーはキムの食料品店で買出しをすることにした。
そこへ閉店中と知らずにアジア系の姉妹アンとリリーが来店し、思わぬトラブルに発展してしまった。
最悪の空気の中、エミリーの夫クレイグが迎えに来たが、4人の怒りは一向に収まらない。
姉妹の家に押し入り、仕返しをしてやろうと計画する。
クレイグはエミリーに止めるよう説得するが、「妻が侮辱されて何とも思わないの?」と言い寄られ、仕方なく同行することになった。
エミリーたちは姉妹が留守にしている家に忍び込むと、モノを壊しパスポートを燃やそうとするなど迷惑行為を続けていたところへアンとリリーが帰宅してきた。
度を越した4人の行為に激怒したクレイグは、最初こそ証拠隠滅のために姉妹の拘束を手伝うがそのまま現場を去った。
残された4人は口封じのために姉妹を脅し、卑劣な行為を繰り返した。
エミリーたちは極限状態からまともな判断ができず、やがて取り返しのつかない恐ろしい事態を引き起こしてしまう。


寸評
冒頭で教師のエミリーが少年に黒人の掃除係に注意を言いに行かせる。
教師なら自分で言うべきことなのにと思って見ていると、カメラはそこからワンショットでエミリーを追っていく。
教会の談話室を借りての会合なのだが、話される内容は白人至上主義の人種差別容認であり、女性は専業主婦でなければならないと述べ、エミリーが持参した手作りのピザにはナチスのカギ十字がほどこされているなど、現在の社会が目指していることとは真逆の思想の持ち主たちであることが示される。
僕は彼女たちの会話に嫌悪感が湧いてきて、この映画の存在価値を否定する気持ちでいっぱいになる。
やがてエミリーの家での二次会が提案されキムの店に向かうのだが、ずっとワンショットで撮られているために、話はリアルタイムな展開を描いており、場所を変えながらも描かれる彼女たちの姿は普通に存在する人たちだと思わせてくる。
そして起きていることは普通に起こりえることなのだとの想像を生み出していく。

彼女たちがアジア系姉妹の家で行うことはひどい。
傍若無人で明らかに犯罪行為だ。
時々良心的な言動を見せたりするが、結局は誰も暴走を止めることが出来ない。
繰り広げられる行為はヘドが出るようなもので、戦場におけるむごたらしいシーン以上の嫌悪を感じる。
見終ると全くもって腹立たしく、嫌な気持ちで映画館を出ることになったのだが、僕はそこでふと思った。
この映画を認めることが出来ず、嫌な気持ちを持ったということは、僕はまともな人間だったのだと。
人種差別意識は根深く、この映画はごく普通の人が変身を遂げてしまうプロセスをみせ、世の中に内在されている危うさをベス・デ・アラウージョは訴えていたのかもしれない。
ごく普通の人が自分たちが気付かないうちに徒党を組んで暴徒と化してしまっている危うさである。
集団でなくても、個人的に妄想を抱いて首相を襲う輩も出現してしまう世の中のゆがみだ。
逆説的な映画だったと思うが、それにしても後味の悪い映画だったなあ・・・。
もしかするとこの後味の悪さを感じさせるのが狙いだったのかもしれない。

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