前回の続きです、ヒツジのべビーブーム!
英国の春の風物詩とも言える、ヒツジの出産ブーム lambing がー段落、母ヒツジといっしょに放牧されるかわいらしい仔ヒツジが国中の牧草地で見られる初夏です。
前回の記事のリンクです☟(投稿以後、写真を数枚あらたに加えました)
季節の風物詩、ヒツジのベビーブーム!仔ヒツジ見物ならやはりここ!
ピーク・ディストリクトの静かな田舎町、ホープの古いパブで昼食をとり、またクルマに乗って同じくピーク・ディストリクトの観光客で大賑わいの「ハニーポット・ビレッジ」、カースルトンを走り抜け...
...1~2㎞ほど行くと私たちが帰り道に必ず寄るスポットがあります。
道路の左側に、丘陵の放牧地に続く細道に入る、クルマが2台ぐらい停められそうな小さな空き地があります。そこにクルマを停めて...
苔むした古い古い石塀(ドライストン・ウォール drystone wall)に沿って徒歩で細道を3分ほど歩くと...
ドンッと視界が開けて放牧場に出ます。
「巨大なレゴ・ブロックの写真、撮れば?」と夫が勧めたので写真におさめました。なんだろう、このコンクリートのかたまり...?
ちなみに、この場所は農地(放牧場)の持ち主所有の私有地です。クルマの乗り入れは禁止ですが、徒歩の通行は許されています。
ピーク・ディストリクトのようなナショナルパーク規模の景勝地に限らず、英国ではすべての人に農地を通行する権利があるとして、一定以上の広さを有する私有地の所有者に「パブリック・フットパス public footpaths」という通り道をもうけることを義務付けた法律があります。
この農地に乗り入れるトラクターが通り抜けられる幅がある道は「パブリック・フットパス」ではなく、徒歩とともに乗馬の通行も許している「パブリック・ブライドルウェイ public bridleway 」でした。
左側は、広く開けた丘陵の放牧場です。
べへ~べへ~と鳴きかわす母子ヒツジの鳴き声のうるさいこと!
ここで、英国の牧羊事情です。
「牧羊農家はヒツジの毛(羊毛=フリース fleece )を売って生計を立てている」と思っている人は英国人にもけっこういます。間違いです。ここ英国では、かつては花形産業だった毛織物の生産はほぼ廃れ、一般の牧羊農家の生活の糧はほとんど、仔ヒツジを繁殖させ食肉として売ることで生計を立てています。
1950年代には1㎏が14ポンド程度で取引されていたフリースが現在は、70ペンス前後(1ポンドは100ペンスに相当します)とめっちゃくちゃな暴落ぶり!パンデミックを経て、2023年には30ペンスにまで落ちたそうです。30ペンスあれば、ニンジンが4本ぐらい買えます。
その後、回復の兆しはありますが農家にとってはやってられない値段なので今では多くの農家が刈った羊毛は焼くかコンポストとして土に埋めるかして土壌に還元するエコロジーな方法で処分しているそうです!!!
1950年ごろに比べ、羊毛の質が落ちたわけでもヒツジの種類が大きく変わったわけでもないそうなのに今では繊維としては売れないそうです。緩衝材や断熱材として建築業者に引き取ってもらうこともあるそうです。ぐうぜん毛刈りのために羊の群れを集めていたところを通りがかったことがあります。その時に農場主に聞いた話です。
編み物が趣味の、私が使う毛糸はたいていオーストラリア、トルコ、シリア(今は供給が困難かもしれません)あるいは中国が原産の国外産です。国内で紡いで英国産毛糸として生産したものもありそうですが。
国内の篤農家が特別に育てている伝統種の高級羊毛用の羊の毛を紡いだけっこう高価な毛糸も1玉、2枷ずつ買って小物を編んだこともありますがセータ―が編める量を買うのは勇気がいります。
牧羊農家にたのんで捨てるフリースを譲ってもらえないか...と考えたこともあります。自分で紡いで毛糸にする...過程は考えてみたらムチャクチャめんどくさそうです。まずきれいにするのがものすごく高いハードル...
ヒツジの毛を夏前に刈り取るのは、単にヒツジの健康のためだそうです。
暑っ苦しくモコモコ生やしておくと暑さで体調を崩すのみならず、皮膚病や虫に卵を産み付けられるなどぞっとするような害があるそうです。
モコモコフリースの大人ヒツジが見られるのも今月あたりまで...夏前にすべてのヒツジは毛刈りされクリクリ坊主の細っこい裸体をさらすことになります。
仔ヒツジの食肉産業は、比較的人道的に思えます。私は「英国の農業を支援しよう」というような趣旨の、ブタやウシやヒツジなどの動物がいっぱい出てくるドキュメンタリー番組を見るのが大好きです。
そこに出てくる農家はすべて、仔ヒツジが10ヶ月近くになるまで、春夏の明るい屋外で母ヒツジとともにすごさせています。母ヒツジが次の仔ヒツジを孕む秋冬頃には仔ヒツジはすっかり親ばなれします。その時には出荷されるオスの仔ヒツジたちへの母ヒツジの愛着もすっかり薄れています。
中近東や中国などでは大人のヒツジも食べるようですが、ここ英国では1歳を迎える前の仔ヒツジ肉しか一般の販売ルートには出てきません。大人のヒツジの肉は臭みがありますものね...40年ぐらい前に日本でジンギスカン料理を食べて以来口にしたことがありません。
ラム肉のミンチのシェパード・パイや、ミントソースを添えて食べるラム・ローストは私もよく作って食べます。
私たちは、ここで30分ぐらいヒツジを見て過ごしました。
この牧草地のことを私たちは「ベルテッド・ギャロウェイ・フィールド」と、クルマを停めてから歩く細道のことは「ベルテッド・ギャロウェイ・ウェイ」と勝手に名付けてよんでいます。
なぜか...。
(9年前の同じ場所の写真です)
強烈な見た目のスコットランド産の肉牛、ベルテッド・ギャロウェイという種類のウシたちがいつもこの場所で放牧されていたからです。
以前に書いた、ベルテッド・ギャロウェイについての記事です☟上の写真もそこから転載しました。
ピーク・ディストリクトにいる!スコットランド原産の、お腹にさらしを巻いた牛
残念、パンデミック後、ベルテッド・ギャロウェイは全く見かけません。放牧地をかえたのか、あるいはこの種の飼育をやめてしまったのか事情は分かりません。
2021年には同じ場所で別の種類の、なぜかオスウシばかりの集団が放牧されていました。その時の記事のリンクです☟(細道の写真があります)
若い牡ウシたちがのどかに遊ぶ美しい丘陵地の放牧場
いつもだったらまた細道(=ベルテッド・ギャロウェイ・ウェイ)を通ってクルマに戻るところですが今回は...巨大なコンクリートの「レゴ・ブロック」が写っている写真をご覧ください...牧草地から道をはさんだ左側に乗馬で抜けられるブライドル・ウェイの入り口があるのを見つけました。 エルダー・ポンド Elder Pond という池に続いていると木の標識に表示されていました。
歩いてみることにしました。
ついでにこのあたりはElder Hills という名前のあるハイキングコースだということもわかりました。(私たちにとってはあいかわらずベルテッド・ギャロウェイ・フィールドですが)
5分ほど歩くとビックリするほど大きな池がありました。
例によって、柵も、溺れる子供のへたくそなイラスト入りの安全警告立て札もない典型的な英国の自然風景です。意外ときれいに澄んだ水はかなり深そうです。
池に向かって右側の植林地に、黒っぽいウシが3頭見えました。
たいていのウシはヒツジと違って人懐っこいのですが、私が近くまで来るとゆっくりと歩き去りました。
ウシのいる地点から振り返って撮った池と池端に立った夫の写真です。
遠くに見えている丘が、ヒツジの放牧場(ベルテッド・ギャロウェイ・フィールド)です。
意外なことに、ウシたちがいた植樹エリアの右側はすぐ道路でした。自由に開け閉めして出はいりできる二重の木の扉(動物が外へ出ないための工夫)をあけて、道路に出ました。
道路からの出入り口にはエルダー・ポンドとエルダー・ヒルズに通じるパブリック・フットパスであると書かれた木の札が立っていました。
そして、透明プラスチックのホルダーに挟まれた注意書きが打ち付けられていました。「現在、稀少種のガーンジー牛数頭を放牧中。イヌをいれないこと、ウシのそばに寄らないこと」と書かれていました。
イヌを入れちゃダメなのに、ウマはいいんだ...。乗馬の行きつけコースらしく、池の周りは蹄鉄の跡がいっぱいでした。
道路を少し歩いて戻り、細道の入り口に停めたクルマに乗ってその出入口の前をクルマで戻ると...あら、意外、クルマの窓からキラキラ光る池の水面がはっきりと見えました!池からかなり離れた場所に移動していたガーンジー種のウシ3頭も見えました。
過去20年間、この場所を何十回もクルマで通って来たのに、大きな池があったなんて全く気が付きませんでした。