スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

先生の秘密&ライプニッツ主義の鍵

2015-04-17 19:13:39 | 歌・小説
 「私の子ども」の母親が,先生亡き後の奥さんではないということの根拠として示したように,先生と奥さんの間には何らかの秘密があり,私もそれを知っていました。先生も遺書の最後,というのは『こころ』という小説の最後の部分になりますが,そこで奥さんには何も知らせたくない,奥さんが生きている限りは私だけに打ち明けた秘密として腹の中にしまっておくように命じていますから,何らかの秘密が存在したということに関しては,疑う余地がありません。ではその秘密が具体的に何であったのかといえば,『こころ』のテクストはそれが何であるのか分からないようになっています。なのでこれに関しては,様ざまな推定をすることが可能であると僕は考えています。
                         
 秘密が何であるかが分からないということの根拠は,上一九のテクストにあります。ここでは奥さんと私が,先生についてふたりで語り合います。これは先生の性格に関してです。このときに奥さんは,先生の性格が今,これはふたりが話をしている時点での今ですが,今のようになった契機として,Kが死んだことをあげています。しかし同時に,これについてはすべてを話すと先生に叱られるので,叱られない部分だけを話すという前置きをしているのです。
 このときに奥さんが話したのは,Kが死んだこと,それが変死であったこと,Kの死の理由は奥さんには分からないし,先生も分かっていないであろうということです。その後で私に尋ねられ,先生がKの墓参りに行っているということは,言ってはいけないことに含まれていたようですが,事実上は話してしまったも同然となっています。
 もしも奥さんが知っていることのすべてがこの内容であったなら,秘密が何であるかは容易に推定できるでしょう。しかしテクストが示しているのは,奥さんが知ってることはこれがすべてではないということ,つまり奥さんは話すことはできないけれどもこれ以上のことも知っていたということです。なので奥さんが何を知っていて,何を知らなかったのかは,テクストを読んだところで分からないようになっているのです。
 奥さんが知らず,先生が知っているからそれは秘密であり得ます。その奥さんが知っていることが何であるのかが分かりません。なので秘密が何であるかも具体的には不明です。ただ,秘密ではないことの一部だけが理解できるのです。

 ライプニッツ主義では,真理と非真理の規準がそうであるように,真偽不明の規準も神の認識のうちにあるのでなければなりません。よって,スピノザとライプニッツが会見するという命題が真偽不明であるのは,神にとって真偽不明であるという意味になります。いい換えれば,スピノザとライプニッツが会見することは,単に命題としてでなく,出来事として理解される場合にも,神はそれが真偽不明であると知っている,あるいはそう認識していると理解する必要があります。つまり真偽不明とは,ライプニッツにとって真偽不明であるとか,一般に人間の知性にとって真偽不明であるというだけの意味を有するのではありません。神にとっても真偽不明であるのです。
 確かに,モナドAとモナドBが,スピノザの会見の有無を認識するだけでは区別し得ないというのは,おかしな話ではあります。しかし,もしも逆にそのことによってAとBが区別し得ることを認めてしまうなら,いかにライプニッツ主義の区別がスピノザ主義のそれとは異なっているとしても,この区別を実在的区別であると主張することは不可能だと思います。よってもしこのようにしてAとBが区別され得ると認める場合にも,ヘーゲルのライプニッツ批判をそのまま受容する必要が生じてしまいます。ですから,真偽不明ということが,神にとって真偽不明であると主張する必要が,スピノザ主義を崩壊させるためにはあるということになるのです。
 僕が思うに,このことがライプニッツ主義の論理を理解する上で,最も鍵になります。というのは,たとえばスピノザとライプニッツが会見するということが,真偽不明であると神が認識するというとき,スピノザ主義的にいえば,この会見が偶然と可能に属するのであり,必然と不可能に属するのではないというとき,それによってライプニッツが意味しようとしたこと,あるいは意味させたいと思ったであろうことと,実際にここから帰結してくることの間には,大きな亀裂が生じると僕は考えているからです。
 神にとって真偽不明のことがある。いい換えれば偶然や可能として認識されることがあるとは,どういうことなのでしょうか。
コメント
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