1953年に、人類の生命の設計図であるDNAの二重らせん構造が提唱されました。そしてヒトゲノムの解析が終わった2000年、京都大学の山中伸弥教授がips細胞の技術を開発し、2007年に論文が『セル』に取り上げられました。このようにわずか数十年の間に、今まで知りえなかった、生命の解明が進むことにより細胞という視点から、ES細胞、ips細胞、体性幹細胞の研究がなされ再生医療へと模索されだして十年になります。
再生医療とは、生まれつき、あるいは疾病・不慮の事故・加齢に伴い、欠損・損傷・機能低下した組織や臓器を、患者の体外で培養した細胞や組織を用いて修復再生し、機能を補完する療法です。
厚労省は再生医療について次のように定義しています。
1、 患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。
2、 ないしは、患者の体外において幹細胞等から人工的に構築した組織を患者
の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる療法。
(厚生労働省・多能性幹細胞安全情報サイトより)
そして2018年、ノーベル医学・生物学賞の受賞が決まった本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大学特別教授は、「オプシーボ」という免疫で癌細胞を攻撃させる治療薬を開発しました。この「オプシーボ」は、癌の免疫療法(患者さん自身の『免疫』の力を利用して、癌細胞への攻撃を高める治療法)という手術や抗がん剤や放射線という患者の負担の強い療法と比べて、比較的副作用が少ないと言われております。しかし、副作用が全くないわけではなく投与を終了してから数週間から数ヶ月後に生じることもあると言われております。
以上のように、医学の進歩は目覚ましいものがあり、あと十年もしないうちに癌は怖くない病気になるのではと思うほどです。でもそう楽観視して良いものでしょうか。確かに以前の、他人の臓器や細胞そして人工の物を移植していたことよりは格段の進歩ですが、治療は先ず健康だった体が疾病にならざるをえなかった本当の原因を探り充てることにつきます。その点から見るとまだ対症療法の域を出ていないのではと思うのです。
人間の体で再生している物の中に、髪の毛・爪・皮膚・骨など他にもありますが、内蔵では、唯一再生可能な臓器は肝臓だけと言われております。その肝臓は、四分の三程切り取ったとしても、四ヶ月ほどで再生します。しかも、一度だけでなく何度も再生できます。なぜ再生できるのかはまだ謎ですが、他の臓器と違うのは肝細胞には核が二つあり、染色体の数も他の臓器に比べて二〜三倍あるそうです。それが唯一再生可能な肝臓の謎を解き明かす鍵ではないかと言われています。その再生のメカニズムの研究から、再生医療の新しい世界が見えてくるのではと思ったりします。
極論になりますが、薬や患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を使わず、傷んだ臓器や組織が自らの力で再生するように、がん細胞がそのまま自ら正常な細胞に変化してゆくことのできる医療が確立したらそれが理想の医療の姿だと思います。患者さんから、がん細胞の声を聞かせていただき学んだ事は、がん細胞は望んでこの姿に成った訳ではなく、本来の健康な姿に帰ることを望んでいる事でした。そんな細胞の意思に反しないように、もっと自身の体と対話し信頼関係を築き体の声は聞けなくても、せめて感じ取るぐらいになれば究極の予防療法に成りひいては理想の医療になるのではと思うのです。そのためには、心を澄まし自身の体に意識を向け感じてみる事につきると思います。