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王力雄:チベット問題解決の鍵(3)

2008-09-04 19:42:09 | 中国異論派選訳
王力雄:チベット問題解決の鍵(3)

チベット問題はもう引き延ばせない

 北京は今のところ時間に問題を解決させようとしているようだ。チベットは手の内にあるのだし、武器も手の内にあるのだから、ダライも大した騒ぎは起こせない。世界は中国の大市場を欲しているのだから、だれも本気で中国と対立しようとはしない。だから、ダライを無視し続けて、彼が死ぬまで待てば、亡命チベット人勢力は瓦解し、西側社会も担げるスターを失う。その時チベット自治区内で新しいダライを転生させて、チベット人の人心をまるめこめばいい。同時に、チベットの世俗化を進め、チベット人を中国人のように経済にだけ関心を持つようにさせれば、問題は小さくなる。

 とりあえずこの考え方のほかの面での問題は置いておくとして、一つの前提だけを検討すれば、希望を時間に託すことが可能だとしても、そのためには少なくとも現在の中国の政治体制と統制力を数十年間変えないことが必要である。すなわち、現在からダライラマ14世の逝去、そして北京が次代のダライラマを選んで成人させて初めて成果が得られる。政治体制と統制力が変化すれば、この引き延ばし作戦は中断し、それまでの引き延ばしも無駄になる。そして、この前提はまさに最も弱い前提である。現在の中国の政治体制がこれから先数十年も続くとはだれも信じていない。中共の改革拒絶は不変を維持できるのではなく、変化を遅れさせるに過ぎず、またそれは将来の変化を一層突然かつ激烈にさせるであろう。現代社会の政治制度転換はほとんどの場合民族間の衝突をともなう。その種の衝突も中国の政治転換の主要なチャレンジになるだろう。もし将来の中国の転換が爆発的あるいは崩壊的な性質であれば、結果はたぶんより深刻であり、チベット問題は真っ先にその矢面に立つだろう。

 現在の行政区画では、中国のチベット人地区(1つの自治区、10の自治州、2の自治県)の面積は225万平方キロメートルで、中国の領土の4分の1近くを占める。チベット亡命政府の言う「大チベット」は250万平方キロメートルであり(注26)、中国領土の4分の1を上回る。歴史的にチベットが中国に属していたかどうかは現在定説はないが、法理上どちらの解釈も可能である。チベット問題は現在世界で最も国際化した民族問題といわれ、西側社会はほとんどがダライラマの側に立っている。チベット人が北京政府から迫害されているというのがほとんどの西側の人の見方である。国連総会は1959年から1965年の間に3回チベット問題に関する決議を可決した。いずれもチベットを自決権の対象としている。これらのことからすれば、現在あたかも確実な中国のチベットに対する主権も決して危険がないわけではないことが分かる。時局が動いて、力のバランスが変化すれば、人権は主権よりも重いという西側の価値観のもとでは、ユーゴスラビア解体の前例もあり、西側世界が民族自決方式によりチベットの中国からの分離を認めるよう変化するという可能性もないわけではない。国際社会にとっては、ダライラマは誰よりもチベットを代表する資格があるので、彼の要求は条件さえ許せば合法性を有する可能性がある。ダライラマはかつて様々な場所でチベットが中国にとどまってもよいという意向を表明しているが、いまだに法的な承諾にはなっていないから、彼はいつでもチベット独立の立場に立ち戻ることができる。しかも、彼が責任を北京が返答しなかったことに帰せば、その立場の変化は必ずや西側の民意の幅広い理解と支持を得るであろう。

 中国が強大で安定していれば、そのような状況は発生しない。しかし、政治が急激に変化するときは、国家は非常に弱くなる。たとえ社会が大きく激動しなかったロシアでさえ、いまだに苦境から抜け出していない。現在の中国の政治変革回避からすれば、将来の動揺はたぶん非常に激烈であり、苦境も長く続くだろう。もし、その時経済が大幅に衰退すれば、中国内地はチベットにかまってはいられず、チベット駐留軍と政権は内地からの補給が断たれ、官僚と軍人は闘争心を失い、中国人はクモの子を散らすようにチベットを離れるだろう。その時どんな状況になるか? 辛亥革命期のチベットを前車のいましめとすることができる。なぜなら上述の状況はその時もみな発生したからだ。結果は、チベットは「中国人追い出し」を実行し、40年にわたる独立を維持した。

 中国内地の激動が何年も続かなくても、たとえ数ヶ月でも、すでにその時のために40年間準備し、公認のリーダーと成熟した政府をもつチベット人は独立へのハードルを越えて、中国が秩序を回復する前に既成事実を作るかもしれない。中国が再びチベットに対処できる力を蓄えた時には、対処しなければならないのはチベットだけでなく、西側全体だということを発見するだろう。その時、安定したばかりの中国は非常の弱いので、「多国籍軍」の軍事力に対処できないばかりか、それ自身の安定と生存さえ西側いかんにかかってくるだろう。今日の中国のグローバル化の進展は、そのときのための伏線となっている。経済の命脈を西側に握られていたら、まったく武力衝突の必要はなく、西側は経済的手段で中国を従わせることができる。1997年6月3日、米国バークレー市議会が全会一致で「中国占領下のチベットと商取引をする都市に制裁を科する」という議案を可決したことは、そのような未来図を示している。西側世界のチベット熱とダライラマ支持からすれば、ある日チベット問題をめぐって中国を共同で制裁するというのは決して幻想ではない。

 中国にとってチベット問題は新疆(=東トルキスタン)問題よりも深刻だという原因がここにある。チベット問題が抱える独立要因――歴史的に主権の帰属が未確定、国際化の程度、西側社会の支持、成熟した亡命政府、全チベット人がひれ伏し、世界的な影響力のあるリーダー、中国人人口の少なさ、そして政権安定の力をすべて中国内地資源に依存していること――を新疆問題はすべて備えてはいないし、備えていても程度が低い。これらすべての要因が組み合わさって、チベットと独立実現の間には一つのチャンスを残すのみである――すなわち、中国自体に内乱がおこることである。そして、北京の現在の政治改革拒絶は、チベットのためにその機会を準備しているに等しい。

 新疆問題が注目を引くのはその激しさである。中国で内乱が発生したら、新疆ではたぶん非常に血なまぐさい民族間の殺し合いが起こるだろう。しかし、新疆を中国から分離させるには、チベットの先導があって初めて可能である。チベット問題は中国の民族問題の群れを先導する羊であり、チベット問題が解決すれば、ほかの民族問題もそれに伴って解決し、チベット問題が解決しなければ、ほかの民族問題も必ずやそれに伴って爆発するだろう。

 ダライラマは今年65歳である。現在の人類の標準寿命と保健条件のもとでは、さらに20年生きるのも難しくない。そして20年のうちには中国の政治転換はほぼ必ず起こる。この時間関係を考慮すれば、ダライラマの役割は非常に重要である。チベット問題がどの方向にむかうかは、彼の態度にかかっている。チベットの人心は彼とともにあり、人民は彼の意志に従い、僧侶は彼のためなら水火をも辞さず、亡命政府は彼の意見を全面的に受け入れ、国際社会も彼の意見を尊重し、最大限支持している。もし彼を敵側に追いやり、対話の道・協力の道をふさぎ、やりきれない思いをさせれば、いったん社会転換の衝撃波が押し寄せた時、彼がチャンスの誘惑と潮流に巻き込まれてチベット独立の立場に転換しないとは保証できない。その時各種のチベット独立の要因が彼の旗のもとで統合され、合力となるので、チベットが中国から離脱する可能性は大幅に増加する。この面では、彼一人の役割は千万の軍隊を上回り、彼の老ラマの身体が西側世界の無尽の富を動員するかもしれない(注27)。彼に対するいかなる見下しも非常に大きな誤りであり、重大な代価を払うことになる。

 翻って、もし現在時機を失せずにダライラマに返答をし、彼と前向きな対話を行い、平等に交渉し、できるだけ早く彼が受け入れると表明している「チベットは中国にとどまる」という主張を法的文書にまとめれば、中国のチベットに対する主権は完全に合法化され、一挙に長期間混乱したチベット問題が解決する。チベットの主権に争いがあった原因の一つは、このような国際ルールに則った法的文書がなかったことである(注28)。ダライラマは国際的に認められたチベット民族の代表であり、彼が署名したこの種の文書は、チベット民族自身の選択とみなされ、チベット独立防止の最良の保証となる。チベット人であれ西側社会であれ、そのあとはチベット独立を提起する理由がなくなる。歴史的にもつれた争いも学術的なものに限定され、政治的には帳消しになる。そしてこのような法的文書は、ダライラマ14世が署名してはじめて世界から認められ、ダライラマ14世だけが大多数のチベット人に受け入れられる。

 なぜそう言えるのか? 他の要因は置くとして、ダライラマ14世は在任中に亡命し、名実ともにチベット政教一致の最高指導者だったことがある。だから、合意書署名に十分な合法的資格があるということが一つ。ダライラマ14世の身分には争いがない。だから、チベット民族全体が根本上師とみなし、彼の意見もチベット人に無条件で受け入れられるということが一つ。ダライラマ14世以外に、誰も上述の二つの要素を満足できない。たとえ後任のダライラマでも、チベットの世俗のリーダーになったことがない故に必要な権威に欠ける。当代のダライラマが亡くなっても、まだチベット問題が対立していたら、必ずや二人のダライラマが出現するだろう。その時、北京が立てたダライラマはチベット人からは傀儡とみなされ、上師としての資格を失い、国際社会からも認められない。自治区の外のダライラマも紛争の中なので、身分は同じように公認され難い。そして、いったん根本上師の身分が不明になれば、どのダライラマが法的文書に署名しても、いずれも大きな反対にあうだろう。他の人にはさらに可能性がない。

 現在のチベット人にはチベットの前途に様々な主張がある。とりわけ亡命チベット人の中には、中国にとどまることに反対し、チベット独立を主張する人の比率は大きい。ある見解によれば、13万亡命チベット人の中でただ一人チベット独立を主張しない人がいるが、それがダライラマだ、という。しかし、調査によれば、64.4%の亡命チベット人がチベット問題の前途についてダライラマが言う通りにすると答えている(注29)。チベット亡命議会は1997年に、ダライラマに住民投票を経ずにチベットの前途を決定することを授権する法案を可決した(注30)。私が国内のチベット人地区で各階層のチベット人に質問した時も、一番多い答えはダライラマの決定通りにする、というものだった。ゆえに、私はたとえダライラマが最終的に住民投票によってチベット人の意見を聞いたとしても、彼の提案であれば、必ずや多数の賛成を得られると信ずる。

 この点を考慮すると、中国とダライラマ14世の合意はいっそう意義が大きい。なぜなら、チベットのリーダーが署名した合意文書だけでなく、チベット人住民投票による承認も受けられるからだ。住民投票が付与する合法性は最高のものであり、いかなる反対の声も立脚する基盤を失ってしまう。しかし同じ案が、ダライラマ14世から出されたのでなければ、結果は全く異なる。すべてのチベット人が自分の考え方を持ち、批判する権利があるから、上師の権威がなければ、諸説紛々としてまとまらないだろう。議論が平行線をたどれば、従うことのできる世俗的裁定は住民投票だ。とりわけ将来の中国が民主化を実現したらそうなる。だが、その時の中国はチベット人の住民投票を認めるだろうか? ダライラマが上にいなくて、住民投票が急進的な民族感情に染まったり、民衆の名義で政客に扇動されたりしたら、投票結果はたぶんチベット独立が多数を占めるだろう。その時中国はどうするのか?

 よって、中国の長期的な利益から考えて、北京の賢いやりかたは現在のような引き延ばし策ではなく、ましてダライラマ14世の死亡に希望を託することではない。それは失策そのものである。なすべきは、ダライラマ14世が在世し、かつ健康なうちに、チベット問題の解決に着手し、できるだけ早く一度の苦労で末長い安定を勝ち取ることだ。時間の引き延ばしはダライラマにとって不利なだけでなく、中国にとっても同じように、あるいはより一層不利である。ダライラマをチベット問題解決の障害もしくは敵とみなすべきではない。彼はチベット問題の根本的解決の鍵である。もちろん、やり方を間違えれば、この問題解決の扉を開く鍵は、扉を閉じる鍵にもなる。

原文:http://www.weekmag.com/html/3706.htm

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