于建:誰が下層青年のチャイナドリームを圧殺しているのか(1)
2010年07月15日
初出:東方早報 作者:于建
「農民」労働者〔原文「農民工」、日本語文脈でもそのまま使われることが多いが、ここではあえて直訳してこの言葉の奇妙さを強調した〕「第二世代」と「アリ族」大学生が「チャイナドリーム」を実現できるか、自分の努力で仕事で成功することができるか、社会的上昇実現の「希望」があるか、それは中国の経済移行を左右するカギだ。
中国社会科学院農村発展研究所社会問題研究センター主任于建教授は最近本紙の記者の単独インタビューを受けた時にそう語った。
今年48歳の于建は7月6日社会安定問題についての中国浦東幹部学院での講義の合間に本紙記者の単独インタビューを受けた。于建は、「チャイナドリーム」とは個人が自分の努力で自分の運命を変えることができ、公平に国家経済発展の成果を享受できることであり、この夢を実現する前提は、中国の現在の排他的体制を徐々に解消し、一人ひとりの努力が報われるようにすることだと力説した。
于建によると、現在の中国社会は排他的な体制であり、その最大の特徴は社会構成員の階層間移動に巨大な障害があることだ。下層の社会構成員の垂直移動の障害が多ければ多いほど、上昇移動を実現できる人は少なくなる。「役人の二代目」と「金持ちの二代目」が恥知らずに機会を奪い、社会の基本的な公平と構成のルールを破ることで、下層青年の心の中の公平正義に対する信念は破壊され、社会に対する反感が生まれる。
近年、于建は何度も沿海部の工場調査を行い、「農民」労働者「第二世代」が「将来はどこにいるか」、「将来は何をしているか」という質問に対する回答が非常に悲観的であることを発見した。「彼らは毎日仕事をしているが、将来に希望を感じられず、前途を悲観している」。
于建によると、「アリ族」大学生が直面する問題と「農民」労働者「第二世代」の問題とは共通点がある。つまり「希望」か「絶望」かという問題だ。
于建は国家社会科学基金重要課題「都市農村経済社会一体化新枠組戦略の中の戸籍制度と農地制度ワンセット改革研究」の主席専門家だ。彼は学界では有名な足で実証研究をする学者で、長年下層を歩いて来た。2001年、博士論文『岳村政治――移行期中国農村政治構造の変遷』の出版で、于建は学界の新星となった。
2004年後半、彼が主宰する研究チームは「陳情の制度的欠陥とその政治的危害」と題した調査報告を発表し、陳情制度をどうするのかという論争を引き起こし、上層部の注意を引いた。
ここ数年、于建は観察的インタビューを基礎に、制度資料と歴史文献研究を結び付けて、あいつで多くの中国の労働者と「農民」労働者に関する著作を発表している。著作には『中国工人階級状況:安源実録』、『当代中国農民の権利擁護抗争:湖南衡陽考察』、『漂流する社会:「農民」労働者張全収と彼の事業』などがある。
戸籍制度改革は要点を把握していない
戸籍制度背後の問題はまだ解決していない。戸籍と職業選択、賃金、医療、住宅、社会保障、福祉は分離されていない。いま多くの地方の戸籍改革は問題解決のためではなく、農民から土地を奪い取ることに焦点を合わせている。
東方早報:国家社会科学基金重要課題「都市農村経済社会一体化新枠組戦略における戸籍制度と農地制度のワンセット改革研究」の主席専門家として、いまの研究の進捗状況を教えてください。
于建:これは期間3年の課題で、いまは2年目です。この1年余り、私たちは全国の多くの地方の関連政策と実践について調査し、いくつかの経験の取りまとめを行いました。これまでの研究から見て、全国各地で行われている戸籍制度改革は問題の要点を把握していません。
東方早報:あなたの言われる問題の要点とは何ですか?
于建:現在、多くの地方の戸籍制度改革は表面的なものです。たとえば戸籍簿を農村戸籍ではなく都市戸籍と表記したり、外地の人が家を買ったり仕事に就くことで現地の戸籍を得たり、ひそかに戸籍を移せるようにしたりという改革をしている。しかし、戸籍制度の背後の問題には手をつけていない。戸籍の上に張り付いた職業選択、報酬、医療、教育、住宅政策、社会保障、福祉は分離されていない。もし都市と農村の一体化の中でこれらの問題を解決せず、農民に戸籍一枚を与えるだけならば、多分何の解決にもなりません。たとえば、都市戸籍を得た農民の社会保障と、もともとの農民の土地問題はまだうまく解決されていません。
東方早報:例を上げてもらえますか。
于建:私が以前書いた文章の中で、戸籍制度改革は農民に実益がなければならないと主張しました。しかし、いま多くの地方の改革は問題解決に目を向けず、農民から土地を奪うことを目的にしています。
例えば近年深圳で推進されている「居住証」制度は、都市と農村の戸籍差別を「曖昧化」し、居住証で一部の優遇政策と福祉を受けられるようにしています。役人たちは農民に、「もうみんな都市戸籍で、都会人なんだから、農民みたいに土地を要求するな」と言っています。改革の目的は農民から土地を取り上げることで、改革の目的は人々の自由な移動を促進し、都市と農村の二元構造を改めることではありません。多くの地方の戸籍制度改革の動機は不純で、ほとんどが農民から土地を取り上げるためです。
もうひとつ例を上げると、甘粛省のある県は都市化ノルマを達成するために、県指導部が頭に血が上って、14万人の「農村戸籍」を「非農業戸籍」に変更し、「うちには農民はいない。農業していても関係ない。みんな都会人だ」と言いました。この変更は新たな問題を引き起こしました。現地の農民は、農村戸籍だったら、農村の補助金を受けることができたかもしれないのに、〔金融危機後の内需拡大策の〕家電下郷では補助の対象から外れていたのです。そこで政府は「お前たちは農民じゃなくて、都会人なんだ」と言いました。ですが農民たちは「おれは毎日農業をしている」と言いました。このような改革は問題があります。
盆栽式改革は「隔膜」を作っている
都市化の道は付随する戦略的改革を進めなければならず、盆栽式改革ではだめです。もし大きな背景を持つ社会改革がなければ、戸籍制度の改革は問題が起きます。
東方早報:戸籍制度改革と都市化プロセスとはどんな関係があるんですか?
于建:国内の一部の地方の戸籍制度改革は、農村発展問題を解決できないだけでなく、農民の生活問題も解決できず、農民の土地問題も解決できません。農民が農村を離れ、都市に移った時、土地は返納すべきか、どう返納するか?
中国の都市化は、付随する戦略的改革を進めなければならず、盆栽式改革ではだめです。もし大きな背景を持つ社会改革がなければ、戸籍制度改革は問題が出ます。
戸籍制度を改革するということは正しいですが、今は都市と農村の統一が欠けています。全ての人が自由に移動できる社会保障が欠けています。現在農民は平等な社会福祉を享受することができません。ですから、社会の一体化を進め、農村住民に最低限の公平公正を与えることが必要です。
東方早報:戸籍制度改革に必要な付随的戦略的改革とは何ですか?
于建:戦略的改革には3つの問題を解決しなければなりません。
第一、都市と農村一体の、全ての住民もしくは市民が同等な公共サービスを受けられる体制を構築すること。
第二、中国は農村を全て都市に変えることはできません。中国の農村はやはり存在し続けます。いかにして都市化過程で農村を良くしていくか、それが緊急の課題です。
第三、全ての改革は人間を尊重し、人々が幸福と平等を享受できるようにしなければなりません。しかし多くの改革は実際は「隔膜」を作っています。例えば、住宅建設。今の「農民」労働者の飯場のような住宅ではだめです。例えば、上海市宝山区のある公立学校は、地元戸籍の学生と「農民」労働者の子弟を、様々な規則を作って東西に分け、互いに交流しないようにしています。また北京市大興区は一部の農村を封鎖式管理をし、外地人を隔離しています。これらはみな人為的な階級差別です。
未来の「農民」労働者第二世代はどうなるのか
「農民」労働者第二世代は農村に帰属感はありませんし、帰ろうとも思っていません。都市と農村の一体化には、彼らの特徴を考慮する必要があります。しかし、「農民」労働者の賃金は彼らが都市に根を下ろすという夢を実現するには足りません。
東方早報:「農民」労働者向けの住宅建設は強い身分属性がある?
于建:そうです。それはだめです。第二世代移民の問題に関わります。第一世代の出稼ぎ労働者は、農村への帰属感があり、出稼ぎでカネを貯めたら最終的には村に戻って家を新築しようと考えていました。第二世代「農民」労働者は農村に全く帰属感はなく、帰ろうとは思っていません。いま都市と農村の一体化、戸籍制度改革を進めるにあたって、第二世代「農民」労働者問題を考慮しなくてはなりません。
何年か前に大勢の第二世代「農民」労働者のインタビューをしたときに、「将来はどこにいると思う?」と聞いたら、多くが「分かりません」と答えました。続いて、「農村の実家に戻るだろうか?」と聞くと、彼らの回答は「戻らない」でした。彼らにとって将来の最良の計画は小さな町に家を買って、小さな店を出すというものでした。この彼らの回答は将来に対して非常に悲観的なものです。
東方早報:第二世代「農民」労働者調査の時の具体例を紹介してもらえますか?
于建:2008年、私が深圳で調査をしていたとき、ある紙箱工場で3人家族に会いました。父親と娘と息子、3人ともその工場で仕事をしていました。父親に将来どうするか聞くと、彼はあと何年かしたら家に戻ると言いました。次に彼の娘に聞くと、娘の回答は最大の希望はいい旦那にめぐり合うことで、「旦那はできれば町の人がいい、そうすれば出稼ぎしなくていいから」といっていました。最後に息子に「将来何をする?」と聞いたら、「分からない」と答えました。
この家族は特に印象深かったです。息子は「何でおれに将来のことなんかわかるんだ? どっちにしても(農村には)戻らない」と言っていました。この家族はもうすでに故郷に家を新築していました。続けて息子に「故郷で嫁さんを探すかい?」と聞くと、「故郷で嫁さんなんか探せないよ。結婚式は村でやるかもしれないけど、農村にはすまない。農業したこともないし、土地もないし。」と答えました。続けて「深圳に居続けたいと思うかい」と聞くと、かれは「思う」と答えました。
比較すると、都市で仕事のある大卒者は、生活は予測可能です。仕事があることで、給料で家を買い、そこに居続け、結婚して子供を産むという予測が可能です。例えば上海ですでに仕事のある大卒者は、住宅がいくら高くても、手を尽くして家を買い、仕事を続けようとします。しかし、第二世代「農民」労働者はそうはいきません。なぜなら彼らの賃金では彼らの夢を実現できないからです。
漂流する社会
今は社会全体が漂流し、人が漂流し、人心も漂流しています。都市化過程での農民に対する対応の一部は人間性が欠如し……人を機械扱いしています。
東方早報:あなたの調査によると、第二世代「農民」労働者は生活の展望がなく、将来性がないという問題は、社会の発展にどのように影響するでしょうか?
于建:第二世代「農民」労働者の問題について、私は数年前に「漂流する社会」という定義をしました。これは最初は私の書いた『漂流的社会:農民工張全収和他的事業』の表題です。
今は社会全体が漂流し、人が漂流し、もちろん人心も漂流しています。都市化過程での農民に対する対応の一部は人間性が欠如しています。
私が深圳でインタビューした第二世代「農民」労働者は、毎日仕事をしていますが、未来に希望を感じられずにいます。その非常に重要な原因は工場の管理に人間性が欠如していることです。
富士康事件は多くの問題を暴きだしました。その中でたとえば住宅問題は、知ってか知らずか、工場は河南人、広州人、江西人を同じ部屋に集めていました。お互い生活習慣が違い、甲はトウガラシが好き、乙はニンニクが好き、言葉が通じず、お互い話をしません。
このような人を機械のように管理するやり方は、人間性が欠如しています。このような居住条件の下で、第二世代「農民」労働者はもともとの生活と引き裂かれます。もし同郷人と一緒に住めば、お互いに交流できます。マントウを食べる習慣の人を一緒に集めることがなぜできないのでしょう? 「組織」や「グループ」があることが管理にとって不利と言えるでしょうか? いまは無理やりマントウを食べる人と、麵を食べる人、小麦を食べる人と、米を食べる人を一つの部屋に住まわせています。これは単に戸籍の問題だけでなく、第二世代「農民」労働者をどのように農村社会から都市社会に溶け込ませるかという問題です。
東方早報:中国経済移行という背景の下で、第二世代「農民」労働者がぶつかっているとは問題は何でしょう?
于建:いま第二世代「農民」労働者のぶつかっている問題は主に3つあります。
第一、カネがない。賃金は都市に溶け込む支えとしては足りません。
第二、コミュニティの生活に溶け込めない。ですから毎日の仕事はまるで機械です。毎日の最大の願いは休暇に帰郷することです。毎年の最大の願いは年越しに家に帰ること。たとえ3日間の休暇でも、たとえ切符が買いにくくても帰りたい。何日かして戻ってきたらまた機械に変ります。毎年毎年、これで前途に希望が持てますか?
第三に、最も重要なことですが、戸籍などの制度的な原因で、かれらは都会人になる望みがない。第二世代「農民」労働者は都市化の過程で、土地と戸籍の問題にぶつかるだけでなく、人間性の問題にもぶつかります。これは何とかしなくてはならない問題です。
都市の破片
「農民」労働者を都市に溶け込ませることは、機械の操作とは違います。政府は彼らを都市の「孤島」に隔離したり、破片のように都市の主流生活の外に追いやるのではなく、しっかりとした計画を立てなくてはなりません。長期的に見たら、住宅も必須です。
東方早報:技能訓練と職業学校を通じて、うまく第二世代「農民」労働者を都市に溶け込ませることはできませんか?
于建:それらの研修は職業技能研修の機能だけで、都市社会に溶け込むのをサポートする機能はありません。「農民」労働者が都市社会に溶け込むのは、機械を操作するようにはいきません。政府は、彼らを都市の中の「孤島」に隔離したり、破片のように都市の主流生活から遊離させるのではなく、しっかりとした計画を立て、彼らに都市を理解させ、都市社会に溶け込むよう支援し、都市のコミュニティ生活を送れるように支援する必要があります。また、「農民」労働者が都市社会に溶け込むには、長期的に見て住宅も必要です。今の社会は第二世代「農民」労働者の移動に、まったく住宅支援をしていません。たとえば、私がインタビューした工場に働く夫婦は、工場の規定で宿舎内では一緒に住むことを禁止され、また外に部屋を借りるカネもなく、会うたびに気持ちが沈むということでした。私は深圳でたくさんこのような状況に出会いました。夫婦が同じ工場で仕事をしていても、工場側が人為的に夫婦を引き裂いているのです。そうでなければ一部の工場が「夫婦宿舎」を提供したことがニュースネタなどにはならないでしょう。
私はこうした工場の責任者にもインタビューしました。彼らは自分たちが正しいと思っています。工場の宿舎は夫婦同居を保証する場ではなく「ここは仕事する場所なんだ」というのです。しかし、労働者の賃金では部屋を借りるのは無理で、政府も住宅支援はしません。これは大きな問題です。
東方早報:あなたは工業化した地域では、政府は中低所得層向け住宅を作るときは「農民」労働者のことも考慮すべきだと言われるのですか?
于建:まず「農民」労働者家庭の別居を避け、彼らが都市社会に溶け込めるようにしなければなりません。彼らが自分の努力で都市に足場を築くことができると感じられるようにする必要があります。たとえば夫婦が都市で働いて月3000元を稼ぎ、月500元を払えば公営住宅を借りることができるのであれば、彼らは子供を連れてくることができ、子供を親元で学校に通わせることができます。都会で予測可能な生活を送ることができれば、その夫婦は、故郷の土地を手放すことも考えるでしょう。
今はっきりしているのは、「農民」労働者は総じて都市に足場を築ける可能性がありません。可能性のない人はどう感じるでしょう? もしいま農民に向かって、お前が都市に来たら戸籍をやると言って、何の役に立ちますか? 住むところもない、子供を受け入れる学校もないんです。これは政策的に対応する必要があります。
農民の土地を削り取るだけではいけない
毎日農民の土地を削り取ってばかりではいけません。農民が自分で転出できるようにすれば、その土地は自然に空くじゃないですか? 今の多くの地方政府の改革は、「庶民」から見たら、「改革を通じて、利益を収奪している」のです。
東方早報:現在都市住民のための中低所得層向け住宅、教育、医療などの公共財と公共サービスの提供の面でも不足しています、短期間のうちにこれらの公共財の提供を拡大するのは困難です。
于建:一気に解決することはできません、方向は明確にすべきです。毎日農民の土地を削り取ってばかりではいけません。農民が自分で転出できるようにすれば、その土地は自然に空くじゃないですか? 今の多くの地方政府の改革は、実際は農民から土地を削り取ることです。例えば、重慶で行われている宅地取引は問題があります。
東方早報:重慶の農村土地取引所は設立1年になりますが、世論は重慶は土地の権利取引を通じて、都市が農村を養う新たなルートを切り開いたとみなしています。
于建:重慶の宅地取引改革の実質は、国家の農地に対する剛性保護政策を背景に、一部の宅地を取引し、宅地化割当量を集中し、国家の耕地保護目標を打ち破っているのです。
重慶のやり方は農地転用の一形式です。基本農地ではないので、明らかに農民の住宅用地も上場することができます。しかも一部の用地目標の問題を解決することができます。それには一定の意義があります。しかし、そこにはトリックがあります。例えば、辺鄙な農村に1ムーの宅地を持っているとします。それは上場できます。しかし人が買うのはあなたのその土地ではなく、その広さの割当量です。当該の宅地を農地に戻したら、都市郊外に1ムーの農地を借りることができます。これは一種の農地の交換です。その結果、郊外の農地が宅地となります。肥えた農地のムー当たり収量は500kgにはなるが、宅地を農地に変えたら、ムー当たり収量はせいぜい50kgだろう。違いは大きい。
このような改革に対して、私は慎重であるべきだという意見です。特にそこにおける利益分配問題に注意し、農民の土地権益略奪の手段に変えてはなりません。
重慶は2007年に農地株制度改革を行い、その後廃止しました。農地株制度は農民に農地を現物出資させましたが、実際に大きな問題になったのは会社が利益配当しなかったことで、農民は自身の利益を守れませんでした。雲南省孟連のゴム栽培農家事件も教訓になります。いま多くの地方政府の改革は「庶民」からすればみな、「改革を通じて、利益を奪う」ものです。私はこの問題を非常に心配しています。
転載自由、要出典明記
誰が下層青年のチャイナドリームを圧殺しているのか(2)
2010年07月15日
初出:東方早報 作者:于建
「農民」労働者〔原文「農民工」、日本語文脈でもそのまま使われることが多いが、ここではあえて直訳してこの言葉の奇妙さを強調した〕「第二世代」と「アリ族」大学生が「チャイナドリーム」を実現できるか、自分の努力で仕事で成功することができるか、社会的上昇実現の「希望」があるか、それは中国の経済移行を左右するカギだ。
中国社会科学院農村発展研究所社会問題研究センター主任于建教授は最近本紙の記者の単独インタビューを受けた時にそう語った。
今年48歳の于建は7月6日社会安定問題についての中国浦東幹部学院での講義の合間に本紙記者の単独インタビューを受けた。于建は、「チャイナドリーム」とは個人が自分の努力で自分の運命を変えることができ、公平に国家経済発展の成果を享受できることであり、この夢を実現する前提は、中国の現在の排他的体制を徐々に解消し、一人ひとりの努力が報われるようにすることだと力説した。
于建によると、現在の中国社会は排他的な体制であり、その最大の特徴は社会構成員の階層間移動に巨大な障害があることだ。下層の社会構成員の垂直移動の障害が多ければ多いほど、上昇移動を実現できる人は少なくなる。「役人の二代目」と「金持ちの二代目」が恥知らずに機会を奪い、社会の基本的な公平と構成のルールを破ることで、下層青年の心の中の公平正義に対する信念は破壊され、社会に対する反感が生まれる。
近年、于建は何度も沿海部の工場調査を行い、「農民」労働者「第二世代」が「将来はどこにいるか」、「将来は何をしているか」という質問に対する回答が非常に悲観的であることを発見した。「彼らは毎日仕事をしているが、将来に希望を感じられず、前途を悲観している」。
于建によると、「アリ族」大学生が直面する問題と「農民」労働者「第二世代」の問題とは共通点がある。つまり「希望」か「絶望」かという問題だ。
于建は国家社会科学基金重要課題「都市農村経済社会一体化新枠組戦略の中の戸籍制度と農地制度ワンセット改革研究」の主席専門家だ。彼は学界では有名な足で実証研究をする学者で、長年下層を歩いて来た。2001年、博士論文『岳村政治――移行期中国農村政治構造の変遷』の出版で、于建は学界の新星となった。
2004年後半、彼が主宰する研究チームは「陳情の制度的欠陥とその政治的危害」と題した調査報告を発表し、陳情制度をどうするのかという論争を引き起こし、上層部の注意を引いた。
ここ数年、于建は観察的インタビューを基礎に、制度資料と歴史文献研究を結び付けて、あいつで多くの中国の労働者と「農民」労働者に関する著作を発表している。著作には『中国工人階級状況:安源実録』、『当代中国農民の権利擁護抗争:湖南衡陽考察』、『漂流する社会:「農民」労働者張全収と彼の事業』などがある。
戸籍制度改革は要点を把握していない
戸籍制度背後の問題はまだ解決していない。戸籍と職業選択、賃金、医療、住宅、社会保障、福祉は分離されていない。いま多くの地方の戸籍改革は問題解決のためではなく、農民から土地を奪い取ることに焦点を合わせている。
東方早報:国家社会科学基金重要課題「都市農村経済社会一体化新枠組戦略における戸籍制度と農地制度のワンセット改革研究」の主席専門家として、いまの研究の進捗状況を教えてください。
于建:これは期間3年の課題で、いまは2年目です。この1年余り、私たちは全国の多くの地方の関連政策と実践について調査し、いくつかの経験の取りまとめを行いました。これまでの研究から見て、全国各地で行われている戸籍制度改革は問題の要点を把握していません。
東方早報:あなたの言われる問題の要点とは何ですか?
于建:現在、多くの地方の戸籍制度改革は表面的なものです。たとえば戸籍簿を農村戸籍ではなく都市戸籍と表記したり、外地の人が家を買ったり仕事に就くことで現地の戸籍を得たり、ひそかに戸籍を移せるようにしたりという改革をしている。しかし、戸籍制度の背後の問題には手をつけていない。戸籍の上に張り付いた職業選択、報酬、医療、教育、住宅政策、社会保障、福祉は分離されていない。もし都市と農村の一体化の中でこれらの問題を解決せず、農民に戸籍一枚を与えるだけならば、多分何の解決にもなりません。たとえば、都市戸籍を得た農民の社会保障と、もともとの農民の土地問題はまだうまく解決されていません。
東方早報:例を上げてもらえますか。
于建:私が以前書いた文章の中で、戸籍制度改革は農民に実益がなければならないと主張しました。しかし、いま多くの地方の改革は問題解決に目を向けず、農民から土地を奪うことを目的にしています。
例えば近年深圳で推進されている「居住証」制度は、都市と農村の戸籍差別を「曖昧化」し、居住証で一部の優遇政策と福祉を受けられるようにしています。役人たちは農民に、「もうみんな都市戸籍で、都会人なんだから、農民みたいに土地を要求するな」と言っています。改革の目的は農民から土地を取り上げることで、改革の目的は人々の自由な移動を促進し、都市と農村の二元構造を改めることではありません。多くの地方の戸籍制度改革の動機は不純で、ほとんどが農民から土地を取り上げるためです。
もうひとつ例を上げると、甘粛省のある県は都市化ノルマを達成するために、県指導部が頭に血が上って、14万人の「農村戸籍」を「非農業戸籍」に変更し、「うちには農民はいない。農業していても関係ない。みんな都会人だ」と言いました。この変更は新たな問題を引き起こしました。現地の農民は、農村戸籍だったら、農村の補助金を受けることができたかもしれないのに、〔金融危機後の内需拡大策の〕家電下郷では補助の対象から外れていたのです。そこで政府は「お前たちは農民じゃなくて、都会人なんだ」と言いました。ですが農民たちは「おれは毎日農業をしている」と言いました。このような改革は問題があります。
盆栽式改革は「隔膜」を作っている
都市化の道は付随する戦略的改革を進めなければならず、盆栽式改革ではだめです。もし大きな背景を持つ社会改革がなければ、戸籍制度の改革は問題が起きます。
東方早報:戸籍制度改革と都市化プロセスとはどんな関係があるんですか?
于建:国内の一部の地方の戸籍制度改革は、農村発展問題を解決できないだけでなく、農民の生活問題も解決できず、農民の土地問題も解決できません。農民が農村を離れ、都市に移った時、土地は返納すべきか、どう返納するか?
中国の都市化は、付随する戦略的改革を進めなければならず、盆栽式改革ではだめです。もし大きな背景を持つ社会改革がなければ、戸籍制度改革は問題が出ます。
戸籍制度を改革するということは正しいですが、今は都市と農村の統一が欠けています。全ての人が自由に移動できる社会保障が欠けています。現在農民は平等な社会福祉を享受することができません。ですから、社会の一体化を進め、農村住民に最低限の公平公正を与えることが必要です。
東方早報:戸籍制度改革に必要な付随的戦略的改革とは何ですか?
于建:戦略的改革には3つの問題を解決しなければなりません。
第一、都市と農村一体の、全ての住民もしくは市民が同等な公共サービスを受けられる体制を構築すること。
第二、中国は農村を全て都市に変えることはできません。中国の農村はやはり存在し続けます。いかにして都市化過程で農村を良くしていくか、それが緊急の課題です。
第三、全ての改革は人間を尊重し、人々が幸福と平等を享受できるようにしなければなりません。しかし多くの改革は実際は「隔膜」を作っています。例えば、住宅建設。今の「農民」労働者の飯場のような住宅ではだめです。例えば、上海市宝山区のある公立学校は、地元戸籍の学生と「農民」労働者の子弟を、様々な規則を作って東西に分け、互いに交流しないようにしています。また北京市大興区は一部の農村を封鎖式管理をし、外地人を隔離しています。これらはみな人為的な階級差別です。
未来の「農民」労働者第二世代はどうなるのか
「農民」労働者第二世代は農村に帰属感はありませんし、帰ろうとも思っていません。都市と農村の一体化には、彼らの特徴を考慮する必要があります。しかし、「農民」労働者の賃金は彼らが都市に根を下ろすという夢を実現するには足りません。
東方早報:「農民」労働者向けの住宅建設は強い身分属性がある?
于建:そうです。それはだめです。第二世代移民の問題に関わります。第一世代の出稼ぎ労働者は、農村への帰属感があり、出稼ぎでカネを貯めたら最終的には村に戻って家を新築しようと考えていました。第二世代「農民」労働者は農村に全く帰属感はなく、帰ろうとは思っていません。いま都市と農村の一体化、戸籍制度改革を進めるにあたって、第二世代「農民」労働者問題を考慮しなくてはなりません。
何年か前に大勢の第二世代「農民」労働者のインタビューをしたときに、「将来はどこにいると思う?」と聞いたら、多くが「分かりません」と答えました。続いて、「農村の実家に戻るだろうか?」と聞くと、彼らの回答は「戻らない」でした。彼らにとって将来の最良の計画は小さな町に家を買って、小さな店を出すというものでした。この彼らの回答は将来に対して非常に悲観的なものです。
東方早報:第二世代「農民」労働者調査の時の具体例を紹介してもらえますか?
于建:2008年、私が深圳で調査をしていたとき、ある紙箱工場で3人家族に会いました。父親と娘と息子、3人ともその工場で仕事をしていました。父親に将来どうするか聞くと、彼はあと何年かしたら家に戻ると言いました。次に彼の娘に聞くと、娘の回答は最大の希望はいい旦那にめぐり合うことで、「旦那はできれば町の人がいい、そうすれば出稼ぎしなくていいから」といっていました。最後に息子に「将来何をする?」と聞いたら、「分からない」と答えました。
この家族は特に印象深かったです。息子は「何でおれに将来のことなんかわかるんだ? どっちにしても(農村には)戻らない」と言っていました。この家族はもうすでに故郷に家を新築していました。続けて息子に「故郷で嫁さんを探すかい?」と聞くと、「故郷で嫁さんなんか探せないよ。結婚式は村でやるかもしれないけど、農村にはすまない。農業したこともないし、土地もないし。」と答えました。続けて「深圳に居続けたいと思うかい」と聞くと、かれは「思う」と答えました。
比較すると、都市で仕事のある大卒者は、生活は予測可能です。仕事があることで、給料で家を買い、そこに居続け、結婚して子供を産むという予測が可能です。例えば上海ですでに仕事のある大卒者は、住宅がいくら高くても、手を尽くして家を買い、仕事を続けようとします。しかし、第二世代「農民」労働者はそうはいきません。なぜなら彼らの賃金では彼らの夢を実現できないからです。
漂流する社会
今は社会全体が漂流し、人が漂流し、人心も漂流しています。都市化過程での農民に対する対応の一部は人間性が欠如し……人を機械扱いしています。
東方早報:あなたの調査によると、第二世代「農民」労働者は生活の展望がなく、将来性がないという問題は、社会の発展にどのように影響するでしょうか?
于建:第二世代「農民」労働者の問題について、私は数年前に「漂流する社会」という定義をしました。これは最初は私の書いた『漂流的社会:農民工張全収和他的事業』の表題です。
今は社会全体が漂流し、人が漂流し、もちろん人心も漂流しています。都市化過程での農民に対する対応の一部は人間性が欠如しています。
私が深圳でインタビューした第二世代「農民」労働者は、毎日仕事をしていますが、未来に希望を感じられずにいます。その非常に重要な原因は工場の管理に人間性が欠如していることです。
富士康事件は多くの問題を暴きだしました。その中でたとえば住宅問題は、知ってか知らずか、工場は河南人、広州人、江西人を同じ部屋に集めていました。お互い生活習慣が違い、甲はトウガラシが好き、乙はニンニクが好き、言葉が通じず、お互い話をしません。
このような人を機械のように管理するやり方は、人間性が欠如しています。このような居住条件の下で、第二世代「農民」労働者はもともとの生活と引き裂かれます。もし同郷人と一緒に住めば、お互いに交流できます。マントウを食べる習慣の人を一緒に集めることがなぜできないのでしょう? 「組織」や「グループ」があることが管理にとって不利と言えるでしょうか? いまは無理やりマントウを食べる人と、麵を食べる人、小麦を食べる人と、米を食べる人を一つの部屋に住まわせています。これは単に戸籍の問題だけでなく、第二世代「農民」労働者をどのように農村社会から都市社会に溶け込ませるかという問題です。
東方早報:中国経済移行という背景の下で、第二世代「農民」労働者がぶつかっているとは問題は何でしょう?
于建:いま第二世代「農民」労働者のぶつかっている問題は主に3つあります。
第一、カネがない。賃金は都市に溶け込む支えとしては足りません。
第二、コミュニティの生活に溶け込めない。ですから毎日の仕事はまるで機械です。毎日の最大の願いは休暇に帰郷することです。毎年の最大の願いは年越しに家に帰ること。たとえ3日間の休暇でも、たとえ切符が買いにくくても帰りたい。何日かして戻ってきたらまた機械に変ります。毎年毎年、これで前途に希望が持てますか?
第三に、最も重要なことですが、戸籍などの制度的な原因で、かれらは都会人になる望みがない。第二世代「農民」労働者は都市化の過程で、土地と戸籍の問題にぶつかるだけでなく、人間性の問題にもぶつかります。これは何とかしなくてはならない問題です。
都市の破片
「農民」労働者を都市に溶け込ませることは、機械の操作とは違います。政府は彼らを都市の「孤島」に隔離したり、破片のように都市の主流生活の外に追いやるのではなく、しっかりとした計画を立てなくてはなりません。長期的に見たら、住宅も必須です。
東方早報:技能訓練と職業学校を通じて、うまく第二世代「農民」労働者を都市に溶け込ませることはできませんか?
于建:それらの研修は職業技能研修の機能だけで、都市社会に溶け込むのをサポートする機能はありません。「農民」労働者が都市社会に溶け込むのは、機械を操作するようにはいきません。政府は、彼らを都市の中の「孤島」に隔離したり、破片のように都市の主流生活から遊離させるのではなく、しっかりとした計画を立て、彼らに都市を理解させ、都市社会に溶け込むよう支援し、都市のコミュニティ生活を送れるように支援する必要があります。また、「農民」労働者が都市社会に溶け込むには、長期的に見て住宅も必要です。今の社会は第二世代「農民」労働者の移動に、まったく住宅支援をしていません。たとえば、私がインタビューした工場に働く夫婦は、工場の規定で宿舎内では一緒に住むことを禁止され、また外に部屋を借りるカネもなく、会うたびに気持ちが沈むということでした。私は深圳でたくさんこのような状況に出会いました。夫婦が同じ工場で仕事をしていても、工場側が人為的に夫婦を引き裂いているのです。そうでなければ一部の工場が「夫婦宿舎」を提供したことがニュースネタなどにはならないでしょう。
私はこうした工場の責任者にもインタビューしました。彼らは自分たちが正しいと思っています。工場の宿舎は夫婦同居を保証する場ではなく「ここは仕事する場所なんだ」というのです。しかし、労働者の賃金では部屋を借りるのは無理で、政府も住宅支援はしません。これは大きな問題です。
東方早報:あなたは工業化した地域では、政府は中低所得層向け住宅を作るときは「農民」労働者のことも考慮すべきだと言われるのですか?
于建:まず「農民」労働者家庭の別居を避け、彼らが都市社会に溶け込めるようにしなければなりません。彼らが自分の努力で都市に足場を築くことができると感じられるようにする必要があります。たとえば夫婦が都市で働いて月3000元を稼ぎ、月500元を払えば公営住宅を借りることができるのであれば、彼らは子供を連れてくることができ、子供を親元で学校に通わせることができます。都会で予測可能な生活を送ることができれば、その夫婦は、故郷の土地を手放すことも考えるでしょう。
今はっきりしているのは、「農民」労働者は総じて都市に足場を築ける可能性がありません。可能性のない人はどう感じるでしょう? もしいま農民に向かって、お前が都市に来たら戸籍をやると言って、何の役に立ちますか? 住むところもない、子供を受け入れる学校もないんです。これは政策的に対応する必要があります。
農民の土地を削り取るだけではいけない
毎日農民の土地を削り取ってばかりではいけません。農民が自分で転出できるようにすれば、その土地は自然に空くじゃないですか? 今の多くの地方政府の改革は、「庶民」から見たら、「改革を通じて、利益を収奪している」のです。
東方早報:現在都市住民のための中低所得層向け住宅、教育、医療などの公共財と公共サービスの提供の面でも不足しています、短期間のうちにこれらの公共財の提供を拡大するのは困難です。
于建:一気に解決することはできません、方向は明確にすべきです。毎日農民の土地を削り取ってばかりではいけません。農民が自分で転出できるようにすれば、その土地は自然に空くじゃないですか? 今の多くの地方政府の改革は、実際は農民から土地を削り取ることです。例えば、重慶で行われている宅地取引は問題があります。
東方早報:重慶の農村土地取引所は設立1年になりますが、世論は重慶は土地の権利取引を通じて、都市が農村を養う新たなルートを切り開いたとみなしています。
于建:重慶の宅地取引改革の実質は、国家の農地に対する剛性保護政策を背景に、一部の宅地を取引し、宅地化割当量を集中し、国家の耕地保護目標を打ち破っているのです。
重慶のやり方は農地転用の一形式です。基本農地ではないので、明らかに農民の住宅用地も上場することができます。しかも一部の用地目標の問題を解決することができます。それには一定の意義があります。しかし、そこにはトリックがあります。例えば、辺鄙な農村に1ムーの宅地を持っているとします。それは上場できます。しかし人が買うのはあなたのその土地ではなく、その広さの割当量です。当該の宅地を農地に戻したら、都市郊外に1ムーの農地を借りることができます。これは一種の農地の交換です。その結果、郊外の農地が宅地となります。肥えた農地のムー当たり収量は500kgにはなるが、宅地を農地に変えたら、ムー当たり収量はせいぜい50kgだろう。違いは大きい。
このような改革に対して、私は慎重であるべきだという意見です。特にそこにおける利益分配問題に注意し、農民の土地権益略奪の手段に変えてはなりません。
重慶は2007年に農地株制度改革を行い、その後廃止しました。農地株制度は農民に農地を現物出資させましたが、実際に大きな問題になったのは会社が利益配当しなかったことで、農民は自身の利益を守れませんでした。雲南省孟連のゴム栽培農家事件も教訓になります。いま多くの地方政府の改革は「庶民」からすればみな、「改革を通じて、利益を奪う」ものです。私はこの問題を非常に心配しています。
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誰が下層青年のチャイナドリームを圧殺しているのか(2)