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于建:社会安定のベースラインを守るために(10・完)

2010-04-18 21:06:31 | 中国異論派選訳
于建:(質問メモを見て)この弁護士の最初の質問は戸籍移動の問題です。憲法は国民の戸籍移動を認めているのに、なぜ実際にはだめなのか。外地の弁護士の戸籍を北京に移せない。子供は北京で育ったのに、湖南省に戻って大学入学試験を受けなければならないけど、どうしましょう? この問題は、弁護士も出稼ぎ労働者も同じ待遇です。弁護士だからといって出稼ぎ農民より多くの権利を享受できると考えるべきではありません。最近私は戸籍制度改革の課題を研究しています。今の戸籍それ自体は大した意義はありません。重要なのは戸籍の背後の問題をどうするかです。例えば質問された大学入学試験の問題。この問題は法律問題であって、法律問題でない。私の出した結論は制度問題だと言うことです。戸籍制度制定の経緯から検討し、その上で戸籍に付着した物をはぎ取っていく必要があります。

 第二の問題はこの型は選挙に参加したことがない。私にどう思うか聞いています。この問題について私はあなたと同じ考えです。私も選挙に参加したことがありません。私の考えでは、本当の選挙制度がないのですから、政府のゲームに付き合う必要はないです。なぜか? なぜなら私には、いささか信念があります。私は朱に交わって赤くなるのではなく、それを守りたいと思います。

 李庄の事件について私は「弁護士制度を悪者扱いするのは正しい態度ではない」と題した文章を書いて、中国青年報を批判しました。その誤りはどこにあるのでしょう? 私は李庄という人がどういう人かに関わりなく、新聞は適当に弁護士制度に結び付けるべきではないと思います。弁護士の勝訴率はたったの5%だと書かれていましたが、5%の勝訴率は大したものです。たとえ1%でも中国の弁護士の偉大な勝利です。法律の尊厳を守ること、私たちの依頼者の権利を守ることこそが最大の勝利です。

 一部の弁護士は政界入りしたいと思っています。将来は必ずそうなります。世界の先進国の発展過程を見てごらんなさい、どの国も英雄時代の後に、いわゆるテクノクラート時代になり、最後は法律時代、つまり法律家の時代になっています。法律が必ず最終的に政府の最終的なベースラインになります。いま弁護士はなぜ政界に入らないのでしょう? それは入りたくなかったり家族に反対されたりする人が多いからです。ですが私は将来の中国で本当に国を管理するのは法律家だと信じています。しかもその多くの人が弁護士出身になるでしょう。それは疑いの余地のない世界の趨勢です。

于建:(質問メモを見て)この弁護士は騒乱の特徴について質問しています。騒乱の最大の特徴はなにか? それは無関係な人に攻撃が向かうことです。鬱憤晴らし事件は法律のベースラインを破るものです。法律を破り、放火し警察署を破壊しますが、鬱憤晴らし事件にもベースラインがあります。社会の道徳のベースラインは破りません。その事件と関係なければ、攻撃されません。しかし騒乱は社会道徳のベースラインも破ります。相手が誰であれ強奪し、暴力をふるいます。それが鬱憤晴らしとの違いです。

 もう一つの問題は、「政治」とは何か? です。司法部長が弁護士は政治を考慮せよと言った時、私は『司法部長は政治とは何かを知らない』という題の文章を新聞紙上で発表しました。「政治」とは何か? 私は弁護士の最大の政治は法律の尊厳を守り、法律が命じることを行うことだと思います。法律は私たちに何を命じているか? 依頼人の権利を守ることです。それこそ法律が私たちに与えた政治であり、また私たちの唯一の政治です。弁護士は大局を考慮する必要はありません。私たちの職責は依頼人の権利を守ることです。それをやり遂げることが、この国のベースライン、社会のベースラインを守ることです。この点をもし私たち弁護士、法学博士、法学修士たちがみな忘れたら、とても危険なことだと思います。

于建:(質問メモを見て)法輪功の問題について聞かせてください。法輪功について私は調査したことがないので、意見を言うことはできません。政治問題を恐れるからではなく、調査したことのないことについて私は発言しないことにしているのです。

 ですが、私は最近地下教会について調査しています。去年私はこの問題で3つのレポートを書きました。この問題について皆さんにも関心を持っていただきたいと思います。私の調査によれば、全国でキリスト教の信者だけで7,000万人ほどの信者がしますが、その三分の二が地下教会です。政府の今の地下教会に対する態度は見て見ぬふりです。去年私は北京大学で講演して、地下教会を直視し、まず脱「敏感」化〔公認〕し、議論を始めるべきだと述べました。私は地下教会が社会の安定の障害になるとは思っていません。私が心配しているのはむしろ共産党の地下教会に対する態度です。

 ですが、地下教会自体についても一つ心配な問題があります。それは地下教会の研修学校です。もし皆さんが将来地下教会をめぐる事件を扱うのであれば、十分注意してください。私が温州で調査したとき、『南方週末』の笑蜀さんたちもニュースを聞いて駆けつけてきました。その日の夜私は彼らを連れて彼らが一生震撼するようなことを見せに行きました。私たちは多くのコネを使って、一般のアパートに入りました。そこでは20名近くの全国各地から集まった子供が、閉じこもって地下教会の研修を受けていました。私は何を心配したかというと、私たちは何を教えているのか知らず、しかも彼らがこれをどう見ているのかも知らないことです。ですから私はこの問題をとても心配しています。魏汝久さんは以前ある地下教会関係の事件を扱ったことがあります。彼はその資料を私に見せてくれました。私の結論は、秘密化はカルトの広がりに有利であり、公開化すれば恐れることはない、です。私は最近も改めて地下教会を公開化〔公認〕しなければならないと呼びかけました。私が反対しているのは秘密化です。政府が禁止して秘密化すればするほど扱いづらくなります。私が心配するのは、地下教会の集会ではなく、地下学校です。ご在席の弁護士の皆さんにもぜひ地下教会に関心を寄せていただきたいと思います。地下教会の発展過程でどのような法律問題があるのか、弁護してくれとは言いませんが、少なくとも研究することは必要です。私の分析では将来非常に大きな問題になります。ありがとうございました。

質問:私は一つ質問します。あなたは集団示威事件において弁護士はどのような役割を発揮すべきだと思いますか? 弁護人として以外に、制度設計の面でどのようなお考えをお持ちでしょうか?

于建:私は弁護士は二つの役割を発揮できると思います。第一は、状況が集団示威事件に発展する前に、例えば当事者が相談に来た時、良い法的な提案をするべきです。もし弁護士が本当に介入できるのなら、より効果的でしょう。第二が事件発生後の役割です。しかし、弁護士の集団示威事件における仲介作用は、たしかにボトルネックです。私の知る限り、中国の多くの集団示威事件、とりわけ権利擁護運動は、事件発生前に弁護士に相談しています。しかし彼らが相談しても弁護士も打つ手がありません。なぜなら裁判所が受理しないからです。弁護士に何か方法がありますか?しかも政府も支持しません。皆さんご存じのように、雲南省孟連の事件が起こってから、政府は弁護士がゴム農家をそそのかしたと言いました。私は政府のこの態度は間違っていると思います。また、一部の弁護士は関わりたがりません。なぜなら当事者が訴訟費用、弁護士費用を払えないからです。いま社会の弁護士に対する評価は割れています。最近李庄事件が起こってから、「弁護士制度の悪者扱い」という文章を書いたら、多くの人が「誰が弁護士を悪者扱いしたかって、あなた方弁護士が自分で悪者にしたんじゃないか」という趣旨の書き込みをしていました。ですから、私は弁護士ももっと弱者層の権利擁護事件、とりわけ土地問題に介入していくべきだと思います。ただ弁護士自身を守るために、弁護士協会で集団示威事件に関する業務指針を作ることを提案します。例えば事件の相談が来たら、どう対応するか、指針を作ることは、弁護士を保護する一つの方法です。

質問:例えばその指針で、弁護士は外国記者のインタビューに応じてはならない、パートナーは忌避しなければならない、司法当局に報告しなければならないなどと決められたらどうしますか?

于建:いったい何が問題なんですか? 私は外国人のインタビューを受けないのはいいと思います。同意します。私たちは何も自分から面倒に巻き込まれることはありません! 私は外国記者のインタビューを受けたことはありません。外国記者が電話してきたら、必ず時間がないと言います。もし外国記者が私の職場に電話してきたら、私の上司は私がどこにいるかわからないと言うでしょう。外国人が私に会うには社会科学院の許可が必要だし、正式文書で私に通知しなければ、私は会いません。会わないことは彼らには損でも、私に損はありません。ですから、私たちはそういう問題で政府ともめる必要はありません。いまの中国は弁護士であれ、社会運動家であれ、いわゆる公共知識人であれ、一定の自己防衛のベースラインが必要です。

 しかし法律の中で何が弁護士の防衛に役立つのか、私たちははっきりと列挙しておくべきです。権利擁護・鬱憤晴らし事件が起こりそうな状況の下で、弁護士がどのように参加するのか。私はやはり指針を作っておいた方が煩わしくないと思います。私たちは時に妥協が必要です。中国では生存の知恵が必要です。私たちもまた私たちの行為のベースラインの指針が必要です。そのベースラインとは私たちが法律の尊厳を守ることであり、依頼人の権利を守ることであり、非常に重要なことです。

質問:于先生。一つおたずねします。中国の今の状況で、制度改革は可能でしょうか? いま言われたように、中共中央政法委員会などの機関は撤廃できないでしょう。それなら司法の独立はなおのこと難しい。それに体制全体の転換の問題。あなたは中国の未来の出口はどこにあるとお考えですか? 変革の希望はあるでしょうか?

于建:私はそれでも希望はあると思います。その希望とは社会の圧力です。いまの世代の指導者がそう考えているかどうかは分かりませんが、社会の圧力が大きくなった時、みんなが行き詰っていると感じる時、多分私たちは共通認識とベースラインを探すでしょう。何年か前に私が憲法が社会安定のベースラインになると言った時、みんなが私を笑いました。今日私が同じことを言っても、誰も笑いませんでした。我々にベースラインがないからです。私たちは後退し続けて、この民族は守るべきものをみな失っています。今日、政権党が今後も政権を握り続けたければ、政権党の人がまだこの民族に責任感を持っているのなら、政権党は社会各勢力がみな受け入れ可能なベースラインを探し出さなければなりません。そのベースラインは、政治などではなく、三つの代表などではなく、憲法だと私は思います。中国の憲法の規定の多くは、あまり大きな問題はないと思います。

 ですから、私の考え方は、中国に大きな動乱が発生するか? もしベースラインを探し出せなければ、発生するでしょう。ですが動乱が発生したら徹底的に社会秩序がかく乱されるでしょうか? そうはならないでしょう。動乱発生後、みんながベースラインに戻るでしょう。なぜなら、暴力で奪った政権はかならずや暴力によって回復しなければならないのなら、この民族は再び60年前の道に戻ることになります。それはほとんどの人が見たくない状況です。ですから、動乱が発生したらむしろみんな唯一の道は理性的に誰もが受け入れられるベースラインを探しだして、守ることだと気づくでしょう。そうでなければ、動乱は深刻な災難をもたらすでしょう。いまみんなが、双方が妥協を図り、双方が言い争い、圧力が大きくなれば政府は妥協を始めるでしょう。私はそれこそがベースライン探しだと思います。いろいろ探して、他に何も残らない。大局に留意するとか、政治を重んじるといった言葉はみな空語です。残るのは憲法だけです。その憲法は中国共産党が認め、全国人民代表大会で制定された憲法です。私はこれこそが中国のベースラインだと思います。もちろん憲法の中には多くの不満な点があるでしょう。それは変えればいいのです。私の判断は大体そういうことです。

于建:(質問メモを見て)この弁護士は伝統文化はまだ中国で影響を発揮するだろうか?と書かれています。昨日の午後伝統文化の擁護で非常に有名な陳明さんが私の家に来ました。私は中国の伝統文化はある面で社会に必要だが、伝統文化に頼って社会の安定を保つのは難しいと考えています。伝統文化は中国社会の安定のためのベースライン規範にはなりえません。私はここ数年キリスト教の問題を調査していますが、文化中から中国の共通認識を探すのは難しいと思います。それは多分法律と関係があるでしょう。法律家はルールを語りますが、中国の伝統文化のルーフは曖昧です。孔孟の道に立ち返れと言う人もいますが、孔孟の道で中国を救えますか? 救えないですね。私は、唯一中国を救えるのは憲法だと思います。みんなで憲法を守り、憲法の原則を社会規範のベースラインにすることが重要だと思います。

出典:http://www.chinaelections.org/newsinfo.asp?newsid=169507

(転載自由、要出典明記)

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