ウィザードリィ小説の傑作! ベニー松山『隣り合わせの灰と青春』

2023年02月22日 | 

 ベニー松山『隣り合わせの灰と青春』を久方ぶりに再読した。

 もうずいぶん昔の話だが、1990年代に日本で空前のファンタジーブームが起きたことがあった。

 ……て、まあ話の流れ的に完全に、前回までの米長と羽生の名人戦からの連想で、当時の思い出を掘り起こしているうちに将棋以外のアレコレも浮かんできたりしたわけだ。

 といっても、これが『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』といったコンピューターゲームではなく、テーブルトークRPGがきっかけ。

 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』から端を発した『ロードス島戦記』や、カードゲーム『モンスターメイカー』の大ブレイクをはじめ、『(ハイパー)トンネルズ&トロールズ』に『ソードワールドRPG』に『AD&D』に『ドラゴンランス戦記』。

 グループSNE冒険企画局翔企画ORGといった面々が各所で活躍していた時期で、『ドラゴンマガジン』『ウォーロック』『オフィシャルD&Dマガジン』なんて聞くと、「あったなー」となつかしがる声が、同世代から聞こえてくるのではあるまいか。

 そんな時代だったので、「ファンタジーRPGを題材にした小説」の黎明期でもあり、よく売れたようで、この『隣り合わせの灰と青春』もその流れにある作品のひとつなのだろう。

 元は雑誌『ファミコン必勝本』に連載されていたもので、こちらはテーブルトークではなくコンピューターゲームの大名作『ウィザードリィ』を取り上げたもの(というか『ウィザードリィ』自体『D&D』が元ネタなんだけどネ)。

 中学生だか高校生だかのときに読んで夢中になった記憶があるので、電子化された際に真っ先に買って読み直したが、これが今でも充分におもしろくて感心してしまった。

 再読してうなったのは、まず文章のうまさ。

 内容的には正統派でハードな英雄戦記なので、それっぽいカッコよさげな文体だが、やりすぎていないというバランスがいいし、サクサク読めるところもグッド

 この手の小説は、下手なスポーツライターがカッコよさげな文章を書くと「沢木耕太郎の劣化版」みたいになってしまうように、とても「クサイ」ものになりがちだが、この小説はそんなことなくて好感が持てる。

 それと、なんといっても魅力的なのは、子供のころも大好きだった「のパーティ」の存在。

 主人公スカルダのパーティは、クールなガディや気さくでいいヤツのジャバなど、いかにも「善」というか優等生な感じで、正直あんまし印象に残ってないんだけど、そこにはないアクというかのようなものが彼らにはあるのだ。

 まず、ホビットの忍者キム

 「手裏剣」強奪のため、忍者をねらって殺すという命知らず。

 当然、クリティカルヒットを食らって何度も即死するが、そのたびに強靭な生命力でカント寺院からよみがえってくるという、恐ろしすぎるバケモノ。

 もうアヤシイ空気が出まくりで、これぞ悪の華! 「ハ・キム」という、正体不明で無国籍なネーミングのセンスもバツグン。

 さらにはドワーフは歯が命の、笑顔がコワイ戦士ゴグレグに、冷徹でかけ引き上手な「策士」アルハイム

 ヒソヒソ話をしながら、そのスキにいつの間にか攻撃呪文を放りこんでくるという、ヤバすぎる双子の魔法使いサンドラルードラなどなど、もうキャラ立ちまくりの面々なのである。

 こんなん見せられたら正直、

 

 「スカルダとかみたいな、いい子ちゃんもういいよ。それより『隣り合わせ外伝 ハ・キムの冒険』を書いてよ、ベニ松っちゃん!」

 

 とか言いたくなるわけなのだ。

 若いころ接した作品は「思い出補正」がかかって、今見ると「あれ?」ということもなくもないが、この『隣り合わせ』はまったくそれがなかった。

 まあ、後半が展開早すぎというか、詰めこみすぎというか、なんだかバタバタしている印象だし、ワードナトレボーの部屋に侵入できたトリックも、子供のころは感心した記憶があるけど、今、冷静に見るとかなりマヌケだよなあ。

 なんて言いたいこともあるけど、その程度のことはぶっ飛ばすくらいのおもしろさ。ウィザードリィをプレーしてなくても楽しめるところも、読者としてはありがたいだろう。

 うーん、こうなるともっと、当時楽しんだこの手の本を読み直してみたくなっちゃうなあ。 

 ソードワールドの短編は電子化してるし、神月摩由璃『SF&ファンタジー・ガイド 摩由璃の本棚』が電書で復刊したのは感動だったけど、『聖エルザクルセイダーズ』とかもならないかしらん。

 あと、小野不由美十二国記』が未読なんで、これも電子化してくれると、うれしいです、ハイ。

 

 

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