散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

蜘蛛の巣

2005-08-19 17:29:23 | 思考錯誤

今朝はやけに部屋の隅の古い蜘蛛の巣が気になって、一つ一つからめとるように掃除していった。そこでふと思い出した話があった。

知人のRioは世が世ならばお姫様という人だ。某侯爵家直系ではないが,同じ名を継いでいる。
ある日彼女が訪ねて来たときの事。やはり今朝と同じく私は蜘蛛の巣が気になって仕方がなかった。気にはなるが掃除する気もなくただ目がたびたびそこに行ってしまう。
彼女とお茶を飲みながら、何とはなしにまた蜘蛛の巣を見上げてしまうのを止める事が出来なかった。
他愛もない事を話している途中、いきなり
「蜘蛛の巣と言えばね。。。」と彼女は始めた。 別に蜘蛛の巣の話をしていたわけではなかったのだが、私の視線を追って彼女も蜘蛛の巣を見ていたらしい。
「伯父の屋敷で子供の頃に兄弟、従兄弟と屋敷探険をした事があるの。」
「幾つも部屋があるのでそれは楽しかったわよ。その一番奥に屋敷から塔につながる通路のドアがあって、そのドアはいつも鍵が掛かっていたの。でも、塔には皆行きたがらなかったわ。」と言い、カップの縁からお茶をすすっている彼女の大きな目だけがこちらをのぞいている。 
ははあ、やっぱりね。塔というものはどうもそういうものらしい。たびたび塔というのは怪しげな存在として物語の中に君臨しているではないか。ほらほら、さあさあ、出てくるぞ、と私は頭の中に勝手に芽生えてくる物語を蜘蛛のようにはりめぐらせながら続きを待った。
なのに、もったいぶってテラスに咲いているライラックを急に熱心に眺めながら口をつぐんでいる。
「ねえ、あのライラックきれいな色じゃない? いい香りよね。」
「それで、その塔に昇ったことあるの?何があるの?」と私は頑固に塔の話を促した。
「ううん、塔には昇ったことはないわ、でもねある時私は鍵を手に入れたの。っていうか、物置でね古い鍵束をみつけたのよ。鍵束って魅力的ね。どれがどの部屋の鍵かわからなかったから、面白くてあちこちに調べて見たわ。それで塔へ続くドアも調べて見ようと思ったのね。ガチャガチャやっているとスッとドアが開いたのよ。すごく驚いたわ!」
と言いながら、レモンクッキーを美味しそうに齧っている。
「それで?中に入ったの?」
「そこは通路なんだけどね、まったくそっけないわけ。それに蜘蛛の巣がいっぱいでまるで蜘蛛の巣で出来た灰色の布が掛かっているかのようだったわよ。」
そうねえ、と私は部屋の隅に灰色に垂れ下がる古い蜘蛛の巣を眺めやった。
「私は、こわごわ手に持った鍵束で、蜘蛛の巣を少し掃ってみたのだけどね、その先は薄暗くて何も見えなくて、なんだか怖くなってドアを閉めちゃったのよ。」
「ふうん、それでその塔について何か面白い話は無いの? はら、幽霊とか出ないわけ?」と
私が先立って本題に押し入ったので、彼女は少し出鼻をくじかれたようになり、いきなり早口になって続けた。
「もちろん出るわよ!庭から塔を眺めるでしょ、するとね、ふと天辺の小窓から白い服の女性が立っているのが見えるのよ。いつもじゃないのだけどね。伯父に聞いたら、昔身分の違う相手と恋をして身篭った人がいてね、その塔に閉じ込められて亡くなったらしいわよ。」といって彼女は話しを信じたかどうかを確かめる如く私の目を覗き込んだ。 やっぱりね、と思いながら私は
「ふうん、なんだかよくある話ね。昔はそんな事がどこのお城屋敷にもあったって言う事ね。それで本当にあなたも見たの?」と今度はこちから彼女の目を覗き込みながら聞いてみた。
「え~。。うん、子供の時に見た。。と思うわ。。。ううん、見たわよ。」

私は、いい加減蜘蛛の巣の残骸を掃いて捨てなければなぁ、と考えながらお茶を飲み干した。


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24 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
洋館 (マユ)
2005-08-19 18:15:12
日本でもヨーロッパでも、洋館の塔というのはそれだけで何か「いるのでは?」という気分にさせられますね。

私の友人知人で「見える」人々の話を聞く限りでは、そんなに趣のある出会いはなかなかないのですが(笑)池袋から要町にかけて行動範囲だった友人は、おもちゃのピストルを片手に持ったままお散歩している乱歩先生と一度だけすれ違ったことがあるそうです。

ちょっと羨ましい。
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う~ん。私も少しだけ羨ましい。 (seedsbook)
2005-08-19 18:27:13
しかしおもちゃのピストルを持って散歩。というのはなんだかいつまでも期待を裏切らない乱歩先生ですね。”見える人”はいつも”見える”のだったら視覚的に忙しすぎて大変だったリ、混乱しないのでしょうか?一時間だけそういう目を借りて見たい気もしますが。。。

例の匂いについてはまだ謎。時には友人の家でも同じ匂いがするので更に謎。

まあ謎でとっておくのも一興。
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忙しいみたいですよ (マユ)
2005-08-19 18:40:42
お盆の時にはとくに(笑)

友人の部屋のブラインドは黒でした。これだと、結構な人数をシャットアウトできるそうで。一緒に歩いていて、「うわっ!びっくりしたー」とか「ついてくんな」とか「道あけろ」とかなんか色々云ってました。こっちは慣れちゃいましたけど。

匂いについては、不思議ですね。謎のままなのが安心だったり、そのほうがわくわくしたり。
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マユさん (seedsbook)
2005-08-19 19:40:40
やっぱりね。

大変なのね。

いや、見えない人で私は良かった、良かった。

でも何で黒はプロテクトできるのかなあ。不思議だ。

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Unknown (K-es)
2005-08-19 20:37:55
何か起こりそうで何も起こらない、妖しいムードだけで進行する小説。。のようなものとして読みました。実際に部屋の隅にかかった蜘蛛の巣の方が気にかかって苛立ち気味なseedsbookさんの気分みたいなのが伝わってきて、このお話はその部屋に潜んでいた蜘蛛が紡ぎ出したんじゃないかと思わせられるような結びでした。
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K-es さんへ (seedsbook)
2005-08-19 21:13:19
お久しぶり!

何かおこりそうでおこらない、ボーっとした話。

怪談書こうと思ったけれど、これじゃちっとも怖くないと文句言う人も居ります。(笑)だってそんなに怖い話身近にあんまり聞かないので仕方ありません。



蜘蛛が紡ぎだしたお話が時々ぶる下がっていると楽しいのに。

または、蜘蛛の糸に絡まって捕まったお話を、収穫にいくというのもいいかなあ。(笑)

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Unknown (shigeyuki)
2005-08-19 22:38:51
何が怖いかって、僕は蜘蛛ほど怖いものはありません。特に、手足の長い奴は、卒倒もので、考えるのも嫌。いつからだろうなあ。多分、子供の頃、友達の家に泊まったとき、ベットの下を何気なく見たら、数匹の巨大な女郎蜘蛛が重なり合って張り付いているのを見たとき以来かなあ。だから、この話は、僕には十分怖いです(笑)。
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塔の姫君 (lapis)
2005-08-19 22:47:30
早速リクエストに応えていただき、ありがとうございました。僕は、怪談を読んであまり怖いと思ったことはありません。例外は、幼稚園の頃見た化け猫の映画と、小学生の時に読んだ、狼女の小説でした。ですから、怪談=怖いというイメージはなく、不思議な物語という感じです。

精神年齢が幼いので、いまだに塔の姫君というイメージが好きです。それが幽霊であっても全然かまいません。(笑)こういうお話は大好きなので、大変楽しませていただきました。



僕も、見えない人間なので、美人の幽霊なら見てみたいものです。ピストルのオモチャを持った乱歩先生も見てみたいです。それと、幽霊のお話より、「蜘蛛の糸に絡まって捕まった」というイメージの方が怖かったです。(笑)



美女の幽霊の話ではありませんが、TBさせていただきましたので、よろしくお願いいたします。

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shigeyukiさんへ (seedsbook)
2005-08-19 22:54:59
Shigeyukiさんは蜘蛛恐怖症ですか。

蜘蛛という字を見ただけでも嫌ですか(笑)



でも女郎蜘蛛が重なり合ってベットの下にいたら、私だってかなり慌てます。

上手く捕まえないと散ってしまうし。。。

ああ。鳥肌。
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Lapis さんへ (seedsbook)
2005-08-20 00:15:50
TB有難うございました。

私が幼稚園の頃今でも覚えている事でTVの前で祖母の着物の膝に顔を伏せて日本の怪談を見ていた記憶があるのです。お岩さんとかですね。膝に顔を伏せているのに画面がみえて怖いと訴えたんですが、ということは夢だったわけですね(笑)

不思議そうで不思議でない、または不思議でないけど不思議な話と言うシーズもいいかな?(笑)
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