緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

Youtubeの音楽録音は最も重要な要素が欠落している(コーガンの録音を聴いて)

2024-03-03 21:12:11 | バイオリン
今日、注文していたレオニード・コーガン演奏、メンデルスゾーン作曲ヴァイオリン協奏曲ホ短調のライブ録音のCDが2週間ほどかかってやっと到着していた。

エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮、ソ連国立交響楽団、1960年4月24日ライブ録音

同時発注したコーガン演奏、コンスタンティン・シルヴェストリ指揮、パリ音楽院管弦楽団のCDは未だ届かない。
日本に在庫がなく、製造元のロシアのMKというレーベルから取り寄せたようだ。

注文し終えてからスヴェトラーノフ指揮、ソ連国立交響楽団の演奏をYoutubeで見つけて聴いてみたら、正直なところ、シルヴェストリ指揮の方に比べると精細さに欠ける印象を受けたので、その時は注文して失敗したと思っていた。
しかし今日、あまり期待せずにこのCDをステレオで聴いてみたら、びっくり。
Youtubeで聴いたときの演奏と全く印象が違っていた。
コーガンのヴァイオリンから出てくる音がまるで今、生きているかのように清冽さを放って迫ってくるのである。
あまりもその感情エネルギーの凄まじさに瞬間的に感動の涙が噴き出してきたほどだ。
こういう衝撃って、10年以上前だが、マリヤ・グリンベルクの弾くベートーヴェンのピアノソナタ第32番や、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリの弾く同じくベートーヴェンのピアノソナタ第32番を聴いたとき以来だ。

何故こうもYoutubeの投稿録音と今回のCDの音源との受ける印象の落差が大きいのだろう。
それは、新鮮なひき肉とたまねぎを使ってフライパンで焼いたハンバーグを焼きあがった直後に食べるのと、何か月も冷凍保存されていたミンチから作ったハンバーグ、それも冷めて冷たくなったものを食べるほど違いがあるように感じられた。
今回聴いた1960年のライブ録音の音源のマスターテープは恐らく発見されたときには保存状態が良く、保管場所から繰り返し持ち出されたりしていなかったのであろう。
だからオリジナルの音源がまず非常にいい状態であったことが推測される。
あとYoutubeに投稿する際にはどうしても容量が圧縮されるのでオリジナルとは一層かけ離れたものになるに違いない。
投稿によってはかなり電気処理を施してしまっているものもある。これは最悪だ。ピッチが変動してしまっているものさえある。
再生装置もパソコンだとオーディオのアンプというわけにはいかないだろう。
オーディオのアンプといってもCDの場合はそんな何十万もするような高級なものは必要ない。
私はマランツが倒産したときにバナナのたたき売りのように安売りしていた普及機を20年くらい前に買ったのを使っているが全然性能は落ちていない。

やはりYoutubeの投稿録音というものは聴き手にとって最も重要な要素である、「演奏者の感情エネルギー」がかなりの割合で欠落してしまっているといっていい。
今回のコーガンのライブ録音がそれを証明している。
だからYoutubeのみ聴いて演奏の良し悪しを判断することは危険だ。
本当は素晴らしい演奏なのに、その真価が再現されていないがために一生に一度の素晴らしい出会いを逃してしまう可能性もあるのだ。
お金はかかってしまうが、クラシック音楽は出来るだけCDやレコードで聴いた方がいい。
よく、ネットでYoutubeだけの鑑賞で名盤紹介をしている記事を見かけるが、そういう情報はうのみにしない方がいいというのが私の見方だ。

しかしレオニード・コーガン(1924-1982、旧ソ連(現、ウクライナ))というヴァイオリニストは凄い。
以下はタワーレコードの解説から拝借させていただく。

「コーガンは1951年にベルギーで開催された第1回エリザベート王妃国際コンクールに優勝して、一躍世界に名を轟かせたヴァイオリニストである。1955年から西側での本格的な活動を開始し、1958年に初来日。親日家となり1978年まで計8度も来日している。コーガンは非常に小柄だったが、ひとたびヴァイオリンを手にしてステージに立つと圧倒的な演奏を聴かせた。現代のトップ・ヴァイオリニストにもひけをとらない超絶技巧、多彩かつ鮮やかな音色美、人並み外れた集中力、端正な造形美、そして音楽の内側から溢れだす類い稀な情熱。これだけ素晴らしい芸術家のLPが希少盤となったのは、彼の表現主義的とも言える演奏が、当時の時代精神に少し合っていなかったためだろう。同じ旧ソ連なら彼の先輩にあたるオイストラフ(1908~1974)の揺るぎない安定感と穏やかな情緒の方が人気を博していた。もっともオイストラフとコーガンは私生活では大の仲良しであったのだが。しかし、コーガン没後の人気再燃は彼の芸術がいかに魅力的で優れたものであったかを証明している。ベートーヴェンやブラームスでの雄大なスケールと高貴な音楽性、チャイコフスキーやラロでの濃厚な民族色と圧倒的な技巧、そして妻エリザベータとの美音と美音が交錯するヴァイオリン・デュオの愉悦。極上の名演の数々が、オリジナルLPに勝るとも劣らない高音質で眼前に蘇っている。」

またウィキペディアによるとコーガン夫人はあの大ピアニスト、鋼鉄の腕を持つと言われたエミール・ギレリスの妹で彼女もヴァイオリニストだったそうだ。
コーガンは1982年、ウィーンでの演奏旅行から帰った直後、息子パヴェルと共演するため、オーストリアとロシアの間を列車移動中に心臓発作を起こし、誕生日を目前に58歳で不慮の死を遂げた。

協演した指揮者のエフゲニー・スヴェトラーノフも凄い実力の持ち主だ。
以前、チャイコフスキーの悲愴や、イエペスと協演したアランフェス協奏曲の録音を記事にしたことがあったが、彼は指揮者だけでなく、ピアニストとしても一流であり、作曲家でもある。その演奏や作品はYoutubeで聴くことが出来る。
今回のメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も非常にいい演奏をしている。ソロとの絶妙なバランス、表現の自然さ、音の美しさ、どこをとっても超一流だ。
第3楽章でコーガンの演奏を優先させ、あのスピードに殆ど完璧に合わせていっているその技量の高さに脱帽だ。
このライブ演奏でもあの赤い色の小型扇風機を指揮台に置いて演奏したのかな?。



【追記】
10年くらい前に来日したあるスペインの有名なギター製作家から直接聞いた話(通訳を通して)であるが、彼はコンサートでセゴビアなどの巨匠の演奏を聴いて、客席の多くの観客が涙を流しているのを見たそうだ。それに比べると昨今はちょっとあきれる。距離を置いているという感じで涙を流すような人は殆どいなくなったと言っていたのを思い出した。

【追記】
スヴェトラーノフ(1928-2002)、ロシア)のあの小型扇風機であるが、1970年代から使っていたそうだ。ウィキペディアにこんな記述があった。
「1970年代頃から、ロシア国立交響楽団を指揮する場合は、ライブであろうがスタジオであろうが、必ず譜面台に赤い扇風機をつけて指揮していた。しかも、旧ソ連製であるゆえかライブ録音のCDなど弱音時に扇風機の音が聴こえるため、CDの解説書に但し書きまでついていた。これについて、より静粛性が高くて風量も多いタイプを薦められたこともあったが、馴染みのある赤い扇風機に拘っていたスヴェトラーノフは全て断り、海外公演の際は変圧器まで用意して使っていた。」
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