つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

小説「プラハの春」。

2022年02月27日 21時21分21秒 | 手すさびにて候。
                      
“リスクの高い道は選ばないだろう”

そう読んだ僕の予想は見事にハズレた。
ロシアの、いや「プーチン」の選択は、鉄と血による「侵略」だった。
しかも、武力行使のこじつけにした一部地域に留まらない全面攻撃。
大胆不敵、厚顔無恥、傲岸不遜とはこの事である。

歴史を振り返れば、類似例があった。
それは今から54年前のチェコスロバキア。
社会主義の枠内で民主化を目指した政治改革「プラハの春」が、
軍事力によって叩き潰された一連の出来事だ。

愛読する小説の中に、こんなセリフを見つけた。

『彼らにとって、武力行使は対外的な政策を実行する当然の手段なのです。
 彼らは力がすべてなのです。なんといってもイワン雷帝の末裔ですから。
 個人的見解ですが、彼らは目的のためであれば、
 手段を使い分ける忍耐と繊細な神経を持ち合わせていないのです。
 例えが悪くて恐縮ですが、女をベッドに誘うのに優しく口説くのではなく、
 殴りつけて失神させておいて事に及ぶのがソ連なのです。』


ソ連は地上から消えて久しいが、獰猛な赤熊は生き永らえていたのだ。

今回は、前述引用した小説「プラハの春」について投稿したい。
ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第百九十六弾「カテリーナ」。



小説「プラハの春」の舞台となるのは1960年代。
世界は、今とは違う。
<資本・自由主義陣営> 対 <共産・社会主義陣営>
<アメリカ一家> VS <ソビエト連合会>
乱暴に言えば2大勢力が睨み合い、鍔迫り合いをしていた。
そんな時代のお話である。

メインキャストの一人は「堀江亮介(ほりえ・りょうすけ)」。
クラシック音楽と絵画を愛する、20代の若き外交官。
神経質で理屈っぽい面、明るく陽性で行動的な面を併せ持つ。
ある日、彼がウィーンへ外交文章を届ける役目を終え、
プラハに帰る途上、偶然、運命の女性とめぐり合い恋に落ちる。

ヒロインの名は「カテリーナ・グレーべ」。
豊かな亜麻色の髪、白磁を思わせる肌。
整った顔立ちを引き立てるブルーサファイアの瞳。
30代半ばの女盛り。
大学講師を生業にする。
慈愛に溢れた聖母やモナ・リザを連想させた。

しかし、彼女は曰く付き。

日本と国交のない東ドイツ(DDR)出身で、
反体制活動家の烙印を押され、国外追放された身の上。
しかも、気持ちは冷え切り、離れて暮らしているとはいえ、
まだ婚姻関係を解消していない人妻。
自身の生き写しのようなローティーンの娘を持つ、一児の母でもあった。

日本の官僚「亮介」にとっては、相応しい相手ではない。
一方の「カテリーナ」にとっても、危険を孕んでいた。
西側の人間と親密になれば、スパイの嫌疑をかけられかねない。
2人それぞれに事情を抱えた恋の道行きは、様々な苦難に直面。
また、時代の波にも翻弄される。

チェコスロバキア政府が「プラハの春」を広くPRするため、
ラジオ国際放送による政治広報番組を企画した。
<形態は音楽プログラム。
 パーソナリティには、ロシア語、ドイツ語に通じた、
 30代の教養ある魅力的な女性を起用の事>
---「カテリーナ」に白羽の矢が立った。

果たして番組は大ヒット。
チェコスロバキアに留まらず、ポーランド~ルーマニア~DDR~ソ連、
各国で平均聴取率30%を超える人気番組へ成長。
「カテリーナ」はヨーロッパのラジオスターになった。
だが、リスナーが増えれば増えるほど、
人々の関心が集まれば集まるほど、影響力が高まるほど、
行く手に暗雲が立ち込める。
改革を快く思わないクレムリンが、番組を槍玉に挙げはじめたのだ。
「カテリーナ」とチェコスロバキアに危険が迫っていた。



小説「プラハの春」の著者は「春江一也(はるえ・かずや)」氏。
在チェコスロバキア日本大使館に勤務した外交官で、
1968年、ソ連の軍事進攻第一報を打電した人物。
その時の経験を元に著した処女作である。

僕はまだプラハへ足を運んだことはない。
もちろん、半世紀以上前の彼の地には行くことはできない。
しかしページをめくる度に「その時のプラハ」を生々しく感じた。

ナチス占領下にあっても戦場にならならなかったお陰で、
“百塔の街”と呼ばれる景観が残り、
石造りの建物の間を縫って石畳の道が続く街並み。
真ん中を割って「モルダウ(ブルタバ)」が滔々と流れるプラハ。

その美しい都をソ連の戦車が蹂躙する。
排気ガスをまき散らすディーゼルエンジンの轟音。
無限軌道(キャタピラ)が石畳を破壊して突き進む。

火を噴く銃口。
逃げ惑う群衆。
倒される人々。
火炎瓶の黒煙。
支え合う2人。
悲劇。
絶望。

歴史上の事件が、一人の日本人の視点から描写され、
市民たちが「プラハの春」に沸き、これを守ろうとする姿を追体験出来た。
そして、今のウクライナに、首都キエフに思いを馳せることが出来るはずだ。

結びに、小説「プラハの春」からもう一節引用したい。

『わたくしは、権力は本質的に悪である、善なる権力は存在しないと確信しています。
 しかも本質的に悪である権力を行使するものは人間です。
 神ではありません。
 だからこそ権力を手にするものは、不断に腐敗するのであり、
 絶対的権力者は絶対的に腐敗するのです。
 <中略>
 しかし絶対的権力者でさえ、大いなる摂理のもとでは矮小なる存在にすぎません。
 いずれにせよ歴史の大河の流れにおいて断罪され破滅する運命にあるのです。』

                       
(※本文赤文字「春江一也」著「プラハの春」より引用/原文ママ)
                 
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雪の水辺と並木道。

2022年02月23日 15時28分28秒 | 自然
                     
きのう(2022/02/22)全国ニュースでも取り上げられた通り、
石川県内にはまとまった雪が降った。
特にわが津幡町のお隣・金沢では、昨朝3時間のうちに21センチの積雪を観測。
金沢地方気象台は、大規模な交通障害の可能性が高まったとして、
同日・午前7時前「顕著な大雪に関する気象情報」を発表。
警戒を呼び掛けた。

地域差はあるだろうが、雪は「程々」で済み、胸を撫でおろしている。
とは言え、愛犬を伴っての散歩は無理。
ドライブ散策に切り替え、今朝、買い物に出かけた折に
「河北潟(かほくがた)」へ足を向けた。



拙ブログには度々登場する県内最大の水辺「河北潟」。
かつては東西4km、南北8kmに及ぶ面積を誇ったが、
1960年代に始まる国営干拓事業により1/3にまで縮小した。
上掲画像は「東部丞水路」に架かる橋の上で撮影。
風に舞う雪片がお分かりになるだろうか?
赤い円で囲った中には、空を飛ぶ水鳥。
水面にも鳥の群れが浮かんでいる。
割と大柄だから「雁」かもしれない。 
しばらく寒さに震えながら飛び交う姿を眺めるうち、一編の詩を思い出す。

瀟湘何事等閑回
水碧沙明両岸苔 
二十五弦弾夜月
不勝清怨却飛来


雁よ この美しい地を迷わず捨てて 北へ帰るのか
豊かで清らかな水 白砂の浜 岸には好物の苔も生しているのに
湖の女神が奏でる瑟(しつ/大型の琴)の調べが流れる月の夜
その物哀しい音色に堪えかね 飛び立ってしまうのか


(※太字「帰雁」-「錢起」作 / 赤文字意訳 - りくすけ)

作者「錢起」は、中国・唐代の詩人。
漢詩「帰雁」は、旅立つ雁に望郷の念を託したとされる。
季節は冬の装いだが、鳥たちは渡りの準備に入っている。
案外春は近いのかもしれない。

さて、津幡市街地方面から橋を渡り切ったそこは、広大な干拓地。
東京ドーム300個分に匹敵する1,359haのスペースでは、
麦や大豆などの畑作、牧場・牧草地、蓮根田などが営まれている。
そんな農地の一角---
「冬ソナの道」とも呼ばれるメタセコイアの並木路を初訪問した。





『270本のメタセコイアが、農道の両側に2メートル間隔で植えられています。
 冬になると、メタセコイアに降り積もる雪景色が、まるで冬のソナタを思わせます。
 1年中風が吹く並木道は、夏は日陰となり、涼しい風が通り抜けます。
 秋には、メタセコイアの紅葉が楽しめます。
 春になると、河北潟堤防沿いのサクラ並木が見事です。
 このさくらの街道は、内灘町から津幡町、かほく市までの街道9キロに渡って、
 1,550本のサクラが植えられています。
 干拓地のイメージアップを目的に、
 干拓完成の1985(昭和60)年にサクラとメタセコイアが植えられました。』
(※『  』内、「津幡町観光ガイド」より抜粋/引用 原文ママ)

韓国ドラマ『冬のソナタ』。
日本で2003年に放映され、韓流ドラマブームの火付け役になったこと、
主演俳優が大人気になったことは知っている。
だが、まったく観ておらず、正直、ピンとこない。
ま、それは個人的なハナシだ。



ともかく、雪や寒風をものともせずに空へ伸びる姿は実に逞しく美しい。
メタセコイアは落葉性の針葉樹
進化過程において割合古いタイプで“生きている化石”とも呼ばれる。
端正な樹形が印象的だ。
早春、葉が展開するより先に、雄花を多数咲かせるという。
次の訪問機会は、そのタイミングを狙うとしよう。
                  
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アリか?ナシか?

2022年02月20日 20時22分22秒 | 手すさびにて候。
                
今回は後掲イラストの説明から入ってみたい。

モチーフは旧ソ連時代の「禁酒ポスター」。
オリジナルも同じ構図。
スーツ姿の男性が、差し出されたウォッカを手で制するデザイン。
標語の「HET!(ニエット)」は「酒は結構です!」
アルコールを絶つ強い意志を表している。

ちなみに、ソ連市民は生活や寿命に影響を及ぼす程の酒好きだったとか。
見かねた政府が、何度か大規模な節酒キャンペーンを張るも、
ことごとく失敗に終わったそうだ。

そのポスターを基にした拙作は、
突き付けられたトカレフを牽制するウクライナ女性がメイン。
身に着けた民族衣装「ソロチカ」は、独立性を。
手にした鍔のない片刃のサーベル、
コサックの伝統武器「シャシュカ」は、抵抗を表してみた。

ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第百九十五弾「HET!~戦いはいらない!」



先月末(2022/01/30)「キエフの冬」と題した記事を投稿した。
(※タイトルからリンク有)
緊迫の度合いを高めるウクライナ情勢と、
半世紀前の政治運動「プラハの春」について書いてみたものだ。
--- それからちょうど3週間。
ウクライナを取り巻く空気はキナ臭さを弥増している。

ドイツ、フランス、日本も、在住自国民へ避難勧告。
アメリカ大統領は、ロシアの指導者は決断したと明言。
一方、ロシア側は、公式に越境進軍を否定。
やはりブラフなのか、それとも本気なのか。
X-DAYは「北京オリパラ」閉幕後が怪しい。
~等々、様々な憶測が飛び交っている。

個人的には、軍事侵攻は「ナシ」かなと思う。
これだけ注目を集める中で強行すれば、
物心両面で払う犠牲は余りにも大きい。
また、ロシアにエネルギーを依存するヨーロッパの国々も、
戦乱を歓迎してはいないはずだ。

危機を煽る欧米側の発言。
軍を退かないロシア側の挑発。
共に落としどころを作るための腹の探り合いに見える。

しかし、国際政治は百鬼夜行。

小規模衝突などを皮切りにした偶発的な「アリ」。
批判やリスクを顧みない「アリ」の可能性は打ち消せない。
どう転ぶかを見極めるのは難しいのだ。
もちろん当のウクライナは「ナシ」を望んで止まないだろう。
                    
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心のこり。

2022年02月19日 23時00分00秒 | りくすけ
                      
有体に言って、僕は「長生き」に対する関心が低い。
いつまでも若くいたいとか、できるだけ健康でい続けたい。
--- とは思えないのだ。
生き物はいつか死ぬ。
それは不可避である。
定まった運命と思う。
だが、早死にしたい訳でもない。
もしも今、冥界への渡し舟がやってきたとしても、僕は乗船を拒むだろう。
「心残り」があるからだ。



「りくすけ(犬)」の調子が良くなくて、
本日、かかりつけ医に診察してもらった。
まだ大事には至らないだろうと思うが、心配である。



人間に例えると還暦を超えたシニア犬だ。
僕にも、彼にも「その時」はやって来る。
それは、明日かもしれないし、もっと後かもしれない。
何はともあれ、彼より先に逝くわけにはいかないと考えている。
彼の世話をし、最期を看取るのは、僕の責任なのだ。


                     
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傑出した似て非なるキャラ。

2022年02月13日 19時00分00秒 | 手すさびにて候。
                       
キャラクター(character)を辞書で引くと以下の記述がある。

1. 性格。人格。その人の持ち味。
2. 小説・劇・映画などの登場人物。
3. 文字。記号。

1は今回の趣旨と外れるため割愛するが、
2と3を合わせたそれは、目にしない日がないと言っていいだろう。
アニメ、マンガ、映画、ゲーム、アバター ---。
あらゆる商品広告、観光・交通・流通、政府や自治体広報 --- 。
日本の日常には「キャラクター」が溢れている。
それらの多くは目にしても右から左。
忘れ去るケースが大半かもしれないが、心に留まる場合もある。
今回は僕の記憶に刻まれた「像」について投稿してみたい。

ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第百九十四弾は「2人のLUM」。



昭和40年生まれの僕が、初めて虜になったキャラクターは、
やはり「アグネス・ラム」かもしれない。

漢民族、イングランド、アイルランド、ポルトガル、ポリネシアなど、
複数の血を引くハワイ在住のチャイニーズアメリカン。
昭和50年(1975年)、初代「クラリオンガール」に選出されたのをキッカケに、
メディアに登場するようになる。
東洋的で愛くるしい面立ちと、9頭身のプロポーション。
小さなビキニだけを身に着け、ワイキキの潮風に吹かれながら笑顔で砂浜に佇む姿は、
当時小学生だった僕には、小麦色のビーナスに見えた。
勿論、実在の人物と分かっていたが、余りに異質な存在感の為、
リアリティに乏しい架空のキャラクターのようにも感じていた。

10年に満たない芸能活動ながら、エピソードは多い。
クラリオンのポスターは販売店の店頭に張り出すそばから盗難に遭い、
50枚のポスタープレゼント企画に、10万通を超える応募が殺到。
歌手デビューを飾り、ドキュメンタリー映画も公開された。
2度の来日では、各種CM、バラエティー番組出演のオファーが引っ切り無し。
サイン会には数千人、屋外プロモーションには数万人が詰めかけたという。

そんなアグネスブームのさ中「週刊少年サンデー」誌上に、
彼女をモデルにした同じ名前を持つキャラクターが現れた。
漫画『うる星やつら』のヒロイン「ラムちゃん」である。

地球侵略を目論んでやって来た、宇宙人の鬼娘。
八重歯(牙)と角がチャームポイントの美少女。
惜しげもなく露出した虎柄ビキニが定番の装い。
語尾に「~だっちゃ」または「~っちゃ」を付けるコケティッシュな話し方。
空中を自在に飛べて、10万ボルトの強力な電撃を放つ。

--- 実は、僕は『うる星やつら』の熱心な読者ではなく、あまり詳しくない。
しかし、同作が数々の栄誉に浴し、世界中にファンがいる事は知っている。
また、長きに亘りTVアニメが放映された事も、
複数の劇場版(※)が公開された事も知っている。
そして、そのヒットの原動力の一つが、
「ラムちゃん」というキャラクターの魅力である事も理解している。

今年、36年ぶりに再びTVアニメ化されるという。
スタートした暁には、観賞してみようかと考えている今日この頃だ。

(※1984年公開の劇場版第2作
  『うる星やつら2~ビューティフル・ドリーマー』は、別物。
  偶然リバイバル上映で鑑賞し感慨を覚え、何度も映画館に出かけた。
  監督「押井 守」氏の作家性が遺憾なく発揮された傑作と思っている)
                
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