湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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☆アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ第3番

2016年10月28日 | アイヴズ

◎フルカーソン(Vn)シャノン(P)(bridge)CD

アイヴズの一見無秩序な書法の中に通底する叙情性に対し細心を払い、構造の整理とともにこの上なく感傷的に描くこのコンビの全集はアイヴズのソナタ最高の演奏と言うべきレベルに達している。この曲はアイヴズにしては長大だが全般が賛美歌や俗謡にもとづく旋律により貫かれ、とくにフランクなどのフランス・ロマン派ソナタを(皮肉たっぷりに)意識したヴァイオリンが平易な印象をあたえ聞きやすくしている。だがアイヴズの意匠はピアノにより明確に暗示されている。あからさまな東洋音律(当時世俗に人気のあった)等の底には常に現代的な不協和音や無調的パセージがまるでバルトークのように硬派に怜悧な輝きを放っている。ピアノだけを聴けばそこにピアノソナタの残響を聞き取ることができるだろう。アイヴズは書法的にけして下手なわけではないが弦楽器による音楽にそれほど重きを置いていなかった節がある。それはストラヴィンスキー同様弦楽器がアナログなロマンチシズムを体言する楽器であったがために何か別の意図がない限り「本気で書く」気がしなかったということなのだと思う。げんに大規模作品の部品として弦楽器が使われる例は多々あるのに弦楽四重奏曲以外に弦楽器だけに焦点をあてた楽曲は余り多くは無い。その弦楽四重奏曲も2番は「本気の作品」であったがそれほど完成度が高いわけではない。ヴァイオリンソナタは特例的な作品群で、アイヴズが「まっとうな作曲家であったら」旋律と創意の魅力溢れる作品群になった筈なのに、結果として1番2番は実験の寄せ集め、3番は「ひ弱な妹」、4番は「無害な小品」そしてそれ以外は未完成か編曲作品なのである。つまりは「本気ではない」。だからこそアイヴズ自身がのめりこみ演奏し自身で確かめながら譜面に落とすことができたピアノのほうにより本質的なものが篭められていても不思議はない。ヴァイオリンはピアノの二段の五線の上に書かれている旋律線を抜き出したものにすぎないと言ってもいい曲である。2楽章だけは少し特別で、プロテスタントの陽気な賛美歌(日本では俗謡だが)をジャジーな書法を駆使して編曲した見事なアレグロ楽章となっており、個人的には全ソナタの中で一番成功したもの、「アメリカ様式のアレグロ」としては史上最高の作品と思う。2番でカントリーふうの書法を実験したときにはまだ未整理の様相をていしていたものの、完成度の高い結晶と思う。このコンビで聞けば、この作品の独創性以上に素直な魅力に魅了されるだろう。最後の田舎風ギャロップまで天才の発想が溢れている。譜面も自由度が高く録音によって多少の差異はある。そういったところも含め「まったくクラシカルではない」と言いはなつことは可能だが、いかにもヴァイオリン曲そのものの記譜ぶりでもあり、これはやはりソナタの中間楽章なのである。いろいろ書いたが、この曲は速筆で仕上げられたものであり、だから3楽章など長すぎる感もある。ロマンティックな旋律の臭気にウンザリさせるのが目的な側面もあるとはいえ、時間がなければ2楽章だけを聴いてもいい。◎。

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