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No1377『ミツバチのささやき』~見えない世界とつながる…~

姉妹が食卓で牛乳を入れた大きなカップを飲みながら、
カップ越しに、目と目で会話して、クスクス笑いあっている。
父親は、難しい顔をして、コーヒー椀を前に、
懐から、ごそごそと懐中時計を取り出す。
妹アナの表情が少し不安げになる。
父が、時計の蓋を開けると、音楽が鳴り出す。
妹アナの大きな瞳が、釘付けになる。
父親はアナを見つめる。
二人の視線と視線がぶつかるのを交互に映し出す。
このシーンのものすごいこと。
父は、目だけで言う「これを渡したのは、お前か?」
アナは、目だけで言う「どうして、それをお父さんが持ってるの?」
セリフがなくても、あふれるほどに思いが伝わる。

だから次の場面も予測できる。
アナは自分だけの秘密の場所に確かめに行く…。

サイレント映画のように、全くセリフがなく、
ここまでセリフがそぎ落とされていたことに、驚かされた。
父親が遺体を確認にいく場面もそう。
もう何度も観ている映画なのに。

ポンポンと次のシーンにつながれていて、
説明的なシーンはほとんどない。

初めて観たら、よくわからないと思うかもしれない。
でも、この省略の美。
それでいて、きちんと物語が伝わる。
この映画のすごさが、やっとわかった気がする。

現実と映画の区別がつかない、幼いアナが映画『フランケンシュタイン』を見る。
自分だけの秘密を持ち、大きな試練から回復して、
心の中に繊細な何かを抱いて、成長していく…。

子どもの頃、目にみえないもの、見えない世界と、もっとつながっていたと思う。
そんなことを思い出させてくれる映画。

姉妹がベッドの上でとんだりはねたり、
寝る前に指で人形の形をつくって、影絵で遊んだり、
焚火の上をとびこえたり、
猫の首をしめてみたり、
子どもの遊びのシーンがすばらしい。
死の影、光と闇、線路や平原の空間的な広がりを存分に感じさせ、
最後の「ソイ、アナ」の響きが、いつまでも美しく心の中に残る。

姉のイザベルが、トリックスターのような役割で、
よき導き手になっていて、いたずらっぽい表情がいい。
それでいて、いつもアナのことを心配して、そっと様子をみにいく。

大人もしっかり描かれている。
秘密だらけのお母さん。
最後に、机の上で本を読みながら寝てしまった夫に毛布をかけ、眼鏡をそっとはずす。
私はこのシーンがすごく好きだ。
妻の手だけをアップで映し、妻の顔も一瞬映すが、バックも手前も闇でおおわれている感じで、
映画は、二人を同じシーンではとらえない。本当に奥が深いです。

シネ・ヌーヴォでのデジタル上映。1973年の映画です。
デジタルということで、心配でしたが、スクリーンで見れる喜びには変えられませんし、
あたたかい色調の感じは、変わっていなかったと思います。

風邪で、一瞬、咳が出かけて、心臓が止まりそうでしたが、おさまって心底ほっとしました。
お父さんが窓越しに(六角形の格子の模様の入ったガラス)立って、外をみているのを
ゆっくりとアップで近づいていく長回しのシーンでした、ごめんなさい💦

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