オレンジな日々

広島在住のシンガーソングライター&ピアニスト
三輪真理(マリ)のブログです。
音楽大好きな日常を綴っています。

『スクラップブック』アンリ・カルティエ=ブレッソン

2010-02-02 | おすすめ本

人生の晩年になって人生を振り返る時に人生の10大ニュースを挙げるとしたら、何を代表的な事件と思うんだろう。そんなことをたまに考える。
人生のハイライトシーンと陽の目を浴びない下積みシーン。仕事やプライベートでの成功や失敗。叶った恋と叶わなかった恋・・etc.。
自分の人生の思い出は、自分が残したいと思うシーンだけを残せばいい。
だけどきっと全ての経験がその思い出のワンシーンを支えている。

「決定的瞬間」というセンセーショナルな言葉で一斉を風靡した20世紀最大の写真家のひとりアンリ・カルティエ=ブレッソン。
3年前大阪で開催されたこの人の写真展を観に行った時(2006年4月6日の日記)は、その圧倒的な写真の数々とそのぶれのない計算されたカメラワークと、文字通り決定的瞬間を捉えた幸運な作品の多さに言葉を失ったのを覚えています。

あれから3年。この『スクラップブック1932-1946 アンリ・カルティエ=ブレッソン写真帖』は最近、家族がこの写真集のことを知って手に入れてくれたもの。これにはアンリ自身が1947年にニューヨーク近代美術館で開催された展覧会のために自ら焼き付け準備した幻のプリントが収録されている。
それは「決定的瞬間」の前後に写真家は何を見ていたかを知る貴重なヴィンテージプリント。

私があの日圧倒された写真たちは、ただ写真家が偶然にその場に居合わせて決定的瞬間を捉えたというものではなく、じっくりと腰を据えてその瞬間を待ち、何度もの試行錯誤と失敗と計算されたトリミングの上に残された選び抜かれたプリントたちでした。

天才写真家と呼ばれる人は、たまたま幸運な星の下に生まれた特別な人ではなく、境遇はほとんど自分と同じでも、沢山の時間と試行錯誤と努力を重ねた人なんだということがあらためて理解できる。
その十分すぎるほどの努力があって初めて「天才」という評価を受ける作品が残せたということなんだろう。

音楽もそれは同じ。
知れば知るほど、天才と呼ばれる演奏家や圧倒的な歌声を誇るシンガーたちが、日々のたゆまない努力と試行錯誤の積み重ねでその才能を発揮できているのだとわかる。

「凡人と天才の差より天才どうしの差の方が大きい」

現状に満足せず、どこまでもどこまでも自分の感性と表現に磨きをかける。
そんな努力と試行錯誤をいくつも繰り返して初めて、最終的にどんな作品が残すかが決まるんだろう。
たくさんの経験と失敗の中から生み出した会心の一作。
そんな作品が1作品でも残せたら・・。
日々精進あるのみです。