仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

殺人狂時代

2017年05月29日 | ムービー
『殺人狂時代』(1967年/岡本喜八監督)を見た。
物語は、「ブルッケンマイヤー(ブルーノ・ルスケ)というドイツ人が、精神病院を経営している溝呂木省吾(天本英世)を訊ねてきた。彼は元ゲシュタポの秘密諜報部長をしていた男で、溝呂木との対面はかつてナチスで同志だった時以来20年ぶりだった。溝呂木は、入院患者に訓練を施し、"大日本人口調節審議会"の殺し屋として操っていたのだが、ブルッケンマイヤーが所属しているナチス秘密結社がその情報を入手し、仕事の依頼を検討しているというのだ。テストとして、電話帳から無作為に選出した3人の殺害を要求された溝呂木は義眼の女(富永美沙子)、松葉杖の男(久野征四郎)を使って2人を殺害。3人目の桔梗信治(仲代達矢)の所へは、間渕憲作(小川安三)を送り出していたのだが・・・」という内容。
溝呂木が組織している"大日本人口調節審議会"は、「よけいな奴はどんどん減らそう!」と、まるで無駄な人間がそこら中に溢れているかのようなスローガンを掲げ、殺人を繰り返す。
タバコの1本1本に「S.MIZOROGI」と名前を印字している溝呂木は、ブルッケンマイヤーに「相変わらず無駄遣いをする男だ」と指摘されても、「趣味でね。無駄遣いする時にこそ、金は光輝く」と言って意に介さない。
確かに、趣味というのは、他人の理解を得られるかどうかなんてことは目的ではないから、無駄遣いと指摘されたところで何とも思わないのだろう。
(^_^;)
突然殺し屋に命を狙われることになってしまった桔梗信治は、城南大学の講師として犯罪心理学を教えているのだが、最高速度が20km/hほどしか出ない自家用車に乗っていたり、一人暮らしの部屋に帰ると母親を模した胸像に話し掛けたり、脱いだ靴下の臭いを嗅いだりと、彼もまた風変わりな男だった。
(^_^)
週間ミステリー編集部の記者・鶴巻啓子(団令子)やクルマ泥棒の大友ビル(砂塚秀夫)らと知り合い、仲間となって殺し屋組織を相手にしたり、不吉な伝説を持つという時価300万ドルの"クレオパトラの涙"という宝石が登場したり、(泥棒ではないものの)雰囲気も何だか『ルパン三世』(1967年~1969年/モンキー・パンチ著)の世界観に近いものを感じたのだが、この作品には『飢えた遺産』(1962年/都筑道夫著)という原作が存在するらしい。
当時はこういった作風に人気が集まっていたのだろうか。
「人生最大の快楽は殺人。人間が生存競争をするのは宿命である。それが敵意を生み、憎悪 を育てる」と言い、「人間の歴史で偉大な功績を残したのはキチガイだ」とも言い切る溝呂木のことを、桔梗は"確信型犯罪者"だと判断していたが、物語的にはとても存在感のある登場人物で、彼が登場する物語はまだ作れそうな感じでもあった。

ダイナマイトどんどん

2017年02月12日 | ムービー
『ダイナマイトどんどん』(1978年/岡本喜八監督)を見た。
物語は、「昭和25年の夏。小倉警察署管内ではやくざ組織の抗争が収まらず、物資の横流しもあったことから進駐軍北九州方面米軍司令官(ジャック・デービス)も無関心ではいられないほどだった。対立の中心は任侠一筋の岡源組親分・岡谷源蔵(嵐寛寿郎)とその縄張りを狙う新興やくざの橋傳組親分・橋本伝次郎(金子信雄)。北九州の親分衆を集めて顔合わせをさせた警察署長・岩崎(藤岡琢也)は、いざこざの民主的な解決を求め、やくざの親善野球大会開催を決めたのだった。親分からの召集で"岡源組ダイナマイツ"の結成を知らされた組員達。遠賀川の加助(菅原文太)は、"ばかたれ。わしは渡世人じゃ。棒振り競技に命は張りきらんわい"とまったく興味を示さなかったのだが・・・」という内容。
トーナメント大会開催にあたってのお披露目を街頭で行ったり、ポスターをやたらと張りまくってたり、"筑豊侠友会"というやくざの親睦会のわりには大掛かりなイベントで、ポスターを詳しく見てみると、開催は"豊楽園球場"、参加は"12球団"とも書かれているのが笑える。
ただ、ニコニコと笑顔でチラシを配布している組員ではあるが、いざチラシを受け取らない市民がいると殴りつける。
まぁやくざというのはニコニコ近づいてきたとしても、実態はそんなものなのだろう。
大会は市長が始球式を行い、優勝旗も市長から渡されるというが、リアル社会なら大問題だ。
(^。^)
その"豊楽園球場"というグラウンドは、スコアボードが設置されてはいるものの、内部では橋傳組による野球賭博が行われていて、これには警察署長も賭けているのだから困ったものだ。
また、グラウンドには芝生などというものはなくて土埃が凄い。
時には土埃のせいで画面にそれ以外何も映っていないこともあったほどで、それはゲームの激しさを表現するための演出の一つなのだろうと途中までは思っていたのであるが、映画の終盤になると、打って変わって土埃は一切たたなくなっていた。
どうやらグラウンドに水が撒かれたようなのだが、あまりの土埃の酷さに「役者が映らないんじゃどうしようもないよな・・・」と気が付いたということなのだろうか。
(^_^;)
戦争で負傷して野球ができなくなってしまった元職業野球選手・五味徳右衛門(フランキー堺)、酒にさえ溺れなければ稲尾や白木と投げ合っていただろうという芦刈の作蔵(田中邦衛)といった戦争のせいで人生を狂わされてしまった男達や、利き腕の人差し指を無くしてしまった橘銀次(北大路欣也)をひたすら待ち続けたお仙(宮下順子)等、少し悲しい登場人物が終戦直後の荒々しい社会で生きていく姿を幾分コミカルに描いてもいたナカナカに面白い作品だった。

肉弾

2016年08月06日 | ムービー
『肉弾』(1968年/岡本喜八監督)を見た。
物語は、「昭和20年8月。魚雷に括られたドラム缶に入り、太平洋上にうかぶ"あいつ"(寺田農)。"あいつ"は陸軍に入隊し、区隊長(田中邦衛)の理不尽なしごきにあいながら帝国予備士官学校で日々訓練に明け暮れた。しかし、戦局の悪化により同学校は解散し、本土決戦の対戦車特攻隊員となる。入隊以来初めての24時間外出を認められた"あいつ"は、女郎街へと向かう。途中で見つけた"尚文堂"という地面に出入口がある古本屋で、空襲(豊橋空襲?)により両腕を無くしたおじいさん(笠智衆)の小便の世話をする等して久しぶりに腹の底から笑い、憲兵(中谷一郎)に道を尋ね、ようやく金町新地に辿り着く。因数分解を解いてあげた少女(大谷直子)が仕切る女郎屋・第二あけぼの楼でひと時を過ごした"あいつ"は、再び雨の中を帰路につくが・・・」という内容。
途中で知り合ったおじいさんと憲兵にはすぐに童貞だと分かってしまい、おじいさんには「期待と不安が土俵上で四つに組んだような顔をしている」(確かそんな台詞)と称される。
おじいさんの台詞にもあったが、「そんなものだったかねぇ」という感じだ。
(^_^)
"あいつ"が行く先々で知り合う人達との会話が何とも言えず面白い。
「兵隊さんよ。いい気持だ。死んじゃ駄目だよ。死んじゃこんないい気持になれっこない」と小便をしながら言う笠智衆の独特で飄々とした感じの台詞まわしは特徴的だし、"第二あけぼの楼"と大きな文字で書かれた番傘をさして走っている時にぶつかった一人の軍曹(小沢昭一)との
「特攻なら神様だろう。神様なら神様らしく傘なんかさすな」
「神様は明日からです。今日は人間です。だから人間らしく雨の中では傘をさしたかった。それだけです。ほんのそれだけのことが許せませんか?」
といった会話も印象的だった。
"あいつ"は、一度、人間から牛になっていた。
空腹の際には一度飲みくだしたものを胃から口の中に戻し再び噛む、"はんすう"をせよと教えられていたのだが、空腹をこらえきれず食料保管倉庫に忍び込んだ"あいつ"は、罰として別命あるまで全裸で訓練を受けろと区隊長に言われ、今度は豚になった。
その"別命"というのが"本土決戦の対戦車特攻隊員"であり、"あいつ"は人間に戻るのではなく、神になってしまった。
「腹が減っては戦はできません」
「困苦欠乏に耐えるの精神あればできる」
というやり取りもあったが、軍隊が統制していた時代というのは、日本人の精神がとても歪んでしまった時代だったようだ。
この作品を見て改めてそう思った。

仁左衛門賞 / 2013年

2013年12月25日 | 映画サークル
2013(平成25)年のましけ映画サークル例会は、
【1月/守○企画】『みえない雲(原題Die Wolke)』(2006年/グレゴール・シュニッツラー監督/ドイツ)
【2月/忠○企画】『大アマゾンの半魚人(原題Creature from the Black Lagoon)』(1954年/ジャック・アーノルド監督/アメリカ)
【3月/小○企画】『アンノウン(原題Unknown)』(2006年/サイモン・ブランド監督/アメリカ)
【4月/中止】
【5月/中止】
【6月/中止】
【7月/小○企画】『崖っぷちの男(原題Man on a Ledge)』(2012年/アスガー・レス監督/アメリカ)
【8月/仁左衛門企画】『ロボジー』(2012年/矢口史靖監督)
【9月/守○企画】『デンジャラス・ラン(原題Safe House)』(2012年/ダニエル・エスピノーサ監督/アメリカ・南アフリカ共和国)
【10月/忠○企画】『ロンドンゾンビ紀行(原題Cockneys vs Zombies)』(2012年/マティアス・ハーネー監督/イギリス)
【11月/小○企画】『宇宙人王さんとの遭遇(原題L'ARRIVO DI WANG/THE ARRIVAL OF WANG)』(2011年/アントニオ・マネッティ、マルコ・マネッティ監督/イタリア)
【12月/仁左衛門企画】『ジャズ大名』(1986年/岡本喜八監督)
と、以上の9作品を楽しんだ。
これらの中から恒例の"仁左衛門賞"を選考しようというわけだが、まず候補作品としてノミネートされるのは、『アンノウン(原題Unknown)』、『崖っぷちの男(原題Man on a Ledge)』、『ロボジー』、『ロンドンゾンビ紀行(原題Cockneys vs Zombies)』、『宇宙人王さんとの遭遇(原題L'ARRIVO DI WANG/THE ARRIVAL OF WANG)』の5作品といったところか。
そして、その候補作の中から栄えある【ましけ映画サークル・仁左衛門賞/2013年】に選ばれたのは、【10月/忠○企画】『ロンドンゾンビ紀行(原題Cockneys vs Zombies)』(2012年/マティアス・ハーネー監督/イギリス)。
おめでとう!!マティアス・ハーネー監督!!今年はあなたに"灰色のモアイ像"を進呈しよう!!
老人とゾンビが繰り広げるデッドヒートの場面は最高だった。
観衆はハラハラしたり笑ったり、これ以上ないほどの葛藤を体験することができたのではないだろうか。
これからも小説を忠実になぞるだけではない楽しいイギリス映画を世界に提供していただきたい。
ちなみに、これまでの仁左衛門賞受賞作は、
【2005年】『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年/ローランド・エメリッヒ監督/アメリカ)=守○企画
【2006年】『ショーシャンクの空に』(1994年/フランク・ダラボン監督/アメリカ)=守○企画
【2007年】『トム・ヤム・クン!』(2005年/プラッチャヤ・ピンゲーオ監督/タイ)=小○企画
【2008年】『地獄のモーテル』(1980年/ケヴィン・コナー監督/アメリカ)=忠○企画
【2009年】『アイアンマン』(2008年/ジョン・ファヴロー監督/アメリカ)=長○見企画
【2010年】『画家と庭師とカンパーニュ(原題Dialogue avec mon jardinier)』(2007年/ジャン・ベッケル監督/フランス)=小○企画
【2011年】『クモ男の復讐(原題『EARTH VS. THE SPIDER)』(2001年/スコット・ジール監督/アメリカ)=忠○企画
【2012年】『リミット(原題Buried)』(2010年/ロドリゴ・コルテス監督/スペイン)=忠○企画
というよな映画だったのだが、忠○企画は今年で3年連続の受賞となった。
仁左衛門も来年こそは"仁左衛門賞"を受賞できるような楽しいエンターテインメント作品を"ましけ映画サークル"例会で企画したいものである。
(^_^)

ジャズ大名

2013年12月20日 | 映画サークル
ましけ映画サークル12月例会は、仁左衛門企画の『ジャズ大名』(1986年/岡本喜八監督)だった。
物語は、「南北戦争(1861年~1865年)が終わったアメリカ合衆国。奴隷の身分から開放され自由を得たジョー(ロナルド・ネルソン)だったが、どこにも行くあてはなかった。川で弟サム(レニー・マーシュ)、従兄ルイ(ファーレズ・ウィッテッド)、叔父ボブ(ジョージ・スミス)の3人に出会い、新しい音楽を演奏しながら歩いている途中、アフリカまで乗船させてくれるというメキシコ商人アマンド(ミッキー・カーチス)にだまされてしまう。西へ西へと向かう船中でボブが死んでしまい、このままでは駄目だと決死の脱出を企てた3人だったが、嵐でボートは駿河の海岸に流れ着く。音楽好きな庵原藩主・海郷亮勝(古谷一行)は3人を医師・玄斉(殿山泰司)に手当てさせ、英語を話せる鈴川門之助(本田博太郎)を付き添わせるが、家老の石出九郎左衛門(財津一郎)は3人と亮勝を引き合わせない。地下の座敷牢から聞こえてくる音色が気になって仕方がない亮勝だったが・・・」という内容。
黒人俳優達4人の台詞はすべて英語だったが日本語字幕は無く、訛りのある日本語で台詞が被せられていたのは面白かった。
そして、最初の舞台はどうやらアメリカ南部に設定してあるらしかったのだが、映し出される画面には雪が積もっていたりして、暖かさは全然感じられなかった。
あの撮影はどう見ても冬の日本国内だ。
(^_^;)
描かれている時代は幕末だが、薩摩藩士によって殺された幕府の密偵の死骸を、わざわざ線を引いて分かりやすくした上で隣の藩との境界側に押し込み、無関係を決め込む庵原藩士の姿が面白い。
『踊る大捜査線THE MOVIE』(1998年/本広克行監督)ではもっと誇張した場面もあったが、いつの時代でも役人を面白おかしく描くとそのようになるのかもしれない。
(^。^)
例会終了後は恒例の忘年会。
日付が変わる少し前まで楽しんだのだった。