仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

肉弾

2016年08月06日 | ムービー
『肉弾』(1968年/岡本喜八監督)を見た。
物語は、「昭和20年8月。魚雷に括られたドラム缶に入り、太平洋上にうかぶ"あいつ"(寺田農)。"あいつ"は陸軍に入隊し、区隊長(田中邦衛)の理不尽なしごきにあいながら帝国予備士官学校で日々訓練に明け暮れた。しかし、戦局の悪化により同学校は解散し、本土決戦の対戦車特攻隊員となる。入隊以来初めての24時間外出を認められた"あいつ"は、女郎街へと向かう。途中で見つけた"尚文堂"という地面に出入口がある古本屋で、空襲(豊橋空襲?)により両腕を無くしたおじいさん(笠智衆)の小便の世話をする等して久しぶりに腹の底から笑い、憲兵(中谷一郎)に道を尋ね、ようやく金町新地に辿り着く。因数分解を解いてあげた少女(大谷直子)が仕切る女郎屋・第二あけぼの楼でひと時を過ごした"あいつ"は、再び雨の中を帰路につくが・・・」という内容。
途中で知り合ったおじいさんと憲兵にはすぐに童貞だと分かってしまい、おじいさんには「期待と不安が土俵上で四つに組んだような顔をしている」(確かそんな台詞)と称される。
おじいさんの台詞にもあったが、「そんなものだったかねぇ」という感じだ。
(^_^)
"あいつ"が行く先々で知り合う人達との会話が何とも言えず面白い。
「兵隊さんよ。いい気持だ。死んじゃ駄目だよ。死んじゃこんないい気持になれっこない」と小便をしながら言う笠智衆の独特で飄々とした感じの台詞まわしは特徴的だし、"第二あけぼの楼"と大きな文字で書かれた番傘をさして走っている時にぶつかった一人の軍曹(小沢昭一)との
「特攻なら神様だろう。神様なら神様らしく傘なんかさすな」
「神様は明日からです。今日は人間です。だから人間らしく雨の中では傘をさしたかった。それだけです。ほんのそれだけのことが許せませんか?」
といった会話も印象的だった。
"あいつ"は、一度、人間から牛になっていた。
空腹の際には一度飲みくだしたものを胃から口の中に戻し再び噛む、"はんすう"をせよと教えられていたのだが、空腹をこらえきれず食料保管倉庫に忍び込んだ"あいつ"は、罰として別命あるまで全裸で訓練を受けろと区隊長に言われ、今度は豚になった。
その"別命"というのが"本土決戦の対戦車特攻隊員"であり、"あいつ"は人間に戻るのではなく、神になってしまった。
「腹が減っては戦はできません」
「困苦欠乏に耐えるの精神あればできる」
というやり取りもあったが、軍隊が統制していた時代というのは、日本人の精神がとても歪んでしまった時代だったようだ。
この作品を見て改めてそう思った。