仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

岸辺の旅

2018年05月20日 | ムービー
『岸辺の旅』(2015年/黒沢清監督)を見た。
物語は、「ある夜。失踪した薮内優介(浅野忠信)が3年ぶりに、突然部屋の中に現れた。靴を履いている。自分はすでに死んでいると言う優介。翌朝、妻の瑞希(深津絵里)は、"変な夢・・・"と目を覚ますが、優介は再び現れた。そして、思い出の地を巡る旅に出ようと瑞季を誘う。初めに訪ねたのは、島影(小松政夫)が経営する新聞販売店。優介は過去にここで働いたことがあり・・・」という内容。
優介が最初に現れたのは暗闇の中だったので、不気味に展開する物語なのかと思ったのだが、その後は昼夜関係なしに出ずっぱり。
瑞季にしか見えないということもなく、優介自ら駅員に話しかけたり、生きている人間と変わりなく描かれていたが、一人の男の子だけは何かに気がついたようだった。
じっと見つめている。
(^_^;)
ただ、不思議なことは不思議なまま、どこかに線引きをすることもなく曖昧に物語は進行する。
いつ優介が消えてしまうのかと不安な瑞季と同じように、観客もまた不安を覚えるような演出が素晴らしいと思った。
(^_^)
生前の優介が心を通わせていたらしい彼の同僚・松崎朋子(蒼井優)が登場したエピソードは生きている人間の生々しさが強烈に表現されていた場面だった。
生きることに刺激を求めようとする、その貪欲さが強く描かれていたような気がする。
何とも不気味に見える松崎朋子の笑顔だった。
稲荷神社の祈願書や、死者の世界に通じる洞窟というのは出てきたが、特に何らかの宗教に基づいた死生観を表現していることもないので、清々しさはないものの嫌な感じも受けない。
ハッピーエンドではなく、ここから始めようという物語だった。

喜劇 負けてたまるか !

2017年06月05日 | ムービー
『喜劇 負けてたまるか!』(1970年/坪島孝監督)を見た。
物語は、「大学を中退した寺川友三(谷啓)は、ふとしたことから知り合った黒井組の親分・黒井仙吉(高品格)の紹介で、詩人芸術協会を主催する流行作詞家・奥田斗志夫(人見明)を訪ねたが、事務員・良子(浜美枝)を襲おうとしていた男を本人とは知らずに罵ったため、弟子入りはできたものの、"水虫"という有り難くないあだ名を付けられてしまう。危ない所を助けられた良子は、友三を誘い一緒にお酒を飲み、酩酊した友三と一夜を共にするのだが、良子には銀之助(平田昭彦)という夫がいるのだった。また、友三には左右田美智子(柏木由紀子)という一方的に憧れている女性もいたが、銀之助と別れたい良子は、泣き落し戦術で友三を口説き、強引に妻の座に収まってしまう。友三は奥田からクビを告げられてしまうのだが、思い切ってラジオCMの制作会社"放送企画研究所"を起業し・・・」という内容。
詩人芸術協会には若いスタッフが何人かいるのだが、奥田が彼らを「君は天才だな。素晴らしい!!」などと言っておだてて、良いアイディアを出させているのだそうで、「みんないい気になって、アイディアを吸い上げられてるのよ」と良子は冷静に分析する。
(^_^;)
良子は随分としたたかな女性に描かれていて、「あたし、家を出てきちゃったの」とあっけらかんと言い、友三が滞納していた部屋代を全額払ってしまったので、そうなると、いくら友三が「駄目だ。出て行け!!」と言ったところで、「出ていくとすればあなたのほうですよ」と、大家はもうすっかり良子の味方だ。
(^_^)
その良子と夫婦だった銀之助もやはりただ者ではなかった。
作曲担当の越井(小松政夫)ら、社員を味方につけ、友三の会社を乗っ取てしまうのだ。
それでも、「人間、悔しい目にあった時が別れ道だ。駄目になるか、偉くなるか。ラジオが駄目ならテレビがあるさ!!これからはテレビの時代だよ」と、友三はめげないのだが、その台詞にあるように、やはりすでに映画の時代ではなかったようだ。
(^。^)

喜劇・泥棒大家族 天下を盗る

2017年05月11日 | ムービー
『喜劇・泥棒大家族 天下を盗る』(1972年/坪島孝監督)を見た。
物語は、「昭和47(1972)年、閉山した筑豊炭田。賑やかだった炭住長屋は、すっかり過疎の村になっていたのだが、その中に、カラーテレビや電子レンジ、ルームエアコンなどの電化製品を買い揃えている長屋があった。実はこの村は、密かに泥棒村と呼ばれていた。村民二百余人はすべて血縁で結ばれ、その前科は締めて309犯。年に2億円の荒稼ぎを誇る日本一の大万引き集団なのだったが・・・」という内容。
なんとこれは実話を基にした物語で、原作は『東京新聞』に連載されていた「こちら特報部~泥棒村潜入記」(加藤延之記者)という記事なのだそうである。
長屋に住んでいる人達は皆、生活保護を受けているのだそうだが、小学4年生の谷川ノボル(石井聖孝)君の作文で、「ぼくの村は福岡からバスで2時間。昔は黒ダイヤで賑わいました。みんな古い炭住長屋に住んでいますが、冷蔵庫、カラーテレビ、ルームクーラーなどがあるので、家庭訪問の先生は驚きます」などと紹介されているのが笑える。
しかし、民生委員の桜田(桜井センリ)と新しく赴任してきた藤山巡査(米倉斉加年)が家を訪ねようとすると、スイッチ一つで歌舞伎舞台のどんでん返しのように、豪華な室内が貧乏くさい様子にあっという間に変わってしまう。
こういった仕組みが実際にあったかどうかは分からないが、テレビアニメ『ルパン三世』の第20話「ニセルパンを捕えろ!」(1972年3月5日)に似たような演出があったことを覚えていたので、これは当時(1972年)大きな話題になっていた出来事だったのかもしれないと思った。
猪狩時之助(前科20犯/植木等)を親分とする"万引集団・勝ケ瀬グループ"は、長女の猪狩冬子(前科7犯/山東昭子)と夫・門次郎(前科6犯/谷啓)、次女の横川春子(前科8犯/太地喜和子)と夫・長一(犬塚弘)、そして妹アケミ(八並映子)に時之助の世話をさせることでNo,2の座を得た流れ者の馬上千吉(前科13犯/藤田まこと)らが幹部として、東京、大阪、仙台、新潟、福岡と渡り歩く"航海"(デパートを巡る万引き旅行)を仕切っていたのだが、谷川昇作(前科8犯/なべおさみ)、大岡明男(阿藤海)、小西恒夫(小松政夫)ら猪狩と縁戚関係にない若者たちは自分たちの待遇に不満を持っており、三吉(小沢直平)とヨシ子(本田みちこ)の2人は東京の滞在費を盗んで逃げ出すし、その後「いつまでも下積みなんかやってられんぞ」とクーデターも勃発する始末。
成功するか失敗するかは別として、いつの世も、どんな世界でも、溜まった不平不満は暴動として爆発するものなのだろう。
(^_^)
新入り・草田進(岸部シロー)の教育係になった三女・大鹿夏子(江夏夕子)には、まだ前科がついていなかったものの、まぁこれも時間の問題のようだった。
(^_^;)
ただ、四女・秋子(紀比呂子)だけは村を離れてスチュワーデスをしていて、婚約したデパート社員・白川譲二(峰岸徹)を連れて帰省した際には、彼らの悪徳弁護士・大門米太郎(藤村有弘)のおかげで泥棒村の秘密がばれそうになる。
また、東京の旅館では「本日の成果、896万円!!」などと大騒ぎをしている時、女中さん(塩沢とき)に「まぁ、呉服屋の仕入れって大変ですのね」となどと言われたように、ばれないよう秘密を隠し続けるのも大変なようだった。
何にしても実話を基にしているというのが凄い。

トワイライト ささらさや

2016年11月18日 | ムービー
『トワイライト ささらさや』(2014年/深川栄洋監督)を見た。
物語は、「売れない落語家ユウタロウ(大泉洋)は真打昇進の夢も果たせないまま、交通事故で死んでしまった。残されたのは妻のサヤ(新垣結衣)と生後4か月のユウスケ。天涯孤独であるサヤの身の上が心配で成仏できないユウタロウは自分の身体が燃やされてしまう火葬場にやってくる。そこに現れた父(石橋凌)の姿を見たユウタロウは、自分の師匠(小松政夫)の身体に乗り移り、"あの男から逃げろ、身を隠せ"と言う。赤ん坊を引き取るという父からユウスケを守り抜こうと決心したサヤは、かつて伯母が住んでいた佐々良という街へ引っ越すのだったが・・・」という内容。
初めて会ったユウタロウの父という人物がどういう人なのか、自分と赤ん坊のことをどう考えてくれているのかきちんと話し合うこともなく、火葬場から逃げ出してしまうサヤ。
所詮は荒唐無稽な物語なのだろうから、詳細までしっかり物語を組み立てる必要もないのだろうが、最初のほうだけでもきちんとしておきさえすれば、それなりにまっとうな展開っぽく見えるはずなのになぁと、少し残念に感じた。
佐々良という町の全景がミニチュアのセットで表現されていたこともあって、何だか子供だましのような、内容についても観客の共感を期待していないような作品に思えてしまった。
大泉洋の出演作にはハズレがないと思っていただけに、この作品には少々ガッカリだ。
ミニチュアのセットで街の全景を表現していたことにはどういう意味があったのだろうか。

起きて転んでまた起きて

2016年10月31日 | ムービー
『起きて転んでまた起きて』(1971年/前田陽一監督)を見た。
物語は、「辺山修(なべおさみ)、桜井正明(堺正章)、清水マリ子(安倍律子)の3人は幼馴染。今も同じ大学に通い、ボーリング部に所属している。正明の家の商売(かつら店)が不振なのに対して、修の父はアメリカンクラッカーの販売が大成功して羽振りが良かった。ところが、友達を誘って芸者遊びをしている時に修の父が急死した。しかも、マリ子の父・清水金太(若宮大祐)への2000万円の借金のため家屋を明け渡し、母・はる(野村昭子)は昔していた着付け髪結いの仕事を再開し、修はタクシー運転手となり、残った1,000万円の借金返済のために・・・」という内容。
「くよくよしないでさ、思いっきり笑って初めからやり直そうよ」と言う母親は、修よりも潔いが、笑い声がいつしか泣き声に変わってしまうのが少しばかり切ないのだった。
また、毎日借金取りにやって来る専務の大松(小松政夫)の態度に腹を立て、「落ちぶれたって乞食じゃないぞ!!」と小銭を玄関に投げつける修に、「ならぬ堪忍、するが堪忍って言うんだよ。返すまでの辛抱だから」と、やはり母親が修に言って聞かせる。
そして、2人で小銭を拾う姿は、やはりどうにも切なく思えてくる描写だ。
そのうち、正明の家はかつらの輸出が軌道に乗り、"セフテイ美容センター"として大成功。
2人の立場がすっかり逆転してしまったのだが、修もマリ子に思いを寄せていることを知っている正明は、修が借金の返済を完了するまでマリ子への告白を封印すると約束する。
だが、これは修と正明の2人の世界が狭すぎた。
伊賀山骨董店の若旦那(和田浩治)が登場してくるのだ。
(^。^)
修はなかなか良い人間関係を持っているようで、芸者の〆香(大原麗子)や正明、若旦那などから助けられるのだが、マリ子だけはすっかりお嬢様をしているので、友人達の苦境を知ってか知らずか、一人、別世界にいるように幸せを享受しているのが面白かった。
まぁ人生いろいろだ。
(^_^)

喜劇 昨日の敵は今日も敵

2016年09月27日 | ムービー
『喜劇 昨日の敵は今日も敵』(1971年/前田陽一監督)を見た。
物語は、「城南大学の応援団長・鍋山修(なべおさみ)は、軟弱な軽音楽部ハッスルズのヤスオ(田辺靖雄)らを毛嫌いしていたが、新入団員にと思った逆田正章(堺正章)がハッスルズに入ってしまい、ますます腹を立てていた。しばらく経って、丸田(小松政夫)、ひげ(朝倉宏二)ら応援団員全員は練習を兼ねたボーイのアルバイトのために箱根のホテルに出掛けたが、バンド演奏のアルバイトに来たハッスルズの面々と鉢合わせをして一悶着。さらに、湖畔でさゆり(范文雀)率いる西北大学空手部の女性達と揉めて長田巡査(いかりや長介)に取り調べされたり、鍋山にはさっぱり良いことがなかったのだが、大学のOBだという客の五十嵐伸介(平田昭彦)、佐藤栄(大泉滉)、池田隼夫と意気投合する。一方、逆田は彼らの連れのひとみ(紀比呂子)に夢中になってしまい・・・」という内容。
素性も分からないのに、五十嵐という男の(たぶん)見た目だけで大宴会の予約を受けてしまうホテルの藤山支配人(藤村有弘)。
翌日になって警察に相談したところで後の祭りだろう。
おそらく莫大な額になる宴会料金の回収などはできやしないはずだ。
「ここに泊まっているすべての人を招待する」だなんて、何かおかしいと思わないのかね。
(^_^;)
そして、大学の先輩だというだけですっかり五十嵐を信用してしまう鍋山。
"自称同窓生"というだけなのにマッタク困ったものなのだが、これは五十嵐という男を演じているのが、平田昭彦という俳優であることがミソだ。
きっと観客も、見ていて何故かうさん臭さを感じないことだろう。
俳優のイメージというのはそれだけで、作品の演出に(良くも悪くも)影響を与えるものなのだなぁと思った。
(^_^)