二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

江川卓「謎とき『罪と罰』」

2008年01月26日 | ドストエフスキー
 読みはじめてからずいぶんと時間がたってしまったが、ようやく読み終えることができた。読みはじめで抱いた感想と、読み終わってからの感想がこれほど違う本は、わたしにはちょっとめずらしい。  一般的に文学者には、こういう仕事はできない、翻訳者、あるいは言語学者、歴史風俗研究者の手になる本でではないかと、と思われた。 「罪と罰」という一作品について、比較すべき類書のない仕事を残したことじたい、日本のような . . . 本文を読む
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加賀乙彦「小説家が読むドストエフスキー」

2008年01月25日 | ドストエフスキー
 まあ、どうでもいいことではあるが、加賀乙彦さんを最初に読んだのは1970年代はじめ。そこで、いま調べてみたら、芸術選奨新人賞を受賞した「フランドルの冬」の刊行が1968年とあるから、その後数年して読んだのであろう。サルトル、カミュにつながる実存主義的世界というふれこみであったと思う。たいへんおもしろくて、しばらくたってから、もう一度読み返している。  あのころも現在と同様、わけもわからず手当たり . . . 本文を読む
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ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(1)

2008年01月20日 | ドストエフスキー
■「物語」の中の人間■  もうしばらく前から、何冊かの本と並行して「カラマーゾフの兄弟」を読んでいる。読みながら考えこんでしまうため、なかなかすすまない。エンターテインメントを読むのとは、どうも勝手が違う。わたしにとっては、近来にない「スローリーディング」となっている。  もっとも、こういった本を読むとき、大半の人がそういった感想を持つだろう。19世紀半ばのロシア社会に対する予備知識だとか、キ . . . 本文を読む
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永井荷風「墨東綺譚」

2008年01月17日 | 小説(国内)
 永井荷風(1879~1957年)の最高傑作。「日和下駄」「断腸亭日乗」なども愛読するようになったが、それもこの一作にめぐりあったためである。はじめて手にしたのは二十代の終わりころ。しかし、書かれた内容に深く共感を覚えるようになったのは、四十代なかばになってから。  長編小説といいたいところだが、「作後贅言」をふくめても、文庫でたった180ページである。奇妙な一編の小説が日本や自分自身への絶望のう . . . 本文を読む
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中野孝次「ハラスのいた日々」

2008年01月17日 | エッセイ(国内)
 カフカ、ノサックなどドイツ現代文学の翻訳紹介者であるとともに、文芸批評家として活躍した中野孝次さんが、じつはこんなに平凡な人だったとはな~・・・。論争も辞さない鋭利な論客とのイメージがあったからである。雑誌「文学界」誌上で行われた座談会の席上、評論家の柄谷行人さんに罵声を浴びせ、怒鳴りあいになったと何かで読んで知っていた。  こういった個人的な手記とでもいうべきエッセイを5つ星で評価するのは空 . . . 本文を読む
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中村真一郎「この百年の小説」

2008年01月15日 | エッセイ(国内)
 中村真一郎(1918~1997年)の著書を読むのははじめてであったから、netでその略歴を調べてみた。  東大仏文科出身。戦時中、定型押韻詩を旗印に、福永武彦、加藤周一らと「マチネ・ポエティック」を形成したが、当時の詩壇からは白眼視された。このころ堀辰雄の知遇をえて、プルーストら西洋文学を日本に紹介するとともに、知識人の問題を追求する小説を書いた。フランス文学とわが国の王朝文学に造詣が深く、その . . . 本文を読む
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「私の死亡記事」

2008年01月13日 | エッセイ(国内)
 書棚を眺めていたらふと眼にとまり、読み出したらやめられず、イッキ読みした。  本書奥付を見ると「2004年12月」とあるから、約3年前の刊行。単行本の刊行は2000年とある。この文庫、半年ほどまえに古本屋で買ったまま忘れていたのであった(^^;)  読むのは購入した本の20%程度だから、買ったまま忘れるのは、わたしの場合めずらしくもない。数時間で読みあきて、ほかの本に手を出したりもするから、年中 . . . 本文を読む
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「聖書の世界」

2008年01月13日 | 写真集、画集など
 聖書に関心が出てきたのでBOOK OFFで買ってきた。<グラフィティ・歴史謎辞典④>とあり、ほかに「古代エジプト文明の謎」「古代エーゲ・ギリシアの謎」「古代ローマ帝国の謎」といったシリーズのなかの一冊。写真や図版が約半分。刊行は昭和62年である。聖書研究の最新成果を期待してもムダ。  とおりいっぺんの型ものガイドといってしまえばそれまでだが、旧約聖書、新約聖書についてやさしく解説してある。わたし . . . 本文を読む
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徳富蘆花「自然と人生」

2008年01月13日 | エッセイ(国内)
 わたしの好きな作品に「武蔵野」がある。いわずと知れた国木田独歩の小説である。いや、小説というより、エッセイ、あるいは昔風に随想といったほうがぴったりくるか。二葉亭四迷が訳したツルゲーネフの「あひびき」「めぐりあひ」に触発されて書いた散策記である。「風車小屋だより」にも書いたが、こういった小品集のごとき、短時間でさっと読めるものが好きなので、数年に一回読み返している。  徳富蘆花(1868~192 . . . 本文を読む
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小泉八雲「虫の音楽家」

2008年01月09日 | エッセイ(国内)
 ラフカディオ・ハーン、日本名小泉八雲とは、じつに個性的な不思議な文学者である。いちばん読まれているのは「耳なし芳一」「雪女」「むじな」等に代表される怪談・奇談であろう。 水木しげるさんの劇画や宮崎アニメの世界では、妖怪たちは現代風にアレンジされて復活し、縦横に活躍をする人気キャラクターに育っている。  ギリシア生まれ。父はプロテスタントアングロ・アイリッシュ、母は富裕なギリシア人の娘であった。 . . . 本文を読む
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