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中間質量ブラックホールの証拠? 天の川銀河中心の超大質量ブラックホール付近で“おたまじゃくし”の形をした分子雲を発見

2023年03月09日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”付近に、独立した“おたまじゃくし”の形をした分子雲が見つかりました。

この分子雲は、天球面上で円弧上の形態をしていて、その円弧に沿って視線速度が単調に変化していることが明らかになるんですねー

さらに、この空間速度構造は、太陽の10万倍の質量を持つ点状重力源周りのケプラー軌道によって極めてよく再現されました。
 ケプラー軌道は、3次元空間で2次元の軌道面を形成する楕円、放物線、または双曲線としての、ある物体の別の物体に対する運動。
また、様々な波長の光でその位置を調べても明るい天体が見つからず…
このことが意味するのは、この点状重力源が高密度の星団などではないことでした。

現時点で有力視されているのは、点状重力源が中間質量ブラックホールである可能性。
そう、これまでに確実な発見例がほとんど無い中間質量ブラックホールによって作られた可能性があるようです。

分子ガスの分布・運動の解析から発見された中間質量ブラックホール候補天体の中で、最も確実さが高いようです。
 今回の研究を進めているのは、慶応義塾大学大学院理工学研究科の金子美幸(博士課程2年)と同理工学部物理学科の岡朋治教授、国立天文台、神奈川大学からなる研究チームです。

中間質量ブラックホールの見つけ方

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されていても、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体を繰り返すことで形成されたとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ“中間質量ブラックホール”もあるはずなんですねー

超大質量ブラックホールや恒星質量ブラックホールは、その重力に引き寄せられた物質が加熱されて放つX線を観測したり、周囲の天体の運動を調べたりすることで存在が確認できます。

同じ方法を使えば中間質量ブラックホールの存在も確認できると思いますよね。
それでは、なぜ決定的な証拠が見つからないのでしょうか?

その理由として考えられているのは、中間質量ブラックホールの周りには物質が少なく、超大質量ブラックホールほど重力が強くないため他の恒星や星間物質を引き寄せにくいこと。
そう、見つからない理由は中間質量ブラックホールが目立たないことにあると考えられています。

分子雲を“オタマジャクシ”形に変形させたもの

天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*”の近傍には、中間質量ブラックホールの存在が示唆されている星団“IRS13E”があります。

でも、“IRS13E”が中間質量ブラックホールを含むとする説には異論もあり、確実に存在するとは言えないんですねー

一方で研究チームが指摘していたのは、銀河系中心分子層に発見されたコンパクトかつ異様に速度幅が広い分子雲の存在について。
同領域に“IRS13E”以外にも中間質量ブラックホールが複数存在する可能性でした。
 銀河系中心分子層は、“いて座A*”から半径1000光年程度の範囲に広がる特に激しい運動状態の領域。
 観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
ただ、ブラックホール以外の天体や要因でも同様の分子雲を生成することは可能。
その確認のためには、ブラックホールのような点状重力源が生じるガスの運動状態を、正確に再現している分子雲を検出することが重要になってきます。

このような研究は、銀河中心の超大質量ブラックホールの形成・成長過程を明らかにすることにつながるので、非常に重要なことになります。

そこで、今回の研究では、ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を使用して取得された一酸化炭素(CO)の回転スペクトル線サーベイデータを精査。
これにより、点状重力源との相互作用によって生じたと考えられるコンパクトかつ速度幅が広い分子雲の探査を集中的に行いました。

その結果の一つとして、“いて座A*”の北西約20光年の距離に一つの特異な分子雲を発見。
この分子雲は周囲から孤立して存在していて、立体的な構造を調べると“おたまじゃくし”のような形であることが分かります。
 国立天文台野辺山宇宙電波観測所45メートル望遠鏡で取得されたCO及びCS(硫化炭素)サーベイデータ中でも、その存在が確認された。
この分子雲の形は、太陽10万個分の質量をもつ点状重力源を回る運動でうまく説明できました。
そう、今のところ重力源の最有力候補といえるのがブラックホールでした。
“おたまじゃくし”分子雲(左)と中間質量ブラックホール(中央)のイメージ図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
“おたまじゃくし”分子雲(左)と中間質量ブラックホール(中央)のイメージ図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
“おたまじゃくし”が孤立しているということは、分子雲を変形させた要因が重力源以外に見当たらないことを意味しています。

次に研究チームは、この点状重力源の正体を探るため、“おたまじゃくし”を含む天域の様々な波長のイメージを確認。
でも、想定される位置に明るい天体が見つからないので、点状重力源が星団である可能性は低いと考えられています。

また、軌道要素から与えられる質量密度の下限値が膨大であることから、この点状重力源が中間質量ブラックホールである可能性が強く示唆されました。

これらのことから研究チームは、“おたまじゃくし”が太陽10万個分の質量をもつ不活発な中間質量ブラックホールによって形作られたと結論付けています。

今回見つかった天体は、分子ガスの分布や運動の解析から見つかった中間質量ブラックホールの候補としては、最も確実さが高いそうです。
(a)“いて座A*”(十字印)周辺の一酸化炭素分子の回転スペクトル線の積分強度図(346GHz)。(b)“おたまじゃくし”周辺の拡大図。(c)(b)中の水色線に沿って作成した位置-速度図。(d)各速度におけるピーク強度位置(紫十字)とケプラー軌道(緑実線)を重ねた3次元図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
(a)“いて座A*”(十字印)周辺の一酸化炭素分子の回転スペクトル線の積分強度図(346GHz)。(b)“おたまじゃくし”周辺の拡大図。(c)(b)中の水色線に沿って作成した位置-速度図。(d)各速度におけるピーク強度位置(紫十字)とケプラー軌道(緑実線)を重ねた3次元図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
この“おたまじゃくし”を駆動しているのが本当に中間質量ブラックホールだとすれば、この位置は超大質量ブラックホールの“いて座A*”から非常に近いことになります。

そのため、この中間質量ブラックホールは“いて座A*”に飲み込まれていく運命にあるとみられています。

今後、研究チームでは“おたまじゃくし”を形成する点状重力源の実態に迫るため、アルマ望遠鏡による高解像度観測を行う予定です。


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