長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

241.サシバが里にやってきた。

2016-04-09 06:35:04 | 野鳥・自然

「春を告げる鳥」と言って思い浮かぶのは、いったいどんな種類の野鳥だろうか。一般的に平野部から山間部にかけての人里ではウグイスがその美しい囀りから代表選手に挙げられるだろうか。あるいはもっと街中では、人家や商店の軒下に巣をかける身近な夏鳥のツバメの到来だろうか。当工房では少し事情が違う。それはこれから紹介するタカの仲間の夏鳥『サシバ』のことになる。

工房がある千葉県北東部の里山では毎年、3月の下旬ころ、ソメイヨシノが開花し、水田に日本アカガエルの大合唱が聞こえてくる季節になると、毎年決まってサシバという鷹が渡って来る。”ピックイーツ、ピックイーッ”とやや哀調を帯びた良く通る甲高い声で、ほぼカラス大のぺアの鷹が里山の上空を旋回飛行する姿を観察することができる。「ああ…、今年も無事渡って来た」とホッと胸をなでおろす瞬間でもある。

サシバはタカ目タカ科の猛禽類で漢字では「差羽」、英語名を Gray-faced Buzzard という。特徴としては大きさはカラスよりやや小さく、頭上以下の体上面は茶褐色、喉は白くて中央に黒褐色の縦線が1本ある。胸は茶褐色の幅広い班があり、腹は白くて茶褐色の横斑がある。鳴き声はピックイーッ、またはキンミー、などと聞こえる。分布はロシア沿海地方・中国北東部・朝鮮半島で繁殖し、中国南部・東南アジアで越冬する。日本では本州・四国・九州に夏鳥として渡来する。南西諸島では越冬している。秋、9月から10月の渡りの時期には愛知県伊良湖岬・鹿児島県佐多岬などに集結し大規模な渡りをすることがよく知られている。いわゆる「鷹の渡り」を代表する種である。生息場所は平野部から山間部の林、林縁、農耕地など良好な里山環境。

今年、この地の初認日は4月3日の午前11時18分だった。30年近く記録を取っているのだが1週間とずれないので毎度のことながら自然の神秘には感服してしまう。この時確認できたのは1羽で大きなよく通る声で鳴きながら隣接する斜面林の上空を飛んでいた。昨日は工房の上空をペアでさかんに鳴きながら飛び回っていた。そしてツミという小型のヒヨドリ大の鷹の♂が、そのうちの1羽を猛烈な勢いでモビング(moving)していた。簡単に言うと追いかけっこである。これは野性鳥類によく観られる行動でテリトリー争いの1種である。おそらく繁殖場所や餌場が重なるのだろう、しばし、この素晴らしい空中戦に見入ってしまった。

そして工房に隣接する林では繁殖期から渡りの時期までずっと生息しているので毎年、繁殖活動をしているのだと思う。もっとも日本野鳥の会では鷹だけでなく野性鳥類の巣の観察や写真撮影は繁殖の妨げになるとしてご法度となっているので証拠をつかんだことはない。ただ夏には巣立った幼鳥を見ることが多いのでまず間違いないだろう。親鳥が雛たちに与えるエサを捕りに行く狩場は「谷津田・やつだ」と呼ばれる丘陵と丘陵の間に作られた細長い水田のことが多く、獲物はカエルやヘビ、バッタなどの大型昆虫、ネズミやヒミズなど小型の哺乳類である。頭上を大きなヤマカガシを嘴でくわえ、ぶらんと垂らしながら飛ぶ個体を観察できることもある。

ある年、サシバが餌を捕る谷津田で、朝から夕方までその行動を観察し、記録をとったことがあるのだが、農作業をする地元の農家の人がカメラの三脚に地上用の高倍率の望遠鏡をつけて、じっとサシバを待っている僕を不審に思ったのか「何かの測量か?」と尋ねてきたので「鷹を観察しているんです」と言うと、「あーっ、マグソダカ(馬糞鷹)だんべ、毎日飛んでるよ」という答えが返ってきた。ずいぶんと、ひどいあだ名を付けられたものである。そりゃあ、オオタカやハイタカなど鷹狩りにも使われる美しい種と比べれば全身が茶色で地味な姿かもしれない。それでも。アップにして見れば、なかなか精悍な顔立ちをしているし、鳴き声の美しさは日本に生息する鷹の中でもトップクラスと思っている。

30年近く前、この地に移り住んだ頃には、この里の周辺にある谷津田という谷津田には必ず1ペアのサシバを観察することができたのだが近年は全国的にも減少傾向にあるようだ。原因としてはいろいろと調査研究されているが、越冬地である東南アジアの森林の大規模開発や日本での水田農薬による餌となる小動物の減少などが挙げられている。

生息環境が悪化する中、サシバの将来を想うと、とても厳しい現実が見えてくる。中型の鷹の寿命は統計的に10年前後ということになっている。と、いうことは工房の隣の林に来ているサシバもおよそ3~4世代にわたって観察していることになる。いったいいつまでこの地に渡って来てくれるだろうか? サシバという種は今後ますます良好な里山環境を示す重要なバロメーターになっていくことだろう。画像はトップが工房の隣の住人、サシバ。下が向かって左からいろいろな季節に撮影したサシバ画像4カットと狩場としている谷津田の風景2カット。

 

               



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1 コメント

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お立ち寄りいただきありがとうございました。 (uccello)
2016-04-22 08:52:00
ブロガーのみなさん、いつもマイブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。いいね!をいただいた方々、感謝します。

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