長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

328. 『長島 充 版画展 / 1990年~2015年』が開催中です。

2018-03-27 17:50:56 | 個展・グループ展
前回ブログ327回でご紹介した『長島 充 版画展 / 1990年~2015年 』が始まりました。会場は千葉県鴨川市内にある私設美術館、房総郷土美術館となる。ここは千葉県と言っても房総半島の南部に位置し千葉県内でも最も山深い場所である。四方木(よもぎ)という集落で20年程前までは千葉県内の山のガイドブックに「房総の秘境」などと紹介されていた。

何故、このような不便な場所で版画の展覧会を開催するようになったかと言うと3年程前、この美術館の館主であり画家、アートコレクターでもあるK氏から「…以前より県内の美術館などで貴兄の作品を拝見していたが是非、当方の美術館に版画作品をコレクションとして加え展覧会を開催したい」という内容の手紙が届いた。こうしたことはそうそうあることではないので、もちろんすぐに返事を書いて出した。電話も含めて何回かのやりとりがあって、実際に作品を観てもらおうということになり、過去からの作品の入ったファイルを持参、気に入った作品をザックリと選択してもらった。さらにこちらの工房にも来ていただき、残りの見せられる状態の版画作品シートも観ていただき作品購入ということとなり、今日の個展開催へと繋がったのである。

この美術館の開館当初からのコンセプトはその館名のとおり、千葉県生まれ、千葉県出身の美術家の作品を収集するということである。内容も洋画、日本画、彫刻、工芸、版画とさまざまな美術のジャンルに及んでいる。

25日の日曜日、とても良い天候で展覧会日和である。こちらと同じ千葉県内と言っても自動車で家を出て寄り道をせず真っ直ぐに向かったとして3時間以上はかかる。遠い。逆方向に北に向かったとすると茨城と福島の県境まで行ってしまう距離なのである。なかなか友人、知人に胸を張って「是非、観に来てください」とは言えない距離でもある。

千葉市、八街市、東金市、大網白里市、茂原市、長生郡、と通過し勝浦市に入って太平洋岸の外房の海辺に出てからさらに南下すると鴨川市となる。ここから有名な日蓮上人ゆかりの清澄寺という古刹がある山間部への林道に入り、しばらくすると四方木の集落に到着する。美術館の駐車場に到着すると周囲からはウグイス、ホオジロ、シジュウカラ、ヤマガラなどの野鳥たちの美しいさえずりが聴こえてきた。荷物を降ろしていると僕らよりも少し早めに来ていた友人のKY氏が出迎えてくれた。

館内に入るとスギやヒノキのツーンとした心地よい香りがする。この美術館は館主K氏が骨組みだけを工務店に作らせ、あとは手作りで床から内装までコツコツと作り上げたものなのである。まさに田作り的な美術館であり、K氏自身の作品と言っても良い。入館して展示状況を確認、今回、大小合わせて約40点の版画作品が展示されている。幻想的な1990年代の銅版画による連作から近年の「日本の野鳥」をテーマにした写実的な版画作品までが一定の間隔をとって整然と並べられていた。

しばらくして館主がお茶をい入れてくれたので休憩室でKY氏と連れ合いと3人で御馳走になる。この部屋の椅子やテーブルも全てK館主の手作りである。寛いでいるとまるで山小屋にいるような錯覚を覚えてしまう。作品や世間話が盛り上がってきた頃、自動車のエンジン音がしたので外に出てみると同じく県内に住む友人のY君がやってきた。なにしろこうした場所では来ていただいただけでありがたいのである。しばらく作品を観たり、世間話をしたりしてから友人二人はこの近くの名瀑「不動の滝」へとハイキングに出かけた。こうした土地ならではのことである。Y君はフライフィッシングが趣味なので「滝壺に糸を垂らしてみる」と言っていた。

展覧会オープンからの入場者の方の話題などを館主に尋ねると千葉県内の美術館の学芸の方や地域の情報誌を観て興味を持った県内のアートファンの方々などがボチボチ来場されているということだった。まぁ、東京などの都市部での個展のようにはいかないが、そうして訪れてくれる人たちがいることはとてもありがたい。

小一時間ほどして友人二人がハイキングから帰ってきた。釣りの成果は小さいハヤがいた程度でまだ時期が早いということだった。楽しい時間はすぐに過ぎて行く。16時、あっという間に閉館時間となる。歩いて近いK館主の古民家を改造して作ったという自宅兼アトリエを拝見、屋根裏部屋の画室はまるで忍者屋敷のようでもあった。そして多くのスケッチに基づく油彩で描かれた風景画を見せていただいた。

ここでお開き。2人と別れて、連れ合いと2人、今夜はここからさらに山間部に入った林道端にある白岩温泉に宿をとり明日、四方木周辺を散策してから帰宅する予定となっている(四方木周辺の散策は次回にご紹介します)。

展覧会は6/3(日)まで。美術館は金、土、日のみの開館です。長島は今後、4/8(日)、5/13(日)の午後1時過ぎに会場入りする予定です。ご興味のある方はご来場ください。展覧会詳細は前回ブログをご参照ください。なお美術館ホームページなどはございません。フェイスブックには別の方が管理しているページがあります。

画像はトップが美術館の展示風景、下が向かって左から裏山から観た美術館外観、美術館展示風景数カット。


                        



327. 『長島 充 版画展 / 1990年~2015年』が始まります。

2018-03-12 18:29:21 | 個展・グループ展
今月16日から開催される私設美術館での版画個展のご案内です。

・展覧会名:幻想とロマンと日本の野鳥を刻む『 長島 充 版画展 / 1990年~2015年 』

・会場:私設 房総郷土美術館 千葉県鴨川市四方木 (よもぎ)410-5 Tel 04-7094-0333(※ホームページやSNSアドレスなどはありません)

・会期:2018年3月16日(金)~6月3日の期間の金、土、日のみ開館 10:00~16:00 

・内容:美術館は美術愛好家の館主による個人美術館で千葉県出身の美術家の絵画、版画、彫刻作品などを収蔵、企画展示しいている。今回は千葉県市川市生まれで現在、同県佐倉市在住の画家・版画家である長島充の1990年代の銅版画連作から2015年の「野鳥版画」と称する大判木版画など版画作品約40点による回顧展形式の展示となっている。

・交通:JR外房線安房天津駅より鴨川コミュニティバス約20分「四方木ふれあい館」バス停下車、徒歩約3分(安房天津駅前発、7:57、9:17、12:44)タクシーで約10分。

・入館料:一般300円、高校生以下無料

・四方木の山里を紹介するホームページ:「Hello 四方木」http://yomogiyomogi.jp/ 

・作家在廊日:3/25(日)、4/8(日)、5/13(日)の午後1時より会場に入る予定でいます。

・その他:現地は山間部であるため携帯電話の使用はできません。美術館敷地に簡易トイレがございますが、土日は近くの「四方木ふれあい館」のトイレが解放されています。駐車スペースは3台分ございますが、「四方木ふれあい館」の駐車場も利用できます。また、カーナビの設定により県道81号線を君津方面から下るコースが示されることがありますが、幅員が非常に狭く車両のすれ違いが困難な区間(山の崖地)があります。車利用の場合は海側を安房天津に出て、県道81号を上がるルートをお勧めします。

※美術館の所在地である鴨川市四方木は、清澄山の裏手となる山間部に位置する秘境、東京で言えば奥多摩、埼玉で言えば奥秩父と似た自然豊かな環境です。近くにある名瀑、「不動の滝」も見ものです。春から初夏の気候の良い季節、周辺の自然環境への散策もかねてご来場いただければ幸いです。

画像はトップが展覧会フライヤーの表面部分、下がフライヤーの表と裏、山小屋風の私設美術館外観、美術館の内部。



         




326. スズメの絵本が出版されました。

2018-03-09 16:59:55 | 書籍・出版
今月1日。以前に制作中の話題をブログにも投稿しましたが、企画から2年間かけて制作した絵本が出版されました。以下、情報となります。

・タイトル:まちでくらす とり すずめ 月刊かがくのとも 4月号

・文:三上 修(みかみ おさむ) 日本鳥学会会員 理学博士

・絵:長島 充(ながしま みつる)

・仕様:本文28ページ + 表紙、裏表紙 

・出版社:(株)福音館書店

・企画・編集:福音館書店編集部・かがくのとも

・付録:ポスター『まちでくらすとり』(スズメを含めてメジロ、キジバト等、街中で観察される11種の野鳥が描かれている)。

・定価:本体 389円+税

・内容:幼稚園生ぐらいのお子さんが対象。野鳥のスズメが主人公、全国どこの地域でもみられる新興住宅地の街が舞台。住宅地、公園、畑などスズメは人間の居住空間に近い環境でごく普通に生息している。そのスズメのペアが巣作り~産卵~育雛~巣立ちを通し天敵である野良ネコやカラスからヒナたちを守って巣立たたせるまでを早春から秋までの季節の中で観察する物語。

<著者(長島から)>

文章担当の三上さんは鳥の行動や生態の研究が御専門。絵本の仕事は今回が初めてとのことだが、最近ではTV番組などにも出演されてスズメの生態を解説されるなどご活躍中である。今回、幼稚園生ぐらいが対象ということで絵のタッチも鉛筆と水彩を中心に柔らかい雰囲気を出すことを心がけた。絵本に登場する街並みや公園は僕の住んでいる住宅地がモデルとなっていて、脇役として登場する人物は家族、特に娘たちの子供の頃の写真や記憶を参考にしリアルな感じを出した。小さく親しみやすい野鳥の「野生」に生きる姿を感じ取ってほしい。ブロガーやSNS友の方々、是非この機会にお子さんやお孫さんたちに読み聞かせてあげてください。よろしくお願いします。

※絵本は月刊で基本的に年間購読ですが、現在書店の棚にも置かれています。一般の書店に注文すれば単冊で取り寄せてくれます。また以下の福音館書店のホームページからもお気軽にネット注文ができます。3か月間ぐらいは書店に置かれ、3-4年間ぐらいはバックナンバーとして購入できます。


福音館書店HP. http://www.fukuinkan.co.jp/

画像はトップが絵本の表紙。下が向かって左から絵本のシーン3カット、裏表紙、付録のポスター。


               

325. " 日本の四季と生きもの Ⅱ " 展が始まりました。

2018-03-06 18:37:27 | 個展・グループ展
本日より参加しているグループ展が始まりましたので以下に情報を投稿いたします。


・展覧会名:日本ワイルドライフアート協会新宿御苑展2018 " 日本の四季と生き物 Ⅱ"

・会場:東京都新宿区 新宿御苑インフォメーションセンター1Fアートギャラリー 

・会期:2018年 3/6(火)~3/11(日) 9:00~16:30(最終日は15:00まで)

・交通:東京メトロ副都心線 新宿三丁目駅E5出口 徒歩3分 / 東京メトロ丸の内線 新宿御苑駅出口1 徒歩5分 / 都営地下鉄新宿線 新宿三丁目駅C1/C5出口 徒歩5分

・内容:日本の四季と野生生物(哺乳類、鳥類、魚類、昆虫類 etc.)をテーマとした37名の作家の絵画、版画、立体などによるグループ展。

・その他:入場料無料(但し新宿御苑へは入場料が必要です)。

・お問い合わせ:JAWLAS(日本ワイルドライフアート協会)事務局:info@jawlas.jp

※長島は大判木版画1点を出品しており、3/8(木)12:45~16:30 会場におります。

毎年、恒例となりました野生生物画によるグループ展です。アート好き、生き物好き、自然好きの方々、この機会にぜひご来場ください。新宿御苑もそろそろ花が見ごろとなり始めています。広い公園の散歩がてらどうぞ。

画像はトップが展覧会の搬入展示作業のようす。下が向かって左から同じく搬入展示のようす、展示状況、新宿御苑インフォメーションセンター外観、御苑内に展示された秋冬の「生きたあかし(木の実など)」、御苑近くのイタリアン・カフェ、" cafe LA BOHEME " (おいしいワインとパスタのお店でアニメ映画『君の名は』の主人公がバイトをしたお店のモデルとなったレストランでもある。毎年このグループ展の展示打ち上げ会場となっている)の店内風景2カット。


                     



 
 
  


  

324. 出水平野、ツル類取材旅行 その三(最終回)

2018-03-03 18:55:00 | 野鳥・自然
2/11(日)。鹿児島県出水平野のツル類取材旅行も最終日となった。朝、5:00起床。野鳥たちの朝は早い。6:15、車に乗りホテルを出るとまず東干拓にあるツル達の塒に向かった。20分弱で目的地。ここも農作業用の一般道から観察させてもらうため対向車や地元の農作業の車には細心の注意をしつつ移動し、干拓中央部の車除けスペースに停車し、ツル類の朝の飛翔を待つことにした。ここまでは初日にお会いした地元ベテランバーダーのM氏のアドバイスどおりに行動する。

<東干拓・早朝のツル類の飛翔を観察する>

エンジンを切って車中からツル達の声や動きに五感を集中させた。昨日とは打って変わって雨は上がっていて天気はまずまずである。風は少し強い。しばらくすると、まだ青黒い朝の空をツル達の小群がほうぼうからこの干拓地を目掛けて飛んできた。”クックルルー、クックルルー" ”グワッグルルー、グワッグルルー" 寒空を早いスピードで給餌場へと向かうナベヅルとマナヅルの声が響き渡る。それはそれは見事な光景である。帰宅してから制作する大判木版画のためにしっかりと瞼に焼き付けておかなければならない。次から次へと飛んで来ては干拓地の東端や中央部に舞い降りる。静かに車を降り双眼鏡だけでその様子を眺めていた。その数とスピードは強風に押され速度を増し、人の動体視力が追いつかなくなって来た頃ピークに達した。いったいどのくらい空を見上げていたんだろうか。周囲が白々と明るくなってきたかと思ったら東の空に朝日が現れ始めた。そして飛翔するツル達の数もまるで台風が去った後のように少なくなっていった。飛翔姿を堪能し、ここでまたいったんホテルに帰る。

<東干拓~福ノ江港周辺の野鳥たち>

ホテルで朝食をとり、帰りの荷造りをしてチェックアウトを済ませてから再び行動開始。来る前の計画では「ツルだけ見るのではなく山間部にも入って九州南部特産のヤマドリの亜種コシジロヤマドリを観に行こう」とか「最終日の帰り道、河口干潟に立ち寄ってカモメ科の珍鳥オオズグロカモメを観て行こう」などと話していたのだが、「今回はやはりツル達の作品を制作するための取材なのだから時間いっぱいツル達を観察して帰ろう」ということに2人で決定した。そしてもう一度明るくなった東干拓に戻り、水田をゆっくりと歩いたり休息するナベヅルやマナヅルの家族群を観察、撮影しながら移動した。途中、冬水田んぼで15羽のツクシガモの群れを観たり、水田上を低く飛び回るアトリの大群を観たり、堤防で休むミヤマガラスの群れを発見したりしてけっこう楽しめた。3日目に入って当たり前となってしまったが、こうした西南日本に多い冬鳥が観られるのも九州ならではのことである。
それから初日、M氏がカラムクドリやギンムクドリなど希少なムクドリ類を観ることがあるという近くの福ノ江港周辺に移動する。狭い農道を海側へ向かってゆっくりと走って行くとポッカリと小さな溜池の真横に出た。ここでも水面を泳ぐ1羽のツクシガモを発見。双眼鏡で池を見渡しているとヨシ原近くに白いサギ大の水鳥が12羽休息しているのを見つけた。「ヘラかクロツラだね」連れ合いが言った。昔からのバーダーは種名を省略するクセがある。ヘラサギかクロツラヘラサギだが嘴を背中に突っ込んでいるので特徴が見えずどちらなのかは識別できない。やむをえず、この状態をカメラに収めて移動。児童公園の近くで車を止めてコンビニ弁当でお昼にする。窓の外をふと見上げると「雪だ!」。小雪がチラチラと降ってきた。スマホで天気予報を調べると南九州には今晩にかけて大雪警報が出ていた。

<ツル展望所でツル達の渡りを観察する>

「どうする?ウカウカしていると高速道路上で雪に遭遇するかも…一応スタッドレス・タイヤだけど」と、不安そうに連れ合い。「速足でツル展望所に寄ってスナップ写真を撮ってツル達へ最後のお別れをしてから帰ろう」ということで意見がまとまり西干拓へと移動。ツル展望所の駐車場に着いてもまだ小雪はチラチラとしていた。周辺を少し散策し、ツル類の大群を背景に記念写真を撮ってから展望所3階へ上がった。連れ合いには1つ見落としていたことがあった。それは「そろそろツルの北帰行が始まっている。滞在中に1度、ツルの渡りの飛翔をする姿が観たい」というのである。しばらくの間、広大な干拓地に広がるツル達の大群を眺めたり、空に注意したりしていた時、14:00頃「あっ、あれそうじゃない!」と連れ合いがはるか彼方の空を指差した。見上げるとナベヅルとマナヅルの混群が上昇気流に乗ってグングンと高度を上げて飛んで行くのが見えた。「そうだ、渡りだね!」さらに丁寧に観て行くといくつもの混群が上昇していくのが解る。飛んで行ったツルたちはこれからロシアのウスリー川流域、アムール川流域、中国東北部などの繁殖地へと向かったのである。最後の最後にとても感動的なシーンを見せてくれたツル達に感謝。ここでタイムリミット。展望所を降りて駐車場まで来ると、まだ小雪がチラチラしていた。天候悪化が心配なので名残惜しいが予定よりも早めに熊本空港へ向かって出水の町を後にした。

※今回この取材旅行をするにあたり事前にアドバイスをいただいた鳥の世界のT先輩と地元ベテランバーダーで詳細なガイドをしていただいたM氏にこの場をおかりして感謝いたします。
画像はトップが早朝のナベヅルの飛翔。下が向かって左から東干拓のツル類の飛翔風景、ナベヅルの家族、マナヅルの家族、溜池で休息するヘラサギ類、ミヤマガラス。