長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

333.ロシア音楽を聴く日々。

2018-05-29 19:35:57 | 音楽・BGM
ひさびさに音楽の話題である。何度か投稿しているが絵画や版画の制作中にクラシック音楽を朝からBGM として聴いている。最初の1枚は決まってモーツァルトから軽快に始まる。モーツアルトの長調の曲を聴いているうちに、まだ眠っていた脳内のセンサーがカチャカチャと動き出してくるのである。

が「それから徐々に古典派、ロマン派、それ以降と音の濃さを増していくのが常である。制作への集中力がピークに達した昼過ぎ頃にはブルックナーやマーラーの長~い交響曲が流れている。眠くなる時間帯でもあるが、このあたり脳内の調子ハイになりも絶好調になってくるのだ。そして夕食前の一日の仕上げはバッハ。無伴奏チェロ組曲か無伴奏リュート組曲。この流れ、このパターンが随分長く続いていた。僕は何でも決め事が好きだし始めると、とことんワンパターン化を続けて行く。それこそバッハのフーガのように。
でも、人間なのである程度までくるとそれも飽きてくる。このところ、そのピークの部分の長い交響曲に新顔がようやく加わったのである。それが今回のタイトルとなっている『ロシア音楽』なのである。チャイコフスキーやショスタコーヴィチ、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ヒンデミットといった蒼々たる巨匠のラインアップ。

実は僕はこのロシア系クラシック音楽を今まで不得手としてきた。と、言うよりも食わず嫌いと言った方が正しいかもしれない。「何故か?」と訊かれても音楽は僕にとって食べ物に近い感覚なのではっきりとした理由はない。フィーリングというか非常に感覚的な部分でもある。ただ食べ物の嗜好もそうなのだが、音楽の嗜好も年齢と共に変化してくると思う。特に50代を過ぎた頃からこうした感覚を自覚してきた。音楽は「耳から食べる食事」である。毎日、毎日パスタだけでは飽きてしまう。時には濃厚なステーキが食べてみたくなるのである。

ブルックナーやマーラーの長~い交響曲を聴いていた流れから自然とチャイコやショスタコを聴くことができるようになった。なんだ、やればできるじゃない。こうなってくると、クラシック音楽と言う密林は広大である。お次はラフマニノフ、プロコフィエフさらにヒンデミットそして彼らのピアノやヴァイオリンによる協奏曲も、それから室内楽曲も…と果てしなく「聴きたい欲望」が連鎖的に繋がって行くのである。

これから梅雨季、盛夏と、しばらくはこの「ロシア音楽狂い」が続きそうな気がしている。画像はトップがマイコレクションの『ロシア音楽』CDの一部。下が向かって左からカラヤン指揮ベルリン・フィルによるチャイコフスキーの「交響曲第6番」、ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団によるショスタコーヴィチの「交響曲第10番」、ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とアシュケナージのピアノによる「ラフマニノフ・ピアノ協奏曲全集」、プレヴィン指揮ロンドン交響楽団とアシュケナージによる「プロコフィエフ・ピアノ協奏曲全集」のCDジャケ。いずれも名盤中の名盤である。


         

332.千葉市美術館 『百花繚乱列島』展を観る。

2018-05-26 16:03:01 | 美術館企画展
どうも美術館の企画展を観てからのブログの投稿が後手になる。今回ご紹介する展覧会も今月20日に終了した企画展である。今月11日、千葉市美術館で開催されていた『百花繚乱列島 - 江戸諸国絵師めぐり - 』展を観に行ってきた。タイトルどおり展示内容は江戸時代の中後期、全国通津浦々から、その土地出身や各藩の御用をつとめた絵師たちの作品を集めたものである。この絵師たちは実に個性あふれる作品を生み出しているのである。

最近ではどこの美術館の企画展もとても充実していて、どこへ出向いたらいいか迷うほどであるが、この千葉市美術館は江戸時代の「奇想絵画」や「浮世絵」そして「新版画」や「創作版画」にみられるユニークな作家、画家の企画展を数多く開催していて、僕が強く興味を持っている辺りでもあり、よく通っている美術館である。東京周辺として見ても最も通っているのかも知れない。フィーリングが合っているということだろう。そうした意味で今回の展示もなかなかツボを得た内容である。

僕は恥ずかしながら江戸中後期の御用絵師(展覧会図録ではご当地絵師などと表記されていた)たちの作品というものを不勉強であまり知らなかった。今回版画も含めて約190点の作品が一堂に会していた。「よくぞここまで集めてくれました」と担当者に一言お礼を言いたいほどであった。時代的には山水画、花鳥画、人物画など日本の絵画のあらゆる画風が出揃い、その技法的にも円熟期のものなのでどこをとっても見応えがある内容になっている。全てをここでご紹介することはもちろんできないので、その中で特に印象に残った作品を数点、挙げてみることにしよう。

初めに菅井梅関(すがい ばいかん 1784-1844)という仙台出身の画家。京都、江戸、長崎で活動し、後半生は仙台へ帰郷した人だが、この画家の軸物の梅を描いた2点の対ともいえる墨画が良かった。筆使いに勢いがあるのとまるで龍を思わせるような梅の幹と枝の動きがデモーニッシュにも観えてその場に釘付けになってしまった(画像参照)。

次に展覧会全体を通して何点か登場する幕末期の絹本に描かれた油彩画が目に留まった。安田でんき(漢字が古いもので名前の変換ができなかった 1789-1827)という、仙台出身の画家による異国の風景画や、江戸生まれで銅版画を制作したことでも知られる司馬江漢(しば こうかん 1747-1818)による帆船が浮かぶ内湾の風景画等は、その遠近法や明暗法の技術的な稚拙さからなのか、まるでアンリ・ルソーなど西洋のナイーフ絵画の表現に重なるものを感じることができた(画像参照)。
花鳥画では栃木出身の戸田忠翰(とだ ただなか 1761-18237)という画家の白いオウムを描いた軸作品が江戸の人気の奇想画家、伊藤若冲の作風を連想させ完成度が高かった。 そして鳥取出身の黒田とうこう(1789-1846)作の鯉をリアルに描いた絵画は、まるで時間が止まってしまったような不思議な描写で、何故かシュールレアリズム絵画の作風を思い浮かべる。それから、この時代の銅版画が展示されていたのも興味深く、日本の銅版画の黎明期にエッチング技法や手彩色の技術で丁寧に制作されている作品には銅版画制作者としての僕にもたいへん参考になるものだった(以上、画像参照)。

2つのフロアに展示された数多くの絵画作品は知識があまりなかっただけに新鮮に映り、一度では観たりずにレストランでの昼食を挟み、もう一巡して見て回ったのである。ここの美術館では、二度観ることが多い。それだけ内容が濃く充実した企画展を開催しているという証しなのだろう。

次回の企画展は大正期の個性的日本画家『岡本神草の時代展』。これも今からかなり楽しみな展示である(予告ポスター画像参照)。


画像はトップが今展のポスター。下が向かって左から文中でご紹介した作品の数々、美術館一回の建築のようす。次回の展覧会の予告ポスター。



                          




























331. 絵画作品『獅子図』を制作する日々。

2018-05-08 19:19:30 | 絵画・素描
3月から今秋の聖獣・幻獣をテーマとした絵画個展に向け、時間の取れる限り、日々絵画作品の制作をしている。現在制作しているのは東西世界の神話や伝説に登場する『獅子・しし』である。

古代よりシルクロード文化圏の西アジア・シュメール王国やアッシリアなどでは獅子(=ライオン)は、百獣の王、王者の証し、大地母神を背に乗せて疾駆する随獣、侵入者を許さない王城の守護獣、魔除け、真夏の季節のシンボルなどであった。そのダイナミック動きや生命力の強さなど獅子が担ったさまざまな性格、姿をイメージの源としてスフィンクスやグリフォンなどの多種多様な聖獣、幻獣が生み出されて行った。その原型的なイメージがライオンのいないベトナム(獅子頭)、中国(カイチ)、日本(狛犬、唐獅子)などの東アジア地域にも交易と共に伝承され変容し続けてきた。

今回の僕の絵画作品『獅子図』では、シルクロードの最終地点である日本で形成され古典絵画や彫刻作品となった獅子のイメージに西アジアに観られる有翼のライオンのイメージを重ねて創作してみた。全体のようすや動きは葛飾北斎の「北斎漫画」の中の獅子を参考としつつさまざまなシルクロードのライオン、獅子たちを合体させていったのである。

それから画材は前回の絵画個展同様、手漉きの紙を用いている。前回はネパールの手漉き紙だったのだが、今回は能登半島の輪島の紙工房に特注で漉いてもらった和紙を使用している。また東洋的なイメージが強くなるので描画材には墨や胡粉、金泥などもふんだんに用いている(画像参照)。

この2~3カ月の間、国内外で軍事対立や政治不信などのニュースが続き、毎日、工房のつけっぱなしのラジオから情報が流れてきていた。獅子の顔を描きながら気が付いたのだが、徐々に「憤怒相・ふんぬそう」となってきているのである。無意識のうちに人間の邪悪な欲望世界に対する怒りの顔になってきたのである。西域に広く伝わった幻獣なので、その顔が単なる怒りを超えてアジア特有の「慈悲」の表情となってはこないだろうかと描き込みに想いがこもってくるのである。

東京での絵画の新作個展は9月末から。これから夏までの間、幻獣たちを集中して描く日々が続きそうである。完成作品の全体像は個展会場でご覧いただきたい。


画像はトップが制作中の『獅子図』部分。下が向かって左から作品の中に脇役として登場する鳳凰の顔、今回制作に使用している墨などの画材、シルクロード文化圏に伝承されるさまざまな獅子たち3カット(資料から)。