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『トガニ 幼き瞳の告発』

2012年08月18日 | 映画(た行)
『トガニ 幼き瞳の告発』(英題:Silenced)
監督:ファン・ドンヒョク
出演:コン・ユ,チョン・ユミ,キム・ヒョンス,チョン・インソ,ペク・スンファン,
   チャン・グワン,キム・ミンサン,キム・ジュリョン,オム・ヒョソプ他

梅田ガーデンシネマにて。

初日だったこの日、凄い混みようで毎回満席、立ち見も数十名。
派手に宣伝しているわけじゃなし、どうしてかなと思っていたら、
劇場に並んだ列を見て大納得。手話が飛び交っています。
沖縄の映画には沖縄の人が来場するように、
聴覚障害者の映画には聴覚障害の人がたくさん。

前述の『あの日 あの時 愛の記憶』以上に、実話だということに驚かされます。
劇場内に貼られていたポスターに著名人のコメントが載っていましたが、
その中に「試写会ではみんな泣いていた。怒りの涙だ」というものがありました。
そう、悲しいだけの涙ではない、怒りの涙です。
「トガニ」の意味は“坩堝(るつぼ)”。

霧で有名な町ムジンの聴覚障害者学校で教職を得た美術教師カン・イノ。
亡き妻との間に生まれたまだ幼い一人娘をソウルの母親に預け、
熱意と少しの不安を持って赴任先である慈愛学園へ。

ところが、恩師の紹介でやってきたイノに対し、
愛想だけはいい校長と双子の行政室長は多額の寄付を要求。
教室へ入れば、児童たちの態度がどことなくおかしい。
同僚教師のパク・ポヒョンに児童のことを尋ねると、
聴覚障害児はなかなか心を打ち明けようとしないものだと笑う。

ある日、帰りぎわに校内で少女の悲鳴のようなものを聞いたイノ。
見回りの守衛は何でもないと言うが気になって仕方がない。
後日、窓辺にたたずむ児童を見かけ、イノが話しかけたところ、
声を出せない彼女は、イノの手を引っ張って洗濯室へ。
そこでイノが見たものは、女寮長が別の児童の頭を洗濯機に突っ込む姿だった。

愕然とするイノは、複数の児童が日常的に虐待を受けていることを知る。
以前名刺を受け取っていた人権センターの女性職員ソ・ユジンに連絡し、
女子児童のヨンドゥとユリ、男子児童のミンスを保護。
やがて、ヨンドゥらが校長から性的虐待まで受けていることがわかり、
慈愛学園を告発しようと動きはじめるのだが……。

こんなおぞましいことが起こっているのに、校長が地元の有力者であるがゆえ、
市役所の福祉課も教育庁も「管轄外です」と、対処せずにたらい回し。
お金を握らされている警察も見て見ぬふり。

イノらがマスコミに訴えかけたことで仕方なしに腰を上げた警察は、
弁護士について“前官礼遇”を利用せよと校長にこっそりアドバイス。
それは、裁判官を退官した者が弁護士となった場合、
最初の弁護事件は勝たせてやるという慣例を利用すべしとのこと。
こんな暗黙の了解があるのですね。

正義を通そうとするイノに、母親は「何もするな」と言います。
校長がどんな奴か知らないからそんなことが言えるのだとイノは思いますが、
「教職を金で売るような奴がいい人のわけがない」と母親はわかっています。
物事の善悪はわかっていても、自分の身を守るためには見て見ぬふりをするしかない。
きっとどこの国にも、どんな社会にもある不条理。

それでもやめようとしないイノ。
「この子たちの手を放したら、僕は父親には戻れない」。
キャッチコピーにもなっているこの台詞のシーンにより、
母親はイノの気持ちを理解します。
皮肉を言いながらも息子を見守ろうとする様子にも胸が熱くなりました。

世の中はカネとコネ。
それをまざまざと見せつける判決がやるせない。
けれど、この映画によって社会が動いたという後日談。
エンドロールが完全に終了するまで席を立たないでください。

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