『永い言い訳』
監督:西川美和
出演:本木雅弘,竹原ピストル,藤田健心,白鳥玉季,堀内敬子,
池松壮亮,黒木華,山田真歩,松岡依都美,深津絵里他
土曜の晩はたいてい飲み過ぎて食べ過ぎているので、
翌日曜に早起きするのはツライ。
それでも映画は観たいから、遠出はせずにできれば箕面、
ダンナが車を使うことなく空いているならばせめて伊丹で手を打ちたいのに、
箕面ではハシゴが上手く行かず、伊丹では上映作品が限られている。
こうしてこの間の日曜日も仕方なくTOHOシネマズ西宮まで。
実に非凡な女性です、西川美和監督。
コミックの映画化が多く、映画オリジナルの脚本はめっきり減るなか、
西川監督はデビュー以来つねに自分で脚本もお書きになる。
そして『ディア・ドクター』(2009)と本作は、原作の小説もご自分で書いたもの。
本作の原作に関しては山本周五郎賞と直木賞の候補にまでなったのですから。
『ゆれる』(2006)の暗く重たいイメージが強かったのですが、
本作はユーモアもちりばめられていて、とても温かい作品となっています。
あの広島カープの鉄人・衣笠祥雄と仮名で書けば同姓同名の衣笠幸夫(本木雅弘)は、
名前に多大なコンプレックスを持っている。
ペンネームは津村啓。人気作家としてメディアからも引っ張りだこ、大活躍中。
そんな幸夫と長年連れ添ってきた美容師で妻の夏子(深津絵里)だが、
ふたりの間には子どももなく、夫婦関係はすっかり冷え切っている。
それでも、皮肉ばかり言う幸夫に夏子は変わらずあっけらかんとした態度。
ある日、夏子が高校時代からの親友・大宮ゆき(堀内敬子)とバス旅行へ。
夏子を送り出した幸夫は速攻で愛人の福永智尋(黒木華)を自宅へ招き入れる。
ところがその日、バスの転落事故により、夏子が死亡する。
悲しみに襲われることもなく、どうすればよいのかわからない幸夫。
罪の意識を感じる智尋は幸夫のもとを去り、ひとりぼっち。
何もかも妻まかせだったから、家の中は荒れ放題に。
メディアに向けて「妻の死に悲嘆する津村啓」を演じることだけは忘れない。
そんな折り、遺族への説明会でゆきの夫・陽一(竹原ピストル)と出会う。
幸夫とは対照的に悲しみも怒りも露わにする陽一。
ひた隠しにしてきた本名なのに、「幸夫くん」と陽一から呼びかけられ、
関わり合いになるまいと思う幸夫。
しかし、陽一は幸夫と妻の想い出を分かち合いたがっている。
それになんとなく応えてしまった幸夫は、トラック運転手として働く陽一が、
まだ手のかかる子ども2人を抱えて途方に暮れていることを知る。
小説のネタになるかもしれないと考えた幸夫は、
子どもたちの世話を買って出るのだが……。
モックン演じる幸夫は最初はとんでもなく嫌な奴。
それが徐々に良い奴になるなどという素直な展開でもありません。
観ている側にも彼が何をどう考えているのかわからないけれど、
本人だって自分が何を考えているのかわからなかったはず。
妻の死と向き合わず、他人の子の世話にいそしむ幸夫に対して、
池松壮亮演じるマネージャーが吐く言葉が突き刺さります。
その言葉のみならず、そうだよとうなずきたくなる台詞がいっぱい。
心の内にあった思いが幸夫の中から少しずつ言葉となって現れる。
そしてやっと気持ちの整理をつけはじめる。
夫婦愛を感じる映画なんかじゃありません。
亡くなった人を思い偲ぶなんて映画でもありません。
そこにはもう愛情なんてなかったけれど、
その事実に目をつむることなく生きてゆく。
「自分のことを大事に思ってくれる人のことを簡単に手放しちゃ駄目だ」。
すごく良かったです。
監督:西川美和
出演:本木雅弘,竹原ピストル,藤田健心,白鳥玉季,堀内敬子,
池松壮亮,黒木華,山田真歩,松岡依都美,深津絵里他
土曜の晩はたいてい飲み過ぎて食べ過ぎているので、
翌日曜に早起きするのはツライ。
それでも映画は観たいから、遠出はせずにできれば箕面、
ダンナが車を使うことなく空いているならばせめて伊丹で手を打ちたいのに、
箕面ではハシゴが上手く行かず、伊丹では上映作品が限られている。
こうしてこの間の日曜日も仕方なくTOHOシネマズ西宮まで。
実に非凡な女性です、西川美和監督。
コミックの映画化が多く、映画オリジナルの脚本はめっきり減るなか、
西川監督はデビュー以来つねに自分で脚本もお書きになる。
そして『ディア・ドクター』(2009)と本作は、原作の小説もご自分で書いたもの。
本作の原作に関しては山本周五郎賞と直木賞の候補にまでなったのですから。
『ゆれる』(2006)の暗く重たいイメージが強かったのですが、
本作はユーモアもちりばめられていて、とても温かい作品となっています。
あの広島カープの鉄人・衣笠祥雄と仮名で書けば同姓同名の衣笠幸夫(本木雅弘)は、
名前に多大なコンプレックスを持っている。
ペンネームは津村啓。人気作家としてメディアからも引っ張りだこ、大活躍中。
そんな幸夫と長年連れ添ってきた美容師で妻の夏子(深津絵里)だが、
ふたりの間には子どももなく、夫婦関係はすっかり冷え切っている。
それでも、皮肉ばかり言う幸夫に夏子は変わらずあっけらかんとした態度。
ある日、夏子が高校時代からの親友・大宮ゆき(堀内敬子)とバス旅行へ。
夏子を送り出した幸夫は速攻で愛人の福永智尋(黒木華)を自宅へ招き入れる。
ところがその日、バスの転落事故により、夏子が死亡する。
悲しみに襲われることもなく、どうすればよいのかわからない幸夫。
罪の意識を感じる智尋は幸夫のもとを去り、ひとりぼっち。
何もかも妻まかせだったから、家の中は荒れ放題に。
メディアに向けて「妻の死に悲嘆する津村啓」を演じることだけは忘れない。
そんな折り、遺族への説明会でゆきの夫・陽一(竹原ピストル)と出会う。
幸夫とは対照的に悲しみも怒りも露わにする陽一。
ひた隠しにしてきた本名なのに、「幸夫くん」と陽一から呼びかけられ、
関わり合いになるまいと思う幸夫。
しかし、陽一は幸夫と妻の想い出を分かち合いたがっている。
それになんとなく応えてしまった幸夫は、トラック運転手として働く陽一が、
まだ手のかかる子ども2人を抱えて途方に暮れていることを知る。
小説のネタになるかもしれないと考えた幸夫は、
子どもたちの世話を買って出るのだが……。
モックン演じる幸夫は最初はとんでもなく嫌な奴。
それが徐々に良い奴になるなどという素直な展開でもありません。
観ている側にも彼が何をどう考えているのかわからないけれど、
本人だって自分が何を考えているのかわからなかったはず。
妻の死と向き合わず、他人の子の世話にいそしむ幸夫に対して、
池松壮亮演じるマネージャーが吐く言葉が突き刺さります。
その言葉のみならず、そうだよとうなずきたくなる台詞がいっぱい。
心の内にあった思いが幸夫の中から少しずつ言葉となって現れる。
そしてやっと気持ちの整理をつけはじめる。
夫婦愛を感じる映画なんかじゃありません。
亡くなった人を思い偲ぶなんて映画でもありません。
そこにはもう愛情なんてなかったけれど、
その事実に目をつむることなく生きてゆく。
「自分のことを大事に思ってくれる人のことを簡単に手放しちゃ駄目だ」。
すごく良かったです。