夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ボヴァリー夫人とパン屋』

2015年08月08日 | 映画(は行)
『ボヴァリー夫人とパン屋』(原題:Gemma Bovery)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ファブリス・ルキーニ,ジェマ・アータートン,ジェイソン・フレミング,
   イザベル・カンディエ,ニールス・シュナイダー,メル・レイド他

TOHOシネマズ梅田で『ミニオンズ』『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』を観て、
テアトル梅田へ移動。この日いちばん面白かったのはこれでした。

フランスのノルマンディー地方。
熟年のマルタンは、長らく勤めていたパリの出版社を退職、
故郷であるこの地に戻って、父親のパン屋を継ぐ。

穏やかだが単調な毎日がすぎてゆくなか、マルタンの唯一の楽しみは読書。
特にギュスターヴ・フローベールの『ボヴァリー夫人』が大のお気に入り。
19世紀半ばに発表されたこの小説は、
田舎で平凡な結婚生活を送る若い女主人公エマ・ボヴァリーが、
不倫と借金の末に追い詰められて自殺するまでを描いた作品だ。
飼い犬にギュスという名前を付けるほど、
マルタンは『ボヴァリー夫人』をこよなく愛している。

そんなある日、向かいの家にイギリス人夫婦が引っ越してくる。
彼らの姓はボヴァリーで、夫はチャーリー、妻の名前はジェマ。
小説のボヴァリー夫人と一字違いの、向かいに住むボヴァリー夫人。
なんという偶然かとひとり興奮するマルタン。
しかも近所づきあいを始めてみると、ジェマはエマさながらの奔放さ。
マルタンはすっかりジェマから目が離せなくなる。

やがてジェマの前に、勉学のための避暑に訪れた美青年エルヴェが現れる。
チャーリーの目を盗み、ジェマとエルヴェは情事を重ねるように。
このままでは彼女が小説と同じ運命をたどってしまう。
そう思うと気が気でないマルタンは、なんとかふたりを引き離そうと画策するのだが……。

皮肉なユーモアに満ちていますが、悪意は感じられず、痛快。
あれこれ妄想するマルタンの頭の中が目だけで表現されているかのようで、
その豆鉄砲を喰らったようなまんまるお目々が可笑しいです。
そういえば、先日の女子会で「鳩が豆鉄砲を食ったような目って言うけど、
日常で使うことはない言い回しだよね」という話になりましたが、
マルタンの目はまさにそんな感じ。

ここ数年、オッサンやオバハンの妄想系作品には辟易気味の私ですが、
本作の妄想は自分がどうにかなろうという妄想ではないのがいいところ。
彼女にひそかに欲情はするし、嫉妬に駆られはするものの、
自分が彼女の相手になるという妄想ではないのです。
分をわきまえた妄想とでも言いましょうか、そこがさらに面白い。

ジェマ役のジェマ・アータートンは、『アンコール!!』(2012)で歌の指導に当たるエリザベス役、
『ランナーランナー』(2013)の秘書レベッカ役も印象に残っている女優さん。
ものすごい美人というわけでもフェロモン全開というわけでもないのが逆にイイ。
そばかすが似合う、適度に官能的な女性で、男性陣が骨抜きにされるのも納得。

終盤、その骨抜きにされた男性たちが並んで歩く後ろ姿の寂しいことよ。
それでも性懲りもなく……というオチがまた可笑しくて。
パンもめちゃめちゃ美味しそう。

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