夜な夜なシネマ

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「死」と向き合うということ

2007年07月06日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
伯母の命があと数日と聞いたとき、
思い浮かんだいくつかの映画があります。

フランスの鬼才、フランソワ・オゾン監督の『ぼくを葬る』(2005)。
「葬る」は「おくる」と読ませています。
ファッション業界で活躍する31歳の写真家ロマンは、
突然、余命3ヵ月を宣告されます。
自分はどう生きるべきかを冷静に考え、家族には事実を隠し通すことに。
ゲイである彼は、最愛の恋人にも冷たく別れを切り出します。
人知れず、海辺で死を迎えるラストシーンは美しすぎるほど。
孤独なのに、孤独を感じさせません。
ロマンが唯一、病を打ち明ける祖母に大女優ジャンヌ・モロー。
彼女の台詞、「今夜、おまえと一緒に死にたい」がグッと来ます。

カナダ/フランス作品の『みなさん、さようなら』(2003)。
父親と疎遠になっている証券会社勤務のセバスチャンのもとへ、
末期癌の父親の死期近しと、母親から連絡が入ります。
二流大学の教授だった父親は女癖が悪く、
それまで家族はさんざん迷惑を被ってきました。
そんな父親のことなど今さら知るかと思いつつ、セバスチャンは帰郷。
明るく楽しい病室にしたいという母親の頼みを聞き入れ、
セバスチャンは父親の知人友人集めに東奔西走します。
最期が近づいても、相変わらずマイペースでわがままな父親。
父親に振りまわされるうち、
周囲の人びとが自分の生き方を見直してゆくのが面白いです。

伯母を想うとき、最初に頭に浮かんだのが『八月の鯨』(1987)でした。
往年の大女優、ベティ・デイヴィスとリリアン・ギッシュが姉妹を演じています。
当時ふたりは79歳と90歳(実年齢は一回り上のギッシュが妹役)。
老姉妹の60年来の習慣は、小さな島の別荘で夏を過ごすこと。
8月になるとやって来る鯨を見るために。
昔は美人だともてはやされた姉のリビーは
病を患って目が不自由になってからというもの、人間嫌いに。
すっかり皮肉屋になった姉の面倒をみる妹のセーラは、
どんな状況下でも明るく無邪気。毎日に感謝しています。
そんな彼女たちと、別荘近くに住むやはり老いた人びとの、
夏のある日を描いた静かな静かな物語。

来年は見ることができないかもしれない鯨。
でも、今年が最後になっても悔いはない。
海に吸い込まれるかのようなふたりを見ていると、
私の中では、リビーとセーラ、どちらも伯母に重なり、
「本当に、何も思い残すことはない」、
その言葉が強がりではなくて、本心に思えました。

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