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伯母のこと(その1)

2007年06月20日 | まるっきり非映画
今日は映画と関係ない話をさせてください。

私には大正生まれの伯母がいます。
7人の兄姉妹を持つ母の、長姉であるその伯母は、
2005年に倒れて以来、病院に留まり、
もうじき息を引き取ろうとしています。

生涯独身を通し、マンションにひとり暮らし。
ハイカラで旅行好き。海外へ行くこともしょっちゅう。
世間でインターネットという言葉が常識となった頃、
英文タイプに慣れ親しんでいた伯母は、
パソコンなんて自分にとってはお手の物だと思ったらしく、
「インターネットをしてみないと死ねない」と言い出しました。
届いたパソコンを嬉々として触ってみましたが、
まずマウスが上手く使えません。

自分に操れて当然だと思っていたパソコンが
まったく言うことを聞いてくれなくて、
伯母はイライラし通しでした。
自分ができないのは私の指導が悪いせいだとばかりに、
パソコン教室に通い始めましたが挫折。
生協のお兄ちゃんが指導を試みるも、すぐにお手上げ状態に。

そしてようやく、高齢になってからのパソコン操作は
意外と難しいと悟ったらしく、やけに素直になりました。
「何度も教えてくれてるのに、すぐに忘れてしまってごめんね。
私がアホやから、ようできんでごめんね」と。

できることだけしよう。当たり前のことですが、
お互いにそう思ったらイライラすることもなくなり、
ふたりのパソコン教室も楽しくなりました。
あれこれ操作はできないから、ここをクリックするだけね。
やがて、メールの送受信だけはできるようになりました。
ただし、ローマ字入力しかできません。
文字入力の変更の仕方をすぐに忘れてしまうから。

こうして、伯母から毎日、ローマ字メールが届くようになりました。
今日の阪神、がんばったねとか、
サヨナラ負けでけったクソ悪いとか。

「ローマ字だけのメールなんて、
みんな読みづらいって言わはるねん。
ちゃんと日本語で入力できるようになりたいわ」。
そう口にしたことも何度かありました。
「ここを押したらええだけやねんけどね」と言うと、
「そやったね。でも、また忘れるからええわ。
私はこのままローマ字で通すわ」と笑っていました。

今から思うと、ちょっと寂しそうな笑顔でした。
みんなができることだったんだもの。
兄弟姉妹のゴッドマザー的存在だった伯母は
できるようになりたかったのかもしれません。
ちょっとぐらいビシッと、覚えるまで言ったほうがよかったかな。

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