minga日記

minga、東京ミュージックシーンで活動する女サックス吹きの日記

NYものがたり9 [NY Stir Up! 誕生!]

2016年09月09日 | 
<NY Stir Up! 誕生!>

翌日さっそくフェローンから電話がかかり、私と利樹は彼の リーダーバンドに参加する事になった。またレゲエのバンドで 仲良くなったTbのジョッシュに誘われ<アマゾン>というハ ドソン川のほとりにある野外レストランで演奏したり、コロン ビア大学前の<ウエスト&ゲイト>という学生たちの集まる店 で毎週1回フェローンバンドで出演する事になり、私達はここで沢山 の音楽家たちと出会うチャンスが生まれた。


Josh Band @アマゾン

ある日、フェローンバンドに遊びに来て1曲だけ演奏したピ アニストがいた。白人(ユダヤ人)で小柄な人だったが1曲弾いただけで素晴らしいリズム感とテクニックを持っているのが 解かる。さすがNY!と思いながら握手を交わして別れた数日後、ドラムの本田さんと地下鉄コロンバスサークル駅でスト リートを演っていると「オ~、サチ!元気?」と声をかけてき た人が数日前フェローンに紹介されたピアニスト、クリフ・ コーマンだった。

「今度どこかで一緒にできるといいね。電話 してよ。」と私にネームカードを渡して人混みに消えて行く後 ろ姿を見ながら『彼にStir Up!のメンバーになってもらおう。』 利樹と私の意見が一致した。(クリフはのちにブラジル音楽の大家としてリオに住み、2014年、私たちをリオ、ベロオリゾンチのギグに招聘してくれることになるのだが・・・。)


クリフのブルックリンの自宅にて。


<つの犬到着>

ニッティングファクトリーでのギグの日がいよいよ近付いた。 スターラップのメンバーとしてまっ先に声をかけたのは、白 人レゲエバンド、ジャー・リーバイのところで仲良くなった ジョッシュ・ローズマンTb。ニッティングファクトリーのギ グにはトランペットのラッスール(デビッド・マレイオーケ ストラにも所属)も呼んで賑やかに3ホーンでやることに決 定。キーボードにはもちろんクリフ・コーマン。

家でリハー サルも行い、ストリートでチラシを巻いたり、NYフジテレビ やローカルラジオに出演したりと、できるかぎりの宣伝活動 を行った。

つの犬も日本から到着。彼にとって初めてのNYが エルドリッジという物騒な環境と変わった造りの家に驚きな がらも、持参した梅干しやお茶を振舞ってくれ、自分用のゴ ザまでいつの間にか調達している。さすが、つの犬だ!この生活 にあっという間に慣れてしまった。ジャー・リーバイとも私の 知らないうちに親しくなり、彼の家におみやげの〇〇◯を持って遊びに行ったりしている・・・・汗。けんの恐れ知らずの行動力に はさすがの私も完敗だ(苦笑)。



ニッティングファクトリー・ライブ当日、けんの為に本田さん がドラムセットをブルックリンから運んでくれ、私達はもちろん ジャッキーがタクシーでお迎え。「去年も来たよ」という若い ニ ュ ー ヨ ー カ ー の 青年 、Dちゃん、カメラマンの友人たち、そして ジャッキー、トマス・チェイピン(sax奏者)などなど・・・。ただ一人足りないのは多田さんだけだった。


ラッスール(TP)と。


トマス・チェイピンsaxと。





演奏後、高級なスーツをさらっと着こなし、美しい女性を従え た青年実業家風の黒人をシスターチャイナが紹介した。

「Thank you for coming.」と挨拶すると、彼は紳士的にお じぎをし「It's my pleasure.」とやさしく微笑み、<ジョージ・バ トラー/音楽プロデューサー>と書かれた名刺を差出し颯爽と 帰って行った。

「サチ、良かったわね。彼はビクターのプロデューサーでマイ ルス・デイヴィスやトシコ・アキヨシのレコードを沢山手掛けている人よ、とっても気に入ってくれたみたい。きっとビクターか らデビューができるわ、これから忙しくなるわよ。」

完璧にチャイナは舞い上がっており、私達はまるできつねにつ ままれたようだった。コンサートが終わってくたくたの私達に 「これからミーティングをしましょう。」とチャイナが私達の住 むアパートまで着いて来た。

しかし、英語でペラペラと自分の考 えを捲し立てるチャイナに圧倒されるだけで彼女の言っている意 味が半分も理解できない。それでもチャイナが語り続ける"アメ リカン・ドリーム"に夢見心地の気分は明け方近くまで続いた。(つづく)


NYものがたり8 [Against the racism concert]

2016年09月09日 | 
<Jah Levi と人種差別反対コンサート>

ステージに上がると観客がやんやの喝采でリーバイのバンド を待受けていた。おそらくスタンディングで200人はいるだろ う。レゲエのバンドで演奏するのは全く初めてだったが、バン ドの皆がとても優しかったので緊張することなく自由にプレイ する事ができ、ステージが終わるとリーバイは「次の仕事は2 日後のユニオンスクエアのフリーコンサートだけど、来れるか い?」すっかり気に入ってくれたようだ。チャイナも満足そう に笑っていた。


2日後の昼過ぎ、青空の下で行われたフリーコンサートは ユニオンスクエアの一角に停車された大型トラックがステージ で『アゲンスト・ザ・レイシズム(人種差別反対運動)コン サート』と題されたものだった。

地下鉄の駅を上がるとすでに 人が集まっており、体のでかい黒人ギターリストがハードロッ クを大音量で演奏していた。リーバイはオレゴンに農場を持 ち、ギグのある時だけ1年に何回かNYにやってくるのだがかな り人気があるようでファンも大勢いる。

観客が集まりだした頃、リーバイバンドの出番がやってきた。そもそも白人のレゲエバンドリーダーというのが珍しいのだが、メンバーは白人のピアニスト、ユダヤ系ドラマーとギターリスト、黒人のボーカル、ジョッシュ、ラッスール、そして日本から私、これぞまさしく『アゲンスト・ザ・レイシズム』。ステージに上がって私がソロを吹き終わると、観客は総立ちで拍手をしてくれた。



バックステージにライトバンが止めてあり、終わってからその中でリーバイは「今回のギャラはこれだけど。」といって私の両手いっぱいに極上〇〇をポンとのせ、唖然とする私に次回のギグの約束をしてその場からライトバンで立ち去っていった。チャイナも非常に満足した様子で「これからあなたのマネージャになるわ。まずいろんな人にあなた達の演奏を聴かさなくてはね。」と言って私をぎゅっと抱き締めてくれた。

<スイートベイジル乱入>

さっそく、精力的なシスター・チャイナの活動が開始した。 しかしチャイナの専門分野はジャズではない為、音楽的な内容には 殆ど口を出さないと約束してくれた。私達はメンバーとなってくれ る素晴らしいミュージシャンを見つける為にいろんなライブに出か ける事にした。

まずブルックリンの美術館で行われるジェリ・アレン(女性ピア ニスト)のフリーコンサート。この季節(夏)は日本で聴きたくて もなかなか聴けないような素晴らしいアーティストたちのフリーコ ンサートがあちこちで催される。ジェリ・アレンも世界で注目され ている素晴らしいピアニストの一人。野外ステージには1000人の ファンが詰め掛けていた。

メンバーはアンソニー・コックス(b) とフェローン・アクラフ(dr)のトリオ。フェローンは変拍子の曲 の上で伸び伸びとしなやかなドラミングを披露。やはりNYには凄 いミュージシャンたちがゴロゴロしているんだなァ。フェローンと は山下洋輔氏から以前紹介されていて一度だけ面識があったが「こんなしなやかなドラムと一緒に演奏してみた~い!!」改めて彼等の演奏に圧倒されると同時に、嬉しい期待で胸が高鳴っていた。


「ハーイ、サチ、今日の夜は何してる?日本から有名なピ アニストが来ているよ。」 絶好のタイミングでジャッキーに誘われるまま、スイートベイジル出演中の山下洋輔トリオに楽器を持って乱入する事 になった。

利樹とジャッキーと3人で夜のマンハッタンを SOHOに向かって歩きながら、ジャッキーは私のサックスを 大事そうに抱えてくれている。今日はジャッキーの休日、いつものイエローキャブはない。スイートベイジルの入り口に 着くとジャッキーは中には入らず、サックスを手渡してくれ た。

「Good Luck!」 山下さんに再会の挨拶を交わし、3ステージ目に乱入させて もらえる事になりふと振り返って見ると透明なガラス張りの店の前で嬉しそうにジャッキーがこちらを見ている。音は筒抜けだから、きっと外でもジャッキーには聴こえるだろう。 どうやらジャッキーは白人が多く集まる店には一歩も入らな いと決めているらしい。

スイートベイジルの3rdステージが始まる頃はすっかり夜 中になっていた。日本のライブと違って1stステージ開始時間 が9時過ぎ。そこから3セットというハードなもの、平日の夜中なので観光客もだいぶ少なくなったが、3rdステージは他の ギグを終えたミュージシャンが集まって来てセッションになる 交流の場でもある。

山下さんに紹介されステージにあがると フェローンがくりくりとした愛らしい目で笑っていた。セシル マクビ-(b)も優しく迎えてくれたが、緊張のあまり自分で 何を吹いているのか全くわからない。憧れのスイートベイジル で演奏してるんだ・・・。無我夢中でサックスを吹き、スイー トベイジルの店員たちや客達が大喜びしてくれている様子で はっと我に返った。ステージが終わるとセシルが紳士的に握手を求め、フェローンは抱き締めて「今度電話するから、一緒にやろう。」



彼との共演がこんなに早く実現するなんて.... きっかけを作ってくれたジャッキーに感謝!と外を見ると彼の 姿はもうそこにはなかった。(つづく)