その9.インドネシア、OPEC脱退を示唆
インドネシアのユドヨノ大統領がOPEC脱退の意向を明らかにした 。大統領は「国内の油田は枯渇しつつある。OPECにとどまるか、それとも再加盟するに相応しい生産量を回復するまでOPECから脱退するか、検討すべき段階にある。」と述べた。インドネシアはOPEC創立翌々年の1962年にメンバーとなっている。現在13カ国を数えるOPEC加盟国の多くが中東・北アフリカに集中している中で、同国は唯一東南アジアにある。
インドネシアのOPEC脱退問題は今回が初めてではなく、2005年にも同様のニュースが流れた 。この時はOPEC事務局の慰留工作もあり、同国は当面残留することとなった。インドネシア産原油は1999年の生産量132万B/D、輸出量78万B/Dをピークに、2004年にはそれぞれ109万B/D及び41万B/Dに減少していた。ガソリンなど石油製品の輸入量はすでに原油の輸出量を上回っており、インドネシアは実質的な石油輸入国に転落したのである。因みにその年の原油生産量はOPEC割当量の140万B/Dを大幅に下回っている。2004年前後は世界の石油消費は堅調で価格も上昇段階にあり、インドネシア以外のOPEC加盟国は割当量を上回る生産を続けていたにもかかわらず、同国のみは生産量が減退し外貨獲得のチャンスをみすみす見逃していたのである。
その後も生産量の減退に歯止めがかからず、2006年にはついに100万B/Dを割り88万B/Dまで落ち込んだ(以上の数値はいずれもOPEC統計資料2006年版による )。この数量は生産割当量138万B/Dの6割程度であり、割当量と実生産量の乖離は年々拡大しているのが実情である(上図参照)。これに伴い同国の石油製品輸入量も急増している。
これらの数値を見ればインドネシアがOPEC脱退を真剣に検討しているのは当然とも言えよう。OPECは生産カルテルであるが、「石油輸出国機構」の名が示すとおり名目的には石油「輸出国」のカルテルである。もはや「輸入国」に転落したインドネシアは「OPEC」の名に値しないのである。
インドネシアがなぜ輸入国に転落したか、その理由を専門家は同国の石油探鉱開発の停滞にあると指摘している。そしてその最大の原因は、石油開発行政が極めて非効率であり、また石油業界に汚職が蔓延し、外国企業の石油開発意欲をそいでいるためと指摘している 。つまり同国の石油生産の減退は資源量そのものの問題ではなく、人為的な問題が原因であると見なしているのである。勿論インドネシア政府も手を拱いている訳ではなく、最近では生産量回復のために種々の方策を講じている 。しかし石油の開発は探鉱から生産開始までのタイムラグが長く、増産投資の効果が現れるには数年以上かかると考えられるため、当面生産が低下し続けることは明らかであろう。
もはや石油の純輸入国になった以上、インドネシアとしては国際収支上、原油価格が安価であるほうが良いことは言うまでもあるまい。石油価格が高ければプルタミナ(国営石油企業)そのものは高い利益が出る。しかし国家全体でみた場合はマイナスである。ましていずこの産油国でもそうであるように、同国でも国内の石油製品の価格は補助金により低く押さえられている。従って原油価格が上昇すれば政府の補助金支出は増え、国家財政が圧迫される。今やインドネシアにとって原油価格は安ければ安いほど良いはずである。
現在消費国はOPECに対して原油の増産圧力を強めており、OPEC穏健派は増産のタイミングを見計らっているといわれる。しかし仮にOPECが増産を決議したところで、現在の生産枠すら達成できないインドネシアにとっては全く意味の無いことである。さらに実利的な側面で見れば生産枠に応じたOPEC分担金の負担もインドネシアにとっては見過ごせないはずである。同国は本年の分担金は支払い済みであり、従って脱退は来年以降と伝えられる。脱退するなら来年の分担金が決まる前、と考えるのが常識的かもしれない。
また昨年ガボンとエクアドルがOPECに加盟したことは、インドネシアが脱退しやすい環境を作ったとも言える。2年前の脱退騒ぎの時は原油価格が高値を目指し始めた時期であったためOPECの結束が重視され、インドネシアとしては勝手に土俵を下りることは許されなかった。しかし昨年2カ国が加盟し、さらに原油100ドル時代が定着しつつある現在では、石油輸入国となったインドネシアがOPEC脱退を言い出したとしても、他の加盟国から強い反対または引きとめの動きはなさそうだ。そして1993年に一度脱退し、今回再加盟したエクアドルのような例もある。
冒頭に触れたようにユドノヨノ大統領は「再加盟するに相応しい生産量が回復するまで」と述べている。OPEC各国はインドネシアのおかれた状況に理解を示し、将来の再加盟を含みとして同国の脱退を了承するのではないだろうか。
(第9回完)
(これまでの内容)
その8.原油120ドル時代に開催された第11回国際エネルギー・フォーラム
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前田 高行
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